第三十四話 不安定な未来を抱えた夜
「げふ。あー腹いっぱいになった~」茶々丸は、大きくなったお腹をすりすりと撫でた。
大きな鍋に入っていた汁は空っぽだ。
みんなよーく食べた。
くるみやどんぐり坊やも満腹な顔をしている。
体もポカポカだ。
だが、時よりヒューと北風が吹き付け肌を刺す。
「うーやっぱり冬にはかなわねー寒みな~」そう言って、茶々丸は鼻水を拭いた。
そんな茶々丸を見て、弾は湯を沸かす。
「今、温かい茶を入れてやる」
だがすぐに、弾は何かを思い出したかのように手を止めた。
「あっ!そういえば・・・アレを忘れていた」
「ん?」皆は弾の動きに注目していた。
「えっと・・・どこにしまったかな」荷物をゴソゴソとあさる。
そして、荷物から何かを見つけ取り出した。
「あったあった。茶々丸、これを着ろ!」何やら折りたたんである布を茶々丸に渡した。
「ん?」茶々丸は、布を広げた。
それは、紺色のチャンチャンコ。
茶々丸の大きさにぴったりの物だった。
だが、茶々丸は少し不満そうな顔をした。
「んん?これ、人間の爺さんがよく着てるやつだよなー」
「刺繍が気に入って買ったんだ。裏側も見てみろ」弾は少し自信ありげに言った。
茶々丸はチャンチャンコを裏返した。
すると、金の糸で刺繍された龍の絵が目に飛び込んできた。
「・・・・!!」茶々丸は目をまん丸にして驚いた。黄金に輝く龍から目が離せない。
「気に入ってもらえたかね?」
「うん!これどうしたんだ?」茶々丸は息をのみ、生まれて初めてのチャンチャンコに袖を通す。
「黄乃松に、からくり人形屋があって。その人形が着ていた服だ。
赤鼻じーさんの事、村崎の旦那の事、花の事、そして今日・・・色々ありすぎて
渡す事をすっかり忘れていたよ」
黄乃松で差し掛かった、裏通り。
弾は不思議なからくり人形屋を見つけていた。
懐で昼寝をしている茶々丸に秘密で買ってやっていたのだ。
着る物がほしいと、言っていたからだ。
弾は荷物から手鏡を取り出し、茶々丸にチャンチャンコ姿を見せてやった。
茶々丸は、おぼつかない手で前帯を結び
しばらく自分の姿を眺めていた。
横から、後ろから、色々な角度で自分を眺めた。
そして
「ありがと・・・」少し恥ずかしそうに言った。
「どういたしまして」
「茶々丸、よーく似合ってるよ」アゲハが言った。
「オイラも、着物欲しいな・・・」ふんどし一枚のくるみが呟いた。
「くるみにふんどしを履かせたら、適うものはいないさ。ふんどしで十分」アゲハが言うと、皆が笑った。
「えー馬鹿にしてるだろー!でもオイラは寒さに強いから、堂々とふんどしで生きてやる~!」皆は大笑い。
そしてアゲハが改めて、茶々丸にお礼をした。
「茶々丸、今日は本当にありがとね。誰よりも懸命に薬を配ってくれていたね」
「当たりめーな事したまでよ」茶々丸は照れた。
「うん、茶々丸の声で何だか皆が希望を持つ事ができた。
明日の祭りはどうなるか心配だけど、弾と茶々丸のおかげで
こんなにほっとした気持ちで何かを食べたのは久しぶりだ」くるみはそう言って微笑んだ。
だが、弾は厳しい面持ちでこの先の事を話した。
「明日は、薬を飲んだ者たちの回復を見に行こう。
だが・・・紅あじさいは猛毒。
まだ油断は禁物。
そして・・・アゲハが言っていた獅子大丸・・・
明日の十六夜祭りには行く事は無理だと思っておいた方がいい」言わねばならない事だった。
―アゲハが言っていた。
“今回の主決めで、おそらく主に選ばれるであろうと言われていた獅子大丸って奴もこの病気になってしまってね。
私は次になるべき主は獅子大丸だって心から思っている。
この国を、命がけで守る。力ある使者だよ”と。
十六夜祭りに行けない・・・。
それは獅子大丸は主になる事はないという意味だった。
アゲハは黙ったまま、深くうなずいた。
―焚き火がパチパチと音を鳴らす。
皆は黙って、不安定な未来がどうなるのか想像していた。
明日はついに十六夜祭り。
どんな風がふくのであろうか。




