第三十五話 目覚める記憶、震える瞳
―朝
「弾!弾!起きておくれ!どん太郎さんが目を覚ましたよ!」
アゲハの声で目を覚ます。
皆で焚き火を囲ったまま、気付けば寝てしまったらしい。
「ハァ~ア・・・なに?どん太郎が目を覚ましたって?」茶々丸があくびをしながら言った。
「うん、言葉も交わせるほど回復している。すぐに知らせたくて」アゲハは興奮を抑えるように言った。
昨日まで言葉も交わせぬ病人だったどん太郎。
弾の薬を服む事、一夜にして会話まで出来るようになった。
とりあえず、皆でどん太郎の様子を見に行った。
家に入ると、アゲハの言う通りどんぐり坊やたちと楽しそうに話していた。
寝床に座ったままだが、子供たちと戯れている。
どん太郎は、部屋に入ってきた皆に気付くと笑顔で出迎えた。
「弾・・だな?
オラと、皆の命を助けてくれてありがとう。アゲハから聞いただ。
そして、くるみ、茶々丸もありがとうだ」どん太郎は深々礼をした。
「いえ、どういたしまして。
だが、毒はかなり深くまで体中に行きわたっていた。
しばらく安静にしている事、そして数日間は解毒薬を飲んでいた方がいい」弾はどん太郎の顔色や、目の色、手の温かさなどを確認しながら言った。
「うん。わかっただ」どん太郎は、少し変ななまりがある、優しい話し方。
安静するとは言っても、子供たちが目を覚ました自分の父親に大はしゃぎでちょっかいを出してくる。
仕方のない事だ。やっと目覚めてくれたのだから。
部屋の中は昨日とはまるで違い、笑い声と子供の声で溢れている。
「こらこら、坊やたち。父さんはまだ静かにしていなきゃいけないんだよ!」アゲハが叱る。
「父さんはもう大丈夫だだー!」どん太郎はそう言って、子供たちとふざけて遊ぶ。
「ったく、仕方ないね」そう言って、アゲハは困ったように笑った。
そんな家族の姿を、弾と茶々丸とくるみは微笑ましく見ていた。
「弾、オイラほかの皆も見てくるよ!皆も回復しているといいな!」くるみが言った。
「よし、行くか!」そう言って茶々丸も背伸びをした。
「わかった。俺はもう当分の間の薬を作っておく」弾はそう言って、さっそく昨日と同じ作業に取り掛かる。
「あたしも行くよ」アゲハも立ち上がる。
すると、どんぐり坊やたちも
父親と遊ぶ事をピタッと止めた。
「オラたちも手伝うのコロコロ~」やっと父親が目覚めて嬉しい時だと言うのに、坊やたちは手伝うと言った。
その姿に驚き、弾は動きを止めた。
「んふふ、坊やたちは父さんをとても尊敬している。
どん太郎さんの真似をしてきっと格好良い所を見せたいのさ」アゲハは弾にこっそり教えた。
“そっか”心の中で思った。
「坊やたち!くれぐれも・・・」アゲハが、また子供たちに忠告しようとした。
「わかってる!主屋敷の近くは行ってはいけない!わかってるのコロコロ~」
―皆は薬を持ち、出かけて行った。
家には、弾とどん太郎二人。
弾は大人数分の大量の薬を作る。
大変な作業だ。
そんな弾の後ろ姿をどん太郎は見ていた。
そして、小さな声で弾に尋ねた。
「オラたちを苦しめていた毒は紅あじさいだと聞いただ・・それは本当か?
何故そんな珍しい植物がオラたちを苦しめたんだ・・・?」
「・・・」弾は手を止めた。
「弾・・・。
オラの話しを聞いてくれるか・・?
実は、誰にも言えない事があるだ・・・」
弾は薬を作る手を止め、どん太郎の顔を見た。
弾を見つめるどん太郎の目は瞳孔が開き、震えている。
子供たちと戯れている時とは打って変わって、まるで別人の顔。
それは、何かを知っている目だった。




