第四話「変なやつ」
白火の村から出た弾は、またぶた猫茶屋へとやって来た。
相変わらず、ぶた猫はねずみを追いかけまわしていた。
「こらこら、食べ過ぎは良くないと言ってるだろ」弾はまたぶた猫を抱き上がて、横に座らせる。
「白火の村、行ってきたのかい?」茶屋のおばあちゃんがニコニコと話しかけてきた。
二人は白火の村の話しで花を咲かせた。
沢山の薬草が取れた事
そして、ある天才少女に出会った事。
ぶた猫は、弾の膝の上でいびきをかいている。
弾は白火の村で買った、白火大根を茶屋のおばあちゃんの渡した。
団子の礼に買ったのだった。
好物だと言っていたから。
おばあちゃんは、少女のように喜んだ。
何度もありがとう、ありがとうと、跳ねるように喜んだ。
ー別れの時。
茶屋のおばあちゃんはいつまでも、手をふっていた。
旅の道中、小さな出会いだったが
とても親切にしてくれた。
またこんな、出会いをしたものだと弾は思った。
弾は再び山道を歩き出す。
空には青空が広がる。
白火の村では、火山灰の空が広がっていた。
少しの滞在だったが、何だか青空がやけに久しぶりに感じた。
ーすると、その時だった。
「二度も助けてもらって、ありがとよ」
弾は誰かに話しかけられた。
「?」
弾は辺りを見回す。
「お前、いいやつだな。名前なんて言うんだ?」
また、誰かが話しかけて来た。
弾はおそろ、おそろ、自分の左肩を見た。
すると、太ったねずみが肩に乗っている・・・。
「ウワァ―!何だお前!」弾は驚いた。
「俺だよ、俺。あの太った猫に、追いかけられてた可哀想なネズミだよ」
どうやら、茶屋に追いかけられていたネズミのようだ。
小太りの、ひょうきんな顔をしたネズミ。
右肩には、稲妻のような模様。
とりあえず、変なやつ。
「妖怪だったのか・・・」弾はボソッと言う。
「俺が妖怪?何言ってんだよ!妖怪じゃねーよ!変なやつだな~!ハハハ」
「妖怪じゃないだと?そんな事いう妖怪がいるとはな、変なやつだ」冷めた目をする。
「俺はな、今旅の道中てなもんで。
そい言った面では、確かに妖怪なみにスゲーネズミさんよ」
「あぁ、そうですか。どうぞ旅を続けてくれ」そう言って、弾は肩に乗ったねずみを近くの切り株へ置いた。
だが、すぐに肩に戻ってきた。
「ちょっと、ここらで休憩中てなわけよ」ねずみは弾の肩で寝そべりながら言った。
弾は、何だこいつ?チッと言ったような顔をした。
「どうぞ、こちらでお休みください」面倒臭そうに、また近くの木の枝に、ネズミを置いた。
弾は、また山道を歩き出す。
”面倒そうなやつで、出くわしてしまった”自然と小走りになってしまう。
すると、またも
ネズミが、わら帽子の上からひょっこり顔を出し
「バァー―――――ッ!」と弾を驚かせた。
「ワァ――――!!!!」弾は飛び上がって驚いてしまった。
「へへへ、驚いたな」ネズミが弾をからかう。
”フッこんな小さなネズミに驚かされとは、不覚・・・”ネズミを睨む。
「お前の名前はなんだ?俺の名前は茶々丸だー!」
なんとも無邪気なネズミだ。
「んなー!何でついて来るんだ!今度付いてきたら、投げ飛ばすぞ」弾が怒った。
「わかった、わかったよ・・・
ちょっと聞いてくれないか・・・」ネズミは不安そうな顔に変わった。
「旅に出たってのは本当だ。だけど、山を出たのは、初めてなんだ。
こ、怖いんだ。
腹も減って、団子を盗もうとしたら猫に追いかけられるし・・・
ちょっとだけ、ここに居させてくれないか?
えっと・・・目的地が決まるまでだ!
それまで、少しだけここにいさせてくれ!頼むよ」
ネズミは左肩で、正座をして手を合わせて頼んで来た。
「ハァ・・・好きにしろ・・・ただし、すぐに目的地を決めるんだぞ」弾は諦めたように言った。
弾は、また山道を歩き出す。
「俺はこれから、北の方角に向かって進んで行く」弾は言う。
「りょうか~い」とネズミは団子を食べながら返事をした。
”ん?団子を食ってる?”
弾はもう一度、ネズミを見る。
ネズミは確かに団子を食べている。
「俺の団子だぞ!」昨日、茶屋のおばあさんから貰った団子をネズミが食べていた。
「なんだよ!一個ぐらいいいだろ!腹減って死にそうなんだって言ったよな!」ネズミが怒った顔をする。
「まったく、この泥棒ねずみが!」
「俺の名は、茶々丸だ――――!早く歩け―――!」
「自分で歩け―!」
ひょんな事に二人で道中進む事となってしまった弾。
二人の騒がしい声は山に響き、カラスはかーかーと鳴いていた。
弾は、黄乃松という都へ進む。
旅は始まったばかり、夢は始まったばかり。