第四十六話 獅子大丸
突然現れた獅子大丸。
杖を投げ捨て一体何をするのかと思ったが。
獅子大丸はゆっくりと腰を下ろし・・・
土下座をした。
「弾、私を、この国を救ってくれて
本当にありがとう」獅子大丸は、地に頭をつけ礼を言った。
あたりの妖怪たちは、どよめいた。
弾は立ち上がり獅子大丸を止めた。
「獅子大丸・・・毒はまだ体にあるんだ!」
“獅子大丸の顔は、まだシミだらけ。主になると言われた男が杖をついてやっと歩いている・・・”
獅子大丸の状況を見て、まだ事態は深刻と弾は判断していた。
千疋が、白虎の次に殺したかった男であろう獅子大丸。
毒の盛り方も半端ではないようだ。
それでも生きているのは、次の主といわれるほどの者だったからだ。
「あぁ、茶々丸くんたちにも安静に・・・そう言われたが、どうしても礼を言いたくて・・・ここへやって来た」獅子大丸は申し訳なさそうに言った。
薬配りをしていた茶々丸は、先に獅子大丸に会っていたようだ。
獅子大丸は、杖を拾いゆっくりと立ち上がる。
弾は木の根の椅子に座るよう、促した。
ゆっくりと椅子に腰をかけ、上がった息を整える。
獅子大丸の動きを見て、また祭りを盛り上がりを見せる。
すると、獅子大丸は誰にも聞こえぬように小声で話し始めた。
「実は先ほど、使者が来て、詳しい事情を聞いた。
毒の事、そして千疋の事を・・・」
千疋の事が知れたら、歯止めがきかなくなる。
これからも、千疋の話しが世に出回る事はないであろうが。
次の主と言われるほどの男だ。
獅子大丸にこの事実を伝えるの事は、当然であろう。
誰にも聞かれぬように、こっそりと弾に伝えた。
獅子大丸は、話しを続けた。
「まさかと思ったが・・・主様の目をあざむき毒を盛り続けるなど。
出来る者がこの世にいるなんて、想像もした事がなかった。
弾がいなければ、この先この国は破滅を迎えていたに違いない」
「自分はたまたま、薬売りをしている旅の道中。
紅あじさいの毒の香りに気付き。偶然が重なって答えに辿り付いた。
役に立てたのなら、嬉しい限りだ」弾は少し下を向きながら言った。
何だか礼ばかり言われて、弾はずっと困った顔ばかりしている。
「君に恩返しがしたい。何かあったら言ってくれ、いつでも力になる」獅子大丸は、力強く言った。
「ありがとうございます」
「私は君の母に会った事がある。君はなぜ旅を?」獅子大丸は弾に聞いた。
「真実の実を・・・探している」弾の目つきが変わる。
「あの、伝説の実と言われる・・・真実の実か!」獅子大丸は、驚いた顔をした。
そして、弾は自分の話しをした。
生まれた頃から、人間である父の話し。
真実の実を探す理由。それは父の言葉を手に入れる為である事。
獅子大丸も、牡丹と会った時の話し、今まで生きて来た人生の話しをした。
獅子大丸も昔、旅に出た事があると。
あまりにも広いこの世界で見てきた事。
獅子大丸の話しは、あまりに壮大で力強くて、弾は吸い込まれた。
目を輝かせながら獅子大丸の話しを夢中で聞いた。
これから続く旅に、力が入る。
獅子大丸との時間は、本当に素晴らしいひと時だ。
気付くと二人は夢中で語り合っていた。
みんなそれぞれ、祭りを楽しんでいる。
―だが、その時。
耳鳴りのような・・・
キーンとした音が耳につく。
そして、背筋がぞっとする感覚。
弾と獅子大丸は目を合わせた。
“この音は・・・”
だが、祭りは大盛り上がりで音に気付く者など
他にはいないように見える。
茶々丸もくるみも、楽しそうに踊り。
この丘に笑い声は響いている。
だが、弾と獅子大丸だけが凍り付いたように息を潜める・・・。
「いる・・・」
弾が小声で一言だけ言うと、獅子大丸も頷いた。
二人には、何かが存在している事がわかるようだ。
―場所は変わり
その頃、どん太郎は相変らず窓の外を眺めていた。
“今ごろ、皆で祝いの祭りで楽しんでいるだろう”
そんな事を考えながら、微笑んでいた。
時より胸を撫で下ろし、喜びを噛み締めている。
―そして、その時。
どん太郎も気付いた。
キーンという、耳につく音。
どん太郎は耳を澄ました。
どんどん聞こえて来る。
木の葉がこすれる音が・・・
泣いている声へと変わって行く。
そして、泣き声は悲鳴へと変わって行く。
あの日と同じだ・・・。
流行り病が起こる前に聞いた、あの木の葉の悲鳴。
何故今また聞こえる?
「あ、あ、あいつが・・・来る・・・・」
どん太郎の顔は青ざめた。




