第五十一話 地獄への扉を、見る時
開いた瞳孔、浮き出る血管。
千疋は怪物のように声を荒げると
目にも止まらぬ速さで走り出す。
まるで突風のように、弾へ向かって行く。
どんどん・・・どんどんと近づいて来る。
だが、弾は未だ目を閉じたまま
怒りの拳を握り締めていた。
千疋はますます声を荒げ、押し寄せてくる。
凄まじい勢いで、風を切る千疋は目がむき出しになる。
一体どうなってしまうのか・・
妖怪たちは呼吸をする事も忘れ、目を見張った。
すると
「俺を怒らせるなよ・・・・」弾が小さく呟いた。
―そして、閉じていた目を、ガッと力強く見開き
力強く千疋を睨みつけた。
・・・その目は、決して見てはいけない真っ赤な目をしていた・・・。
まるで地獄への扉のような弾の目を見た千疋は
「「「キャンッ・・・・」」」と、子犬のような声を出し倒れ込んだ。
さっきまでの姿がまるで嘘のよう。
叱られた子供のように、小さく丸まった。
「な、なんだ?何が起きたんだ?」
「千疋が急に倒れこんだぞ・・・」ザワザワとした空気が流れる。
一体、何が起きたのか。
弾が何かしたのか、誰もわからない。
「睨んだだけだ・・・弾は、指一本触れちゃいない。なのに千疋が倒れた・・・」
どよめく空気の中。
アゲハだけ、弾の力を冷静に見極めていた。
「カラスの目は見るなって・・・よく言ったもんだね」そう呟いたアゲハの目には、牡丹と弾の姿が被さって見えた。
怒りで、姿さへも変わってしまった弾は、元の姿に戻った。
そして、倒れこんでいる千疋の足元へ立ち、少しだけ千疋を見ていた。
千疋の腰袋には、あいにく月光の矢が刺さっていた。
自分がこの矢で主に選ばれるはずだった矢を、未練がましく持っている。
弾はその矢を取り、思いっ切り千疋の足元へ刺した。
主として選ばれるべき者の、足元に刺さる月光の矢。
これを千疋の足元へ、力強く刺してみせた。
だが、不思議な事に。
矢は千疋を拒絶するかのように、パリンと割れて粉々に散った。
そして、弾は言った。
「誰も殺さなければ、主になれる・・・そんな考え方をした子供の頃から
お前は主になれないと決まっていたんだ。
殺す事ができるのは、命だけじゃない。
心を殺す事も、同じ事だ。
お前は、白虎の心を一度殺した。
その時から、お前は決して主には選ばれやしない汚魂の持ち主だったんだ。
無駄な事に力を費やした、惨めな人生だったと
一生後悔するんだな」
そういい残し、弾はその場を離れた。
小さく丸まったままの、千疋はどんな気持ちであろうか。
そして、弾は表情一つ変えないまま茶々丸の所へ。
動かない茶々丸を、そっと救い上げその場を去った。
くるみも小走りで、弾の後へ着いて行った。




