第十九話 絶対に嘘を付かない
天狗の世界に伝わる、大事な話しが始まった。
天狗には、神と呼ばれた大天狗というものがいた。
大天狗の存在は、人間界にも名が知られている。
ある大昔の事。
まだ、神樹の縄張りもなかった時代じゃ。
妖怪も人間も色々な面で無知だった。
そんなある日、よーく雨が降る日があった。
その雨はだんだんと強くなり、次第に滝のごとくの雨となった。
雨は何日も降り続き、ついに何週間と降り続けた。
日に日に人間も妖怪も焦り始めた。
このままでは作物は無くなり、住む場所も沼とり無くなってしまうと。
だが、雨の止む気配はない。
数日、数十日と経っても雨はまったく止まない。
皆は空に向かって、ただただ祈るだけだった。
そこで、解決方法を知る為
大天狗は信実の実を手に入れるべく、旅へ出た。
それはそれは、空を越えるような、海をも潜るような
壮絶な旅となった。
そして苦労の末ついに、大天狗は手に入れたんじゃ。
金の実、樹の実、土の実、水の実、火の実、五種類の信実の実をな。
その実を使って、明鏡の絵空事を作ったんじゃ。
海たる知恵が備わる、薬を。
そして、大天狗は薬を飲んだ。
薬を飲んだ大天狗に、何が起きたかと言うと・・・」
天狗は話しをもったいぶるように、間を置いた。
「おい、早く教えてくれよ!」茶々丸は言った。
息を飲みを飲み、話しの続きを待っている。
二人が真剣に話しを聞いているのを確認すると、天狗は話しを続けた。
「薬を飲んだ大天狗は、どこからか聞こえてくる不思議な音に気が付いた。
その音は一体何なのか、どこから聞こえてくるのか。
音を辿って、さ迷い歩いた。
そして、たどり付いた場所は海だった。
海から聞こえるその不思議な音、それは海の歌声だったんじゃ。
その唄をよく聴けば。
不思議な団扇の作り方が唄われたいたのだという。
大天狗はさっそく、その歌の通りに団扇を作った。
そして、出来た物が天狗の葉団扇じゃ。
その団扇は大きな風を巻き起こし、空の雲さへ吹き飛ばす力を持っていた。
団扇を仰げば仰ぐほど、空には久しぶりに見る青空が広がった。
人々と妖怪は大いに喜び、平和な日々が戻って行ったんだと。
そんな、不思議な話しが天狗の世界では言い伝えられておる。
ワシ等天狗はこの言い伝えを、とても大事にしているのじゃ。
何故ならば天狗は絶対に嘘を付かない。
そういう一族じゃ。
だから、この話しも心から信じておる。
だがな残念な事に、大天狗は風を乾かし過ぎて。
人間からは火事を呼ぶ神と呼ばれている。
けしからん話しじゃ。
まー、そういう事で。
見た事も触った事もないが!信実の実は必ずある!
だから正々堂々と信実の実を探すがいい!
さぁー行くがよいッ!
希望に満ちた旅人よ!」天狗は声高々に言った。
少し反応に困った、茶々丸と弾だが・・・
「わかったよ、赤鼻じーさんの話しを信じるからな!」茶々丸が言った。
「あぁ、ワシは天狗谷で君たちの無事を祈っている!」そう言って、天狗は深く頷いた。
「いい話をありがとう。
真実の実は、必ず見つける。
そして、天狗谷が生き返る事を信じている。
では、また会う日まで。お元気で」
天狗こと、赤鼻じーさんとお別れ。
騒がしい出会いだった。
本当にくたびれるほど、迷惑な天狗だったが。
またいつか、会いたい。
そして、何の根拠のない信実の実の話し。
だけど、弾と茶々丸は信じた。
―天狗は絶対に嘘を付かない
この言葉が、何だか胸に突き刺さった。
「弾、行こうぜ!」
二人は歩き出した。
いつもの二人旅だ。
今日も良い天気。
大の都、黄乃松はまだまだ広い。
まだ、見てまわりたい店がたくさんあるのだ。
もう少し、この都にいる事となりそうだ。