第二十五話 真夜中の思い出話し
―見慣れた景色がそこにはあった。
大きな背中、薬草をすり潰す音、不思議な香り。
開いた本が風でパラパラとめくれている。
目をこすりながら、しばらくその背中を見ていた。
「な~んだ、起きてたのか?」声をかけられた。
だから、起き上がり父さんの隣へ座った。
父さんが薬を作っている姿を見る事が好きだった。
薬を作りながら、いつも色々な話しをしてくれた。
薬草の事、人間の事、そして死んでしまった母さんの事。
俺は半妖で、母さんはカラスだって事。
どうやら、母さんは病気で死んでしまったらしい。
父さんが妖怪で、人間にはない力があれば母さんを救えたって
よく話していた。
―弾は、そっと目を開けた。
また、父さんの夢を見た。
同じ夢をよく見る。
すっかり目が覚めてしまった弾は、蝋燭に火を灯した。
荷物から、五行書を出しパラパラとめくり眺める。
一枚だけ破れた所がある。
そのページをなぞり眺めていた。
昔からここに何が書かれていたのか、気になる。
すると
「眠れないのか?」茶々丸が話しかけてきた。
「すまない、起こしてしまったか?」
「いや、俺も食い過ぎたせいか。なかなか眠れない、ゲフッ」そう言ってゲップをした。
「また、薬を飲むか?」
「あれ、まずいからいらない・・・。弾も食い過ぎで眠れないのか?」
「違うよ。
夢を見て、目が覚めてしまったんだ。
この夢を見るといつも目が覚めてしまう。
だから、薬草の勉強でもしようと思ってね」弾は本を眺めながら言う。
「同じ夢を見るのか?どんな夢なんだ?」
「父さんの夢だよ、父さんが生きていた頃の何でもない日常の夢」
「ふーん。確か弾の父さんは、人間なんだよな。いつ死んでしまったんだ?」茶々丸はグーと背伸びをしながら聞いた。
「俺が小さい頃だ、7つか8つの頃だったかな・・・」
「まだ子供だな」
「あぁ、まだ小さな子供だった。
母さんは俺が生まれてすぐに亡くなってしまって。
父さんしかいなかった。
人間の命とは本当に儚い・・・。
父さんが死んで
俺は、人間としての生き方も、妖怪としての生き方もわからずにいたから。
なかなか辛い日々だった」照れ笑いするように話した。
「そんな小さな子供がどうやって生きてきたんだ?」
「同じ村に住む人間が、哀れに思った俺に食べ物を分けてくれたりしていた。
だが、次第にそんな人間もいなくなったよ。
俺の周りにはいつもカラスがいたからな」
そして、弾は何だか遠い目をしながら
思い出話しを始めた。
「ある時。
俺を引き取ってくれるっていう、老夫婦が現れたんだ。
だけど子供だった俺は、どこかへ連れて行かれる事が恐ろしくて仕方なかった。
それで、迎えに来た老夫婦に対して俺は強い警戒心を持ってしまったんだ。
俺の警戒心に気付いたカラスは、老夫婦を一斉に攻撃をした。
それからだ、本当に一人になったのは
だが少しづつ成長して、何とか生きて来られたんだがな」弾は過去の笑い話といった顔で、微笑んだ。
「なるほど・・・そうだったのか・・それは大変だったな・・」茶々丸は深くうなずき、涙をぬぐった。
そして煎餅をバリバリッとかじった。
弾はすかさず茶々丸から、煎餅を奪った。
「まったく懲りないやつだ。また腹が痛くなるぞ!」
「なんだよ!おしゃべりには、煎餅が必要だろ!」煎餅を奪い返す。
「こんな夜中にダメだ!早く寝ろ!」また煎餅を奪い返す。
「腹は治った!よこせっ!」
煎餅の奪い合いはしばらく続いたが
二人は気づけば寝ていた。
真夜中の思い出話しは、おしまい。
―朝
紅葉の色は深まり、寒さもグッときつくなった。
雪もみじになるかもしれない・・・
そんな事が頭をよぎる寒さだ。
弾は荷物から獣の羽織を出し
白い息を吐きながら、緩やかな田んぼ道を歩いていた。
茶々丸は、羽織からひょっこり顔を出し
見慣れぬ景色を眺めていた。
数日過ごした、黄乃松を出て新しい場所へとまた旅が始まる。
川の冷たい水で顔を洗ったり。
茶屋を見つけて、甘酒を飲んだり。
怪我をしている動物を見つけては手当をしたり。
相変わらず寄り道だらけの旅だ。
今日も、茶々丸の下手くそな歌を聞きながら
のんびりと歩く。
すると、茶々丸は何かを思い出した様子で歌う事を止めた。
「そういえば!あの白いやつ!うまかったなー!!」
「白いやつ?
あぁ、あれは、甘酒という飲み物だ。冬は体を温めてくれる最高の飲み物だ」
茶々丸は茶屋で飲んだ甘酒の事を思い出していた。
「あの白さ~♪あの甘み~♪俺を包み込む優しい味~甘酒だってさ~♪」
陽気に甘酒の変な歌を歌う茶々丸であった。
すると、茶々丸は空に映る不思議な物に気付いた。
白いものが、いくつも空をうようよとしている。
あれは、一体何なのか・・・。
「うん?
おい・・・弾。
あの白い影はなんだろう?」茶々丸が空を指を差した。
「あ~妖怪たちが集まって来てるんだ。
明日は十六夜祭りが行われるらしいからな」弾も空を見上げた。
「十六夜祭りか・・」その言葉に、茶々丸は少し前の出来事を思い出した。
黄乃松で、赤鼻じーさんと出会った時。
カムイがこんな事を言っていた。
「西はもうすぐ、十六夜祭りが行われる。そんな時期に・・問題を起こしてくれて・・・
困った、天狗さんだ」と。
「十六夜祭りってなんだ?」茶々丸は質問した。
「主決めをする祭りだよ。
妖怪にとって、これほど大きな祭りはない。
だから、こうやって東西南北から妖怪たちが集まってくるんだ」
「主決め!?そんなにデカい祭りなのか??俺も行きたい!!」
「ダメだ。妖怪が集まる所など、面倒事に巻き込まれるのはごめんだ」
「行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!」茶々丸は真剣な顔で言った。
「ダーメーだ!行きたいなら、一人で行け!」
「薄情もの!薄情もの!薄情もの!」
茶々丸は諦め悪く、ギャーギャーと騒いだ。
すると
「おーーーーい!茶々丸~!」遠くから茶々丸を呼ぶ声がした。
“俺の名を呼ぶ声・・・?”
こんな見知らぬ場所で、自分を呼ぶ声。
空耳かと思ったが、どうやら本当に誰かが茶々丸を呼んでいるらしい。
弾と茶々丸は、辺りを見渡した。
一体誰なのか。




