第二十九話 祭りの前の不穏な空気
駕籠の中にいる主が見えた。
主は虎の面を付けて、顔は見えないものの
その徳と威厳な姿は、黒式すら適う所ではなかった。
冷めざめとしていた弾も、白虎である主の姿には目が離せなくなった。
誰もが息を呑む、主の存在感だ。。
―そして、大行列は
目の前をゆっくり通り過ぎ、消えて行った。
「あーすごかったなー!大主大行列、見に行って良かったー!
くるみ、誘ってくれてありがとよ!」
「んふふ♪」くるみは嬉しそうにした。
凛とした空気の余韻がまだ少し残っている中
茶々丸は大満足の様子だ。
すると、その時。
見知らぬ誰かがこちらに手を振って声をかけてきた。
「おやおや、くるみじゃないか。
大行列を見に来たんだね。
相変わらず主の通だね」
話しかけて来たのは、長い黒髪の女。
着物は派手やかで、頭に蝶の髪飾りを付けている。
「まーねー。
アゲハも見に来ていたんだな!」くるみは照れながら言った。
「どんぐり坊やたちは昼寝の時間だからね、主の最後の仕事を見に来たよ。
しかし・・・今日はめずらしく連れがいるんだね」そう言ってアゲハは、茶々丸と弾を見た。
「あぁ、茶々丸だ」茶々丸を紹介した。
「どうも~」茶々丸は鼻をほじりながら挨拶をした。
「あと茶々丸が面倒見てやってる、弾だ」
「ど、どうも」弾も軽く会釈をした。
「へっあんたカラスかい?びっくりだね。
このねずみさんが、カラスの面倒を・・・?ん?よくわからないね」アゲハ首を傾げた。
「あ・あ・・・・」弾は返事に困ってしまった。
すると丁度良く、くるみが話題を変えた。
「ところで、どん太郎の様子はどうなんだ?」そう言って、くるみは顔を曇らせた。
アゲハも顔を曇らせ、首を横に振った。
「全然だめさ。悪化して行くばかり・・・かなり深刻な状態さ」
「そうなのか、こんな時に十六夜祭りだなんて・・・一体どうなるんだろう」くるみは小声で言った。
何やらアゲハは悩みを抱えている様子だ。
くるみもその事情を知っているようだった。
するとアゲハは、ハッとした顔をして自己紹介を始めた。
「あっ、自己紹介するのを忘れていたね、あたしの名前はアゲハだよ。よろしく。
まさかこんな所で、黒き妖怪さんに会えるなんて思ってなかったけどさ。
あたしは、カラス・・・嫌いじゃないよ」そう言って、微笑んだ。
「はじめまして、雪村弾と申します」
「人間の名か。面白いね」そう言って、ふふっと笑った。
その会話を聞いて、茶々丸は心の中で思っていた。
“やっぱりみんな、弾の目を見るとカラスだってわかるのか?”
前、弾が言っていた。
目を見ればカラスだとわかると、そして誰もがカラスの目を恐れるって事を。
茶々丸には、まだ理解できない事。
知らない事が山ほどだ。
“まーいい。カラスだろうと、たぬきだろうと弾は弾。
猫じゃない限り、どうでもいい話しだ”
茶々丸は心の中で、この話しを終らせた。
すると、アゲハは深刻な面持ちである話しを始めた。
「実は今、この辺りで大きな問題が起きてしまっている。
妖怪の世界ではありえない事なんだけどさ・・・」
事情を知っているくるみも、隣で頷いた。
“ありえない事・・・?”
一体何が起きてしまったと言うのであろうか。




