第三十六話 圧倒的な闇
どん太郎は、震える手を握り締めながら話しを始めた。
「オラは妖力なんて全然なくて・・・
使者と言っても、主屋敷や庭の手入ればかりしているような下っ端だ。
これから話す事は、ある日の出来事。
主様はだんだんと体が弱られて・・・
次の主決めも、近いと思われ始めた
そんな頃の話しだ。
オラはいつも通り庭の手入れをしていただ。
そしたら・・・
どんぐりの木がワサワサ揺れ出した。
変な揺れ方だなーて思って、オラは見ていただ。
すると主屋敷にある一本神樹もワサワサと揺れ始めただ。
そうして気付けば、そこらじゅうの木の葉が一斉にワサワサ・・ワサワサって
まるで騒いでいるようだった。
そして不思議な事に。
木の葉がこすれる音は、次第に声へと変わっていっただ・・・
そ、その声は、こう言っただ。
“恐い・・恐い・・恐ろしい事が起こる”って
そう聞こえただ」
弾はうなずき真剣に聞いている。
「だけど、オラは気のせいかな・・・って思って最初は気にしないようにしていた。
だが数日後、主屋敷近辺の妖怪たちは変な咳や顔のシミが出来始めた。
そして、木の葉がこすれる音も・・・
声から、恐怖に怯える叫び声に変わっていっただ。
腹から出るような強烈な叫び声だ!
これはおかしい!絶対におかしい!って思っただ!
主様のお命が危ないって!
言い知れぬ予感がしただ!
そして、これは陰謀だと・・と直感で思っただ!」
肩に力を入れて話すどん太郎。
“信じてくれ”と必死な想いが伝わってくる。
「何故、陰謀と?」弾は尋ねた。
「わからないだ。
ただ、この流行り病は自然の理ではない。
あの叫び声を聞いて思っただ。
何の根拠もない話しだけど・・・
誰かの恐ろしい悪意を体で感じるだ。
そしてオラはこの事を、主様にもお伝えした。
主様の面倒申し上げるから、何が起きているかわかるまで
主様はしばらく身を隠された方が良いと・・。
だが主様は、前々から異変には気付いていたと。
だが、こんな時こそ主がいなくてはダメだと・・言っていた。
オラはわかってたのに!止める事が出来なくて。
気付いたら、ここまで酷い状況になってしまっただ。
アゲハにも大変な苦労をかけただ・・・」そう言ってどん太郎は頭を抱えた。
そして、弾はまた一つ質問をした。
「しかし、主の体が弱り始めた原因は何なんだ?
主決めは白虎が年老いてきた為だと聞いていたが・・・
流行り病にかかっている訳ではないのか?」
どん太郎は天上を見上げるように、その頃の事を思い出した。
「確か~主様の体が弱られてからは・・・
弱い姿を見せたくはない、そう思っていたのかな。
いつも虎の面を付けていただ。
シミがあるかは、わからないだ」
「なるほど。
どん太郎の話しを聞いて、確信した。
実は、俺もこの事は“陰謀”だと思っていた」弾はさらりと言う。
その言葉を聞くと、どん太郎は目をまん丸にして驚いた。
「だ、だ、弾もそう思っていたのか!」
弾は静かに頷く。
「しかし、こんな事が他の者に知れたら、祭りが大混乱になり歯止めが効かなくなる。
ここは、ひとまず二人だけの秘密に・・・」弾は小声で言う。
淡々と冷静に話す弾を見て
どん太郎は心の中で思った。
“弾、いつから、何を知っているだ?
すべてを見通すような目
これが、よく言うカラスの目なのか
“圧倒的な闇”そう呼ばれた美しき妖怪
これが、その血を継ぐ目・・・
そうだ、弾は彼女の息子
ならばきっと、最初から見抜いていたに違いない
闇に隠れる事などカラスの前では出来ないのだから”
どん太郎は弾の母を知っている。
“圧倒的な闇”そう呼ばれたその意味も。




