第五十二話 悪夢の終わり
―焚火を起こした。
弾とくるみは、無言のまま茶々丸の手当てをしている。
死んじゃいない。
だが、いつもうるさい茶々丸は一言も話さない。
茶々丸の声がしない、それは世界を真っ黒に染めたような気分だった。
焚き火の近く、茶々丸を暖めてやった。
―この国の悪夢は終った。
だが、爪跡はあまりに深い。
久しぶりに静かに夜が終わろうとしている事。
それがせめてもの、救いだった。
―朝
茶々丸は、包帯をぐるぐる巻きにされ
まだスヤスヤと寝ている。
弾は、茶々丸の目の色、体の温度を確認した。
「弾、どうだ?」くるみは正座をして、不安げな顔で聞いた。
「うん、大怪我だが。
きっと大丈夫だ。そのうち目を覚ますよ」弾は少し疲れた顔で言った。
すると、茶々丸が寝言のようにうーうーと声を出した。
「茶々丸!?大丈夫か??」くるみが顔を覗き込む。
茶々丸の目に、弾とくるみの顔が映る。
だが、思うように体が動かない。
「アタ、アタタタタ~」茶々丸は顔を引きつらせる。
「茶々丸、動くな」弾は言った。
「茶々丸・・・平気か?昨日の事、覚えてるか?」くるみが聞いた。
すると、茶々丸は“えっと~”と言ったような顔をする。
「昨日・・・なんだっけ?」まだ、思い出せないようだ。
「おい、弾。茶入れてくれ!」いつもの茶々丸に戻った!
弾とくるみは、ふーと力が抜けたように笑顔になった。
「弾、少し休んだらどうだ?」くるみが言った。
「いや、大丈夫だ。ありがとう」弾は頭をボサボサッとかき、首をぐるぐる回した。
「昨日は怪我した奴等を、一晩中手当てしていただろ。
少し休んだほうがいいって。茶々丸の茶はオイラが入れてやるからさ!」くるみは気を使った。
千疋が暴れていた最中、病にかかった者たちが一気に叩きつけられた出来事。
その大人数を弾は一晩中手当てしていた。
「くるみもだろ。俺は大丈夫だから、くるみこそ少しでも休め」
くるみ、そしてアゲハやどん太郎も、弾と一緒に手当てをしていた。
そんな話しをしていると、アゲハとどん太郎がやってきた。
どん太郎は、獅子大丸の時と同じ。
まだ杖をついているが、もう大丈夫。
体の毒は抜けたようだ。
「おや、ねずみさん!もう目を覚ましたのかい?」アゲハが驚きながら近づいて来た。
「うん、もう話す事もできるんだ!」くるみは満面の笑顔で言う。
「そうかい、それは良かった!本当に良かったよ!
ったく、千疋の奴・・・」アゲハはそう言って、千疋を思い出し睨みつけた。
「ん?千疋って黒式の?千疋すげーカッコいいよな!俺、黒式の中じゃ一番だと思うな!大主大行列の時、そう思った!」何も知らない茶々丸は、無邪気に言う。
「・・・・・・!!??」返事に困る皆であった。
千疋を思い出して、目をキラキラさせている茶々丸に。
お前は千疋に殺されかけたとは言いづらい。
「えっと、しかし。弾、本当に何から何まで世話になった!」どん太郎は頭を下げた。
「いや、別に」そう言って弾は、皆に茶を出した。
くるみは、茶々丸に茶を飲ませてやる。
すると、アゲハは小声で千疋の話しをはじめた。
「千疋は牢へ送られたってよ。
沢山の犠牲は出たけど。他の黒式も、主様も、獅子大丸も、さっき様子を見てきたけど。
無事だった」
「それは、よかった」弾は目をまん丸にして言った。
あれほどの攻撃を受けた獅子大丸が無事だった。
よくぞ助かってくれた、弾は胸を撫で下ろした。
―すると、隣ではさっそく茶々丸の騒ぐ声が響いている。
「だ~か~ら~、千疋を弾がやっつけたんだって~何で信じないんだ~?」クルミが言う。
「弾がやっつけられるわけないだろ!相手は黒式だ!っつーか、何で千疋と戦うんだよ!」
「そ、それは~ちょっと色々あって、千疋を倒したんだ!
弾は、カラスになって一発でやっつけたんだぞー!」
「弾がカラスに!?何言ってんだ!弾はいつもカラスだよ!」
「もっとカラスになって、睨みつけたんだよ!」
「はぁー?もっとカラスに?さっきから、意味わかんねーな。
弾はな俺がいないと道草ばっか食ってる、はっきりしない奴なんだよ!千疋と戦う事なんて出来ねーよ!
早く、茶を飲ませろ!」
アゲハたちは、笑って茶々丸を見ていた。
―別れの時。
茶々丸は、まだ大怪我をしたばかり。
まだ休ませてやりたい所だが。
この町を出る事にした弾。
理由は、次から次へと手当てした者たちが礼をしにやって来る。
照れくさくて、さっそく旅を再開する事にしたのだ。
荷物を背負い、菅笠を被った。
「また、寄っておくれ。今度こそちゃんとお礼がしたい」アゲハが言った。
「んだんだ」どん太郎が頷いた。
「オラたちが作ったどんぐり煎餅持って行ってのコロコロ~」どんぐり坊やたちが、煎餅を渡してくれた。
「ありがとう!」
「じゃ、弾。気を付けて・・・達者でね」
「弾!この恩、絶対に忘れはしないだッ!」そう言って、どん太郎と弾は手を握り合った。
「では、またいつか」
そう言って、弾は歩き出した。
「みんな、またな」茶々丸も、懐から顔だけ出し、別れを言う。
「茶々丸!またなー!」
皆は、ずっと手を振った。
「行ってしまったね・・・」アゲハが寂しそうに言った。
「茶々丸の怪我が治るまで、しばらくここに居たらいいのにだ」
「皆が礼をしに来るから、きっと落ち着かないんだよ」アゲハは弾をよく理解している。
「それもそうか・・・弾は、そうゆうやつだ!」どん太郎は笑顔で言った。
弾の背中はどんどんと、小さくなって行った。




