第四十七話 祭りと狼
背筋が凍りつく・・・。
例えようのない、気配を感じていた。
祭りの音は、陽気に響く。
何も知らずに、皆は喜びだけに浸っている。
この祭りはぶち壊されてしまう・・・。
その事に気付いているのは、弾と獅子大丸。
そして、どん太郎。
弾と獅子大丸は、互いの目を見て黙っている。
“あいつ”がどう動くか・・・耳を立ててじっと待っていた。
―「ワオーーーン、ワオーーーン」
遠吠えが響く。
「はぁ・・・」弾は深くため息をついた。
“やっぱり、来たか”
嘘であって欲しいと願っていた。
すると、ある妖怪が月を指差して言った。
「おい見ろ!千疋がいるぞッ!」そいつは、嬉しそうに言った。
皆は月を見た。
木の上に立つ千疋の影が、月に写っている。
何とも派手な登場だ。
「千疋も祝いの祭りに来たんだ!」歓声が上がる。
何も知らない、妖怪たちは大いに盛り上がる。
祝う為にここへ来たわけではない・・・
弾と獅子大丸、二人だけが知っている。
―その時だった。
《ギュィィィーーーーンッ》
耳を塞ぎたくなるような音が鳴り響いた。
爪で鉄を引っ掻いているような・・・
腹の奥がよじれそうな、爆音だ。
《ギュィィィーーーーンッ》
皆耳を抑えた。
「な、何だこの音はッ!」
「いきなり、何が起きた!」皆は慌てふためいた。
すると・・・
どこかの妖怪が勢いよく空を舞い、地面に叩きつけられた。
皆は何が何だかわからなかった。
そしてまた
《ギュィィィーーーーンッ》爆音が連続する。
すると、また誰かが空を舞い地面に叩きつけられた。
この音が鳴ると、誰かが地面へ叩きつけられる。
誰もが理解し始めた。
だが、どうする事も出来ず、逃げる事すら頭によぎらない。
体が動かなかった。
「ギャハハハハハ!」その様子に、千疋は狂ったように笑った。
その姿を見て、皆が慌てふためいた。
あの千疋が・・・
不気味に笑っている。
誰もが黒式として完璧だと思っているからこそ、その姿は恐ろしく目に映る。
ついに千疋は、暴れ出した。
「ま、まさか・・・。
これは、千疋の仕業なのか・・・
そんな事ある訳がない」
辺りは静まり返る。。
《ギュィィィーーーーンッ》
だが、再び聞こえるこの音。
今度は皆が一斉に逃げ始めた。
ついさっきまで、笑い声で溢れていたこの丘は・・・
今は悲鳴と、逃げ惑う音に溢れた。
―「弾、すまん・・・また迷惑を」
獅子大丸が一言つぶやき、ゆっくりと立ち上がった。
毒にまみれた体、足はガクガクと震えていた。
獅子大丸は、拳を握り、震える足をぐっと踏ん張った。
そして千疋を睨みつける。
千疋と戦う気だ。
―だが、恐らく。
あの体では、とても勝てやしない。
獅子大丸もわかっているだろう。
しかし、止めはしない。
皆が獅子大丸は、次の主であると言う意味は
弾にも理解出来るからだ。
心も体も、立派な存在である事は間違えなかった。
弾は、獅子大丸を見守っている事しか出来なかった。




