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明鏡の絵空事  作者: うちゃたん
3/91

第二話 白火の村

この一話は、長めになってしまいました。


とある、山の道中にある茶屋。

店の看板には「ぶた猫茶屋」と書いてある。



店を開ける準備をしている一人のおばあちゃんがいた。




「なんだか今日は冷えるね~天気も悪い。団子は多めに作っておこうか」腰をトントンと叩きながた独り言を言っていた。




山道を歩く者たちが休憩の場として利用するこの茶屋は天候が悪いと客も増えるのだ。

いつもより多めに団子を焼く準備を始めた。




「ごめんください、休ませて頂けませすか?」



弾がこの茶屋へやって来た。




「あれ、随分早いお客さんだね~まだ準備が出来てなくてね、何か飲み物ぐらいなら平気だよ」粉の付いた手を拭きながらおばあちゃんは言った。




「ええ、構いません。忙しい所申し訳ない」弾は店の中へ入る。店には甘くていい香りが広がっていた。




「甘酒の香りですか?」




「あぁ、そうだよ。飲むかい?」




「ええ、では、甘酒を」菅笠を取り、椅子に腰を掛けた。




茶屋のおばあちゃんは、心の中で思っていた。




真っ黒な髪と謎めいた雰囲気のこの男。

股旅を着ている男と言ったら遊び人のしょうも無いふらつき者ばかりだ。

不思議な旅人・・・おばあちゃんはそんな事を考えながら弾の事を見ていた



そんな視線には気づかず、ぼーと外を眺めていた。




すると、何やら弾の足元が騒がしくなった。


太った猫が、ねずみを追い掛け回している。




「こいつが、この茶屋の名前の由来である”ぶた猫か”」弾はクスッと笑った。




「こらこら、食べ過ぎは体によくないぞ」ぶた猫を抱き上げ、隣に座らせた。




頭を撫でてやると、猫はすぐにねずみの事など忘れ

ぐーぐーとイビキを立てて寝始めた。





そして、熱々の甘酒が出てきた。




「にしても、アンタ早いね。

このあたりは最近熊が出るからね暗いうちは歩かない方がいいよ。今日なんか天気も悪いしね宿を見つけて今日はやめておいた方がいいよ」




「熊ですか、町に近いのにめずらしいですね。確かに大雨が降る・・・明日の夜明けまでどしゃぶり。今日は茶屋も忙しくなるでしょうね」弾は甘酒をすすりながら言った。




「明日の夜明けまでかい、何でわかるんだい?」




「カラスが・・・そんな事を言っている気がしたような、なんてね」と弾は微笑む。



「あんた面白いやつだね。名前は何てんだい?」




雪村弾(ゆきむらだん)と申します。北の国から来ました」




弾は、自分の故郷である北の国を出て西の国へとやって来た。




「弾か、いい名だね。

あたしゃ西から出た事はないよ、旅人なんかに東やら南やら色んな土産話は聞くけどね。

その話だけであたしゃ十分旅をした気分だよ。

あんた見る所じゃ旅行ってわけでは無さそうだし仕事で長旅かい?」団子の準備をしながら、話しを続けた。




「ちょっと探し物をしていてね。この近くにある白火の村(はくびのむら)をご存じで?」




「あぁ、白火の村なら知ってるよ。野菜やきのこなんかは、白火の村から仕入れているからね」




「そこの村は特殊な村と聞いた事があったので、行ってみようと思っているんです」




「よく知ってるね、あそこは人が寄り付きやしない暗い村だけどさ。

あそこで採れる食べ物や薬草なんかは、特別だよ。

白火の村は一年中火山が降っていてね

その火山灰は植物に特別な影響を与えるって話しなんだ。


例えば薬草。

灰の中で育った薬草は通常の土で育った物と比べて効能が強くなるらしい。

例えば、そうだねー

毒を消す解毒薬を作ったとしたらさ

普通では死んでしまうような毒も消す事ができるって話しさ」茶屋のおばあちゃんは自慢げに話した。




「効能が強くなるか・・・」弾はつぶやく。




「あんた、あの村に行くんだね」




「ええ、行ってみようと思っています」




「村に行ったら白火大根ってやつを食べたらいいよ。最高に美味しくからさ!あたしゃあの大根が好物でね。

たまの褒美に食べるのさ」おばあちゃんはニッコリ笑って言った。




「白火大根ですか。覚えておきます」




「だけどさ。さっきも言ったけどさ、今日は早めに宿に行きな」




「ええ、お心使いありがとうございます。

美味しい甘酒をごちそうさま。おかげで体が温まりました」弾は銭を置き、菅笠をかぶった。





すると

「ちょっと待っておくれ」おばあちゃんが弾を止め、小走りで駆け寄ってきた。




「天気を教えてくれたお礼だよ、食べな」と言い団子の入った包み紙をくれた。




「自分に、団子を?」と聞かれると、おばあちゃんは頷いた。




「ありがたく頂戴します」弾は嬉しそうに言った。

そして、おばあちゃんは腰を叩きながら店の奥へ入って行った。






さっそく、白火の村へと向かう。

早く宿を見つけなくては。





店から出てしばらく歩くと「白火の村」という小さな看板を見つけた。




「ここが村の入り口か」




村へ進むにつれ、だんだんと霧深くなって行った。

その霧は進むほどに大粒の火山灰と変わって行き、やがて真っ白な景色になった。





ほんのわずかな先しか見えない。

やけに静かな村だ。




すると白い景色の向こうに、背中の曲がったおばあさんの姿が微かに見えたので追いかけた。





「おばあさん、こんにちは。この辺りに宿はあるかご存知でしょうか?」と尋ねると。





「あっちだよ」そう言って適当に指を差し、去って行った。





「ありがとうございます」と言ったが、聞こえているのやら。





弾はあのおばあさんが、適当に指を差した方へ進んで行った。




本当にこっちでいいのか?と思いつつ、半信半疑で進んで行くと、薄らと町らしきものが見えてきた。





進んで行くと、確かに町があった。





目の前には火山灰がシャンシャンと降るばかりの、色も音もない町が広がっていた。

町の中を歩いて行くと、立ち並ぶ店も見えてきた。

町行く人の数も以外と多い事に驚いた。




だが、何とも言えぬ殺伐とした空気が流れている。




“しかし、何も見えない”




弾は、また通りすがりの女の人に声をかけた。





「すみません、この辺りで宿はありませんか?」と声を掛けると、またも適当に指を差されただけで、女の人は無言で去って行った。




同じように、適当に指を差された方向へ進んで行くとすぐに宿らしきものを見つけた。





「あった」安心したように言った。




すると

「へい、らっしゃい。お兄さんは旅人かい?」声をかけられた。




「白火大根いっぺん食ってみな!うめっから!」この町ではめずらしく元気に店売りをしている男だ。





「これが白火大根ですか。では一つ」



茶屋のおばあちゃんが言っていた大根をさっそく見つけた。

確かに名物のようだ。




白火大根はとても細長い、薄ら赤身が差している大根だった。





「はいよ、今ここで食べな。部屋の中で食べたら大変だからな」と言われ、何故大変なのかと思いながらも、大根をかぶり付いた。




するとかぶり付いた所から大量の水分がドボドボと出てきた。



「おーう、勿体ない!兄さんその水を飲みな。その水がうめぇーんだ!」と言われ慌てて、その水を飲んだ。





「んーなんて旨い大根だ。少し梨に似ている、この水も大根の香りと甘みがあって、やみ付きになる味だ。こんな大根はめったい食べられない。もう一本買って帰ろうか」弾は言った。





「はいよ、まいどあり!」と、もう一本大根を渡さた。





「兄さん、今日は宿へ泊って行くのかい?」





「えぇ、この村の食材に興味があるので」大根を食べながら答える。




「へ~珍しいね、この村に寄りつく者はあまりいないからね。

村に寄ったとしても雰囲気が嫌なんだろうな、すぐに帰っちまう。

兄さんを歓迎するよ、うまい物いっぱいあっから楽しんで行きな」店の男は笑顔で言った。





「ありがとうございます」




弾は店を後にした。





“雨が降る前に、宿へ行っておいた方がいいか”





空の様子は火山灰でわからないが、今にも雨が降りそうな匂いがした。





するとそ、の時だった




「待てコラァァァァ!ぶん殴ってやる―――!」




当然大きな男の声がした。




弾は驚き後ろを振り返った。





すると小さな女の子が、さっきの大根を売っていた店の男に追いかけられていた。




少女は店の男に捕まるや、棒で叩かれた。

子供相手とは思えぬほど、何度も叩かれた。

町の人々は皆見ているだけ、助ける者は居なかった。




弾は走って駆け寄り少女をかばった。




「棒で叩くなどやり過ぎだ!」




「兄さん、悪く思わないでくれ。こうするしかねーんだよ」店の男は、悲しそうな顔と、うんざりした顔が混ざったような顔をした。




弾は少女を見た。




つんつるてんの着物、顔は真っ黒に汚れ、ボサボサになった団子頭。

大根を握りしめていた。

きっと貧しくて大根を盗み店の男は怒ったのだろう。

そして初めての事ではないのだろうと空気でわかった。




「お察しします。ですが、今日はこの変で勘弁してやってください。代金は私が払います」と弾は小銭入れを出し、店の男に銭を渡した。




店の男は複雑な顔で銭を受け取り、大根を盗んだ少女は走って逃げて行った。




村中の人々が弾を見ていた。

早くここから離れたいと思った。




すると今度は、老人が声をかけてきた。




「旅人よ、とんだ御無礼を」そう言って、頭を下げた。




「いえ、別に」弾が小銭入れをしまいながら返事をした。




「わしはこの村の村長、大村大吉と申す」



「はあ・・・」弾は軽く会釈をした。





「この村にはなかなか人が寄り付かない。来るのは野菜の買い付けなんかに来る者ぐらいじゃ。せっかく珍しい旅人が来ておるのに、村の印象を悪くする事ばかり・・・あ~ぁ~まったく困った子供だ」と言った。




「さっきの子供は腹が減っていたのでは?」





「大丈夫じゃ。あーやって盗んで食べとるんだから。

あの子供は・・・ほれ、親がアレなもんだから。気にかけてもらわなくて結構。

旅人よ、汚らしいものを見せてしまって申し訳なかった。


この村はとてもいい子で、優秀な子供が多いんじゃ。

村人も皆親切だしのう。なんか困った事あったら、な~んでも言っておくれ」



表情一つ変えずにベラベラと話す村長。弾は少し不気味さを感じていた。




「そうですか・・・」





「では、旅人よ。楽しんで行くと良い」そう言って、村長はその場を離れた。




「すみません、一つお尋ねしても・・」弾は何かを思い出したように、村長を引き止めた。




「私は、薬草を探していて、この村の薬草はとても良いと聞いてやって来ました。山の方へ取に行きたいのですが、たくさん取れる所があればぜひ教えて頂きたい」




「おーなるほど、なるほど。確かにこの村は火山灰が肥料となっているからすべての植物が最高の物だ」と自慢げに話を続けた。





「ほれ、あの小さな山が見えるかね?」と指を差した。





「あれが一年中、白い火を噴き、噴火しておる

白火の村の象徴となっておる山だ。

あの山に生えておる木はすべて穀の木(こくのき)なんじゃ。

だから山その物に栄養がたくさんあってのう、火山灰が良い肥料となっておるんじゃ」




それを聞いて弾はとても驚いた。




「穀の木とは驚きだ・・・

その木になる実はとても油分が多く、傷に塗ると驚くほど早く癒すと言われている珍しい木。しかもそれが山の全体に生息するなんて信じられない」





「そう、なかなか出会える木ではない。

だが、穀の実は残念じゃが、実りの時期ではない。

しかし、その山のふもとに行けば良い薬草もあると思うがね」





「貴重なお話をありがとうございます」と弾は礼をした。




「では、良い旅を」村長は去って行った。

何だか訳がありそうな村だが、情報が聞けて良かった。






ーごめんください!




弾は宿へ着いた。

せっかく客が来たというのに、宿の中は真っ暗でひと気がない。

弾は何度か、声をかけた。




すると、奥からのそのそとおばあさんが出てきた。

手には火を灯した蝋燭を持っている。

本当に真っ暗な宿だ。




「客かい?めずらしいね・・・こっちへ来な」そう言って、また奥へ戻って行った。




弾は急いで草鞋を脱ぎ後へ着いて行った。




「うちはこう見えて温泉があるんだ、入りな」そう言いながら、小さな部屋に案内された。




「ありがとうございます」





「風呂場はあっちにあるからね」と風呂場のある方向を指差、部屋を出て行った。





この町の人間は皆、適当に指を差すだけで適当

そしてぶっきら棒、だがそれも何だか慣れてきた。





弾は荷物を置きさっそく風呂へ入った。

ブクブクと泡を立てながら、湯にもぐる。


 


「ふ~疲れが取れる」




風呂から上がると、外はどしゃぶり雨になっていた。

宿の窓から、顔を出した。




秋の雨しだり。

雨の音は、なんだか心が落ち着く。




蝋燭にふっと息を吹きかけ、眠りについた。







ー朝




天気は良好。

弾はさっそく、薬草探しを始めた。




山に近づくにつれて火山灰は深く降り積もっていた。

草鞋は火山灰に沈み見えなくなっている。




「ふー、歩きずらいな。

だが思ったよりは灰が積もっていない。

植物が栄養を吸い取っているって事か」弾は考え深い顔で、独り言を言う。





灰の下に手を伸ばした


「やはり、灰の下には色々な植物が下にはあるんだな。

見えない分探すのは大変だが、まるで宝探しだ」




気合を入れ、薬草探しをはじめた。




いとも簡単に、いくつもの珍しい薬草が見つかり、弾は夢中で採っていた。





あっと言う間に、結構な量が取れた。

もっと採りたいのは山々だが、、歩き旅の最中。

持ち歩く事を考えると、そろそろ引き返す事にした。



弾は、手に付いた灰をパンパンと、はらう。




すると



「ん?」




弾は何かを見つけた。




丸っこい物が転がっている。

弾は手に取った。




「穀の実だ!信じられない」




村長と話した穀の実の事。

今は実りの時期ではないと聞いたが

落ちていた。




「すごい・・・」一言つぶやく。




大満足の薬草取りとなった。




帰り道、足場の悪い道を引き返す。



すると、向こうの方にぼんやりと人影が見えた。

こんな足場の悪い道、人がいるなんて。




川に掛かった橋のあたりで、どうやら子供らしき人影だ。

弾は足を止める。




うっすらと降りそそぐ火山灰の中、よく目を凝らして見ると大根を盗んだ子供だった。




橋の手すりに腰を掛け、どうやら絵を描いているらしい。




弾はこっそりと近づき絵を覗きこんだ。





「おや、これは見事な絵だ!」と弾は声を掛けた。




少女はハッと驚き振り返った。




「見るなー!」声を荒げ怒った。




「そんなに怒る事はないだろう

もう一度、絵を見せてくれないかい?」と聞くと、少女は困った顔でしばし立ち尽くしていた。




「怒らないのか?」




「怒る気も叱る気もないが・・・何でだい?」




「大根のお金は返せない・・・」と金を払ってもらった事を気にしていたようだ。




「返さなくていいさ。返さなくていい変わりに絵を見せておくれ」と弾はもう一度言うと、少女は絵を渡してくれた。





「これはすごい・・・本当に絵が上手だね」と弾は感心して言うと少女の顔は明るくなった。





「これはあの山の絵だよ!色は葉っぱとか、木の実とか見つけて、すり潰して色を付けてる」目を輝かせて話してきた。




「すごい!いつも絵を?」





「うん!お母さんに書いてあげてる」と照れながら話した。





「お母さんもさぞかし嬉しいだろうね。お母さんは君の絵をなんて?」と聞くと、少し顔が曇った。




「・・・お母さんは見れないの。

目が見えないから。

だから、いつかお母さんが目が見えた時に見せる」寂しい笑顔で言った。





「そうなんだ」弾もにこりと笑った。





「兄さんは、こんな場所で何しているの?」




「薬草や木の実を探していたんだ。沢山採れて大満足」と薬草を包んだ布を見せながら言った。





「薬草と木の実?何するの?食べるの?」




「薬を作る事が仕事でね。その為に薬草を取りにここへやって来た。ここは良い村だね」弾も腰をかけて話した。




「体をよくする仕事?すごいね!じゃぁ・・・お母さんの目も治せる?」と少しだけ希望に満ちた目で聞いて来た。





「ごめん。医者ではないから、それは出来ないんだ」




「そっか・・・」と残念そうに言った。





「目が見えないお母さんとはどんな暮らしを?腹が減っていたようだが、ちゃんと食べているのかい?」と一番気がかりだった事を聞いてみた。





「うん。食べてる・・・」答えたくない様子だった。





「それなら良かった。心配はいらないね」そう言って弾は立ち上がった。

深入りする気はない。




すると



「私は平気・・・でも・・・お母さん死んじゃうかも」



本当は助けてほしい、胸の内を少しだけ出した。




「なぜだい?」




「お母さんは三年前に目が見えなくなった。

それからずっと元気ないし、ずっと家で寝込んでいるよ。

大根はお母さんが好きだから盗んじゃった。

私が話しかけても、もうあまり返事もしなくなった。きっとこのまま死んじゃって、私は一人になるかもしれない・・・たまにそんな事考える」




「お父さんはいるのかい?」




「二年前、私が5歳の時に急にいなくなっちゃった・・・」大人の複雑さを感じた。





「そうか・・・よかったら君の家に案内してくれないかい?お母さんが大丈夫か見てみよう」





「えっ?本当に?

うん!私の名前は色葉(いろは)だよ!」




そう言って、色葉はぴょんぴょんと跳ねながら嬉しそうに自分の家を案内し始めた。




しばらく歩くと




「あそこが私の家だよ!」




木が生い茂った薄暗い所に、小さな家がぽつんと一つだけあった。

近づいてみると家は古く、障子は穴だらけの荒れた家だった。





障子の穴から中を覗いてみる。




部屋の中には、ちゃぶ台と布団が一枚敷いてあるだけ。

布団の上には、布で目の部分を縛り目隠しをして

げっそり痩せこけている女性の姿が見えた。

女性は壁にもたれてボーと座っていた。




「お母さん見えた?」とぴょんぴょんと跳ねながら色葉は言った。




「あぁ」とと返事をした




「色葉かい?そこにいるのかい・・・?」母親がダルそうな声を出した。




「いるんだったらさっさと返事をしな!喉が渇いたんだよ!水・・水を持ってきな!」


想像とは違い荒れた口調だった。




弾は小声で色葉に伝える

「色葉、自分の事は少しお母さんに黙っておいてくれないかい?お母さんに挨拶する準備をするからね」と頭をぽんぽんと触った。




「うん、わかった!お母さんにお水あげてくるね!」色葉は楽しそうに母の元へ走って行った。




弾は家から少し離れた場所で、火を起こし始めた。




そして風呂敷から少量の米と、土鍋を出し手際よく粥を作る準備した。

そして、土鍋を火にかける。




しばらくすると、すぐにグツグツと粥が煮立ってくる。

土鍋のふちから米の泡がふくまで・・・食べ頃を待つ。

お米の甘い香りが広がってくる。




“とりあえず、何か食べさせなくては”そう考えていた。




そして粥が出来上がる頃、色葉を呼んだ。





「これから君のお母さんに薬を渡してくるよ。薬を飲めばきっと元気になる。もう少しここで待っていてくれるかい?」




「うん!絵を描くための木の実を探しながら、待ってるね!」色葉は元気に返事をした。







“コンコン”戸を叩く。




「ごめんください」




「誰だい?」




「私はの雪村弾と申します」戸の向こうから、声をかける。




「何のようだい?」迷惑そうな声だ。




「旅の途中、娘さんと知り合いまして・・・大変お母様を心配なさっていた。私は薬売りをしておりまして」




「だから!何のようだい?」話を折った。




「まったく、困った子だよ。私の事は構わないで頂けます?大丈夫ですので」母は少し呂律が回っていなかった。




「体調が良くないと、伺いましたが。良かったら話していただけませんか?」




「・・なんの問題もないよ、帰っておくれ」母はかたくなだったが、弾は続けた。




「そうそう、粥を作ったのですが・・・良かったら食べませんか?どうぞ温かいうちに」




「お粥を・・・?あんた、目的はなんだい?うちには米代を払う銭なんてないよ」




「銭をもらおうなんて思っていません、どうか安心なさって。部屋に上がらせて頂きますね」そう言って、戸を開けた。




「ちょっと!あんた何なんだい?出てっておくれ!」部屋に入ってくる弾に、ますます声を荒げる。




「すみません、粥が熱かったもので・・置かせて頂きます」粥の器をちゃぶ台へ置く。





弾は、腰袋から薬草を取り出し、数種類の薬草を選び始めた。

何だかとても楽しそうに、涼しげな顔をして、薬草を選ぶ。




そして小さな小鉢を使い、草をすり潰し始めた。




「もう、いい。頼むから帰っておくれ。ったく、何なんだい」




母の言葉なんて気に止める事なく、弾は薬草をすり潰し続けた。




薬草の香りはたちまち部屋中に行き届く。

母はその不思議な香りに気が付くや、しばらく黙った。





「・・・これは・・・何の香りだい?」不思議そうに聞いた。




「薬草ですよ、今あなたにぴったりの薬膳を作っている。きっと気に入るはずだ」




香りは、すでに母の病に行き届く。





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