第三十七話 牡丹
―夕暮れ時。
主屋敷では、今頃まだか、まだかと妖怪たちが集まっているに違いない。
もうすぐ十六夜祭りが始まる。
辺りは、真冬に似合わない生ぬるい風が吹きつけた。
不気味な夕暮れ時。
茶々丸たちは、今日も時間を忘れて薬くばりをしていた。
「戻ったぞーーー!」茶々丸とクルミが元気よく帰ってきた。
「おかえり、ご苦労様」アゲハが出迎えた。
「アゲハも戻っていたか!そっちの様子はどうだった?」クルミが聞いた。
「みんな、回復に向かっていたよ。しばらく飲むように薬もちゃんと渡せた。一安心って所だね」
「うん、一安心だ。弾の薬は本当にすごい!」くるみは満面の笑顔。少しずつ日常を取り戻せてきてる感覚を感じた。
「そう言えば、弾はどこだ?」茶々丸がキョロキョロと弾を探す。
「ちょっと出かけるとか言って、さっき出て行ったよ」
「ふ~ん」そう言いながらも、まだキョロキョロとしている。
「さぁ、日没だよ。もうすぐ・・・祭りが始まるね」アゲハは窓から空を見上げた。
すると茶々丸は素朴な質問をした。
「主は強いやつが選ばれるってのは、わかるけど。どうやって選ぶんだ?」
すると、皆が口をポカンと開けて驚いた。
「驚いた!ねずみさんったら、そんな事も知らないんだね。アハハハ」アゲハは驚いて笑った。
「え、え、え!みんな知ってるのか?」茶々丸は少し恥ずかしそうな顔をする。
どん太郎がその質問に答えた。
「主決めは、残光の矢で決めるだ。
残光の矢は知ってるか?」
「しらね」茶々丸は開き直って、鼻をほじる。
「残光の矢ってのは、月の力を吸収した魔の矢だ。
だから、月の魔力が極まる十六夜の晩に祭りが行われるだ」
「ふーん。矢でどうやって決めるんだ?やっぱり、矢を射るのがうまいやつか?」そう言って、矢を射る真似をしてみせた。
「アハハハハッ」皆は大笑い。
「何だよ!知らないんだから仕方ねーだろ!」茶々丸はぷいっとすねた。
今度はアゲハが主選びについて、説明をする。
「主屋敷には巨大な一本神樹がそびえ立っているんだけど。
その一本神樹を中心に、東西南北の空に向かい
四本の残光の矢が放たれる。
放たれた残光の矢は、その方角にいるより力の強い妖怪を4人見つけ出し、その妖怪の足元に突き刺さるのさ。
矢はどんな遠くにいる妖怪も、主になるべき力を持つ者を必ず探し出す。
だけど、どんなに強くても妖怪や人間を殺めた事がある汚魂の持ち主は絶対に選び出さない。
真の主を見つけ出すって訳さ」
この手の話しが大好きな茶々丸は、話しにのめり込んで行く。
アゲハは話しを続けた。
「そして、東西南北。
各方向から選ばれた、四人の妖怪たちは
その矢を持って一本神樹に集まるのさ。
そして、最後に一本だけ空に向かって矢が放たれる。
その最後の矢が、足元に刺さった者こそ主だよ」
「最後の矢を放つ時!
祭りが一番盛り上がるんだっ!」くるみが大興奮して言った。
「ぬ゛おぉ―――!すげー面白そう!!
俺も祭り行きて――――!!!!」やっぱり茶々丸も大興奮だった。
だが、茶々丸はすぐに現実に戻った顔をした。
「ハァ・・でもな・・・弾がダメだと言うんだ・・・面倒事に巻き込まれるってさ・・・
まったく怖がりで困った奴だよ」茶々丸は肩を落とした。
「確かに、祭りには物凄い数の妖怪が集まる。
面倒事に巻き込まれる事も多いだ。弾の言ってる事もわかるだよ」どん太郎は、慰めるように言う。
「確か・・・弾の母。
牡丹が主になった時も今日みたいな日だった・・・。
冬のくせに生ぬるい風が吹いて、何だか不気味な日だったよ」アゲハはそう言って、遠い目をする。
すると、茶々丸は物凄い形相でアゲハを見た。
目、鼻の穴、口を全開に開いて驚いた顔だ。
「ま、まさか・・・知らないのかい?」
「・・・・」茶々丸は物凄い形相のまま固まっている。
「弾の母親が主だったと・・知らないで一緒に?
誰だって一度は牡丹の名を聞いた事があるさ。
それに、弾の目を見ればカラスだって事わかるだろうに。
え、え?あんた今までどうやって生きて来たんだい?
まったく、ここまで世間知らずだとめでたいね」さすがにアゲハも茶々丸の世間知らずには驚きを隠せない。
茶々丸は、頭から湯気を出しパタリと倒れた。
弾の母親が主・・・?
この言葉が永遠とぐるぐる回っていた。




