第五十八話 絹ばぁと父
“あなたは妖怪ですか?”
そんな質問を人間から投げかけられ、固まったままの弾。
すると、その人間のおばあさんは大笑いをした。
「なんてね~アハハハハハ~冗談よ~」
“驚いた”
冗談だったか・・・。
しかし、そのおばあさんは、また驚く事を口にする。
「ねぇ、あなた弾じゃない?」優しく言う。
「「・・・ッ!!」」またも、絶句する弾。
さっきから、この人間は何なんだ。
「え、えっと・・・」いくら記憶を辿っても、この人間に心当たりはない。
すると、おばあさんは少女のように飛び跳ねて喜び始めた。
「やっぱりそうだ!
あなた、弾なのね!
こんなに大きく立派になって!」そう言って、次第に涙まで流し始めた。
「え、え・・・どういう事ですか?
お会いした事が・・・」弾は動揺するばかり。
「連さん・・・。
あなたのお父さんね、よくここへ来ていたのよ。
まだあなたが幼子だった時は、あなたを背中におぶって連れて来ていた事もあった」
「父が?」弾は、目をまん丸にして驚いた。
「えぇ、そうよ。連さんはいつもあなたの事だけを考えていた。
“あいつには、使命がある”とか言ってね、頑張って働いていた。
本当に立派なお父さんだった」おばあさんは、涙をぬぐった。
そして、おばあさんは、弾が手にしている
五行の書にそっと触れる。
「連さんはいつも、この本を読んでいた。
な~んにも書いていない、その本をいつも眺めていて・・・変な人ね、なんて思ったけど
今・・この見覚えある本を見て、弾が来たって気付いたのよ!」
人間には、何も書いていない本に見えるらしい。
「私の名前は絹よ、絹ばぁと呼んでちょうだい♪」
「絹ばぁ・・・。わかりました」弾はほほ笑んだ。
「私、今本当に夢を見ているようだわ・・いつか弾が来る気がずっとしていた」
そう言って隣へ座った。
「あ、いけない!私いきなりお喋りしすぎたわね!
きのこ汁、冷めないうちに食べてちょうだい!アハハハ」そう言って大笑いした。
弾は、ゆっくりきのこ汁をすすった。
「うん、とても美味しい!」
「でしょ!うちの名物ですもの!アハハハ」
絹ばぁは、本当に嬉しそうにしてる。
自分には記憶がないが、自分と会う事をこんなにも喜んでくれる人間が
この世にいたなんて、信じられない。
すると、絹ばぁの顔が少しだけ曇った。
「連さんはね、この森へ来た帰り道に事故で無くなった・・・
数日家を空けている。
弾が待っているから、急いで帰らないと!って話していた」
静かな空気が流れる。
「留守番をしていた弾がどうなったか私はずっと気になっていたの。
でも連さんは変わり者で、口数少ない男だったから。
住んでいる所も知らなくて・・・
ずっと、あなたが気になっていたの・・・だから今、本当に夢のよう」そう言って、またポロポロと涙を流した。
弾は、悲しい話しに飲み込まれないよう。
明るく返事をする。
「気にかけて頂いた方がいたなんて・・・
こっちこそ、夢のようだ。
父は、四六時中仕事の事ばかりだったが。
素晴らしい父でした。
父が亡くなってから、とても苦労しましたが。
父が残した記録や道具で、薬草を学びここへやって来ました。
しかし、さっき何故・・・あなたは妖怪?と冗談を?」弾は、心臓が止まるほど驚いた冗談とやらの意味を尋ねた。
すると、また絹ばぁはその質問に大笑いした。
「ごめんなさいね!
連さんったらね、この茶屋でいつもこの椅子に座って、不可思木の木を見上げていたの。
だから私は、何故いつも見上げているの?って聞いたの。
そしたら“まるで天空の神樹のようだから”って言うのよ」
―弾の瞳孔が開く。
「天空の神樹なんて、何の事だわからないでしょ?
だから、天空の神樹ってなにかしら?って聞いたの。
そしたら、終わりの樹木子の事だって言うの。
妖怪の世界では、終わりの樹木子の事を、天空の神樹と言うんだって・・・
そんな事言うのよ!
まったく変わり者でしょ~
だから、私は妖怪と結婚でもしたんですか?って言ったの!アハハハ
それから、連さんの事を冗談で妖怪さんって呼んでいたによ」
弾は、この話しを聞いて震えるように驚いた。
“天空の神樹”
それは、この妖怪の世界で触れてはいけない過去の黒い歴史。
誰もが傷ついた、血の歴史だからだ。
まさか、人間の口から“天空の神樹”とい言葉が出るとは。
出会ったばかりの、この人間には驚かされてばかりだった。




