第十五話 カラスは恐ろしい
ただならない気配。
天狗は、神樹の力を解いてしまった。
そりゃそうだ、ただならない事が起こるに決まっている。
弾は、何かが物凄い速さで近づいてくる事に気付き
天狗を吹き飛ばした。
一体何が起こったか理解ができない天狗だったが。
頬をかする矢に気付き、状況を理解した。
誰かが、自分に矢を放ったのだと。
弾が吹き飛ばしてくれなかったら、命はなかったかもしれない。
“そうか、この時がついに来たか”と、天狗はすぐに理解した。
天狗はゆっくり立ち上がり、空を見上げた。
それは空中にいた。
白い髪、白い着物を着た何者かが、こちらを睨みつけている。
その目は紫色をした、鋭い目だった。
「なななな、何だアイツ!矢飛ばしてきやがった!空飛んでるし、何だアイツ!」茶々丸はあたふたした。
「カムイ・・・また会ったな」背を向けたまま、弾は言った。
「えー?弾の知り合いか?どうゆう事だ?」茶々丸は、状況が把握できず、キョロキョロたじたじ。
「カラスじゃないか、こんな所で会えるなんて嬉しいよ。
旅に出たとは聞いていがな、肩にねずみさんの乗せて旅してるとは思わなかった!
久しぶりの再会、募る話しもある。
だがな、今はゆっくり話す時間はないんだ。
使者は忙しくてね、すまんよ」カムイはニヤつき、馬鹿にするような口ぶりだ。
「カラス????」茶々丸にはすべて理解できなかった。
頭が破裂しそうな茶々丸に、弾は静かに説明をした。
「アイツは俺の故郷、北の国の主に使える使者だ。赤鼻じーさんをひっ捕らえに来たんだ。
そして、俺はカラスだ」カラス嫌いの茶々丸に初めてこの事を明かした。
「・・・・!!!」茶々丸は大口を開けたまま、固まっていた。
「カムイ!天狗谷は絶滅寸前らしいな!主はそのことをどう思っている!
神樹の本来の目的は、豊かさを与える事だ!」弾はカムイに強く言う。
すると、カムイは腹を抱えて笑った。
「アハハハハハ~イアハハハハハ~!!!
馬鹿じゃねーの?
本当は、わかってんだろ?
今は国をデカくする事、それが一番大事なのさ」
この言葉を聞くや、天狗はカムイを睨みつけた。
「やっぱりそうか。平和だの、安定だの、綺麗ごとじゃ。
主が天狗谷へ来た時、主の顔を見た瞬間から本当はわかっておった。
国が繁栄する話しなんてしておったが。
主の目見れば、慈悲なんて無い事はわかった。
言葉にならない、汚い気持ちが伝わってきた。
わしら一族はな、本当にすべての命を救う事ならば!
自分の心臓を突き出したってかまわん!
誇りもって生きてる一族なんじゃ!」天狗は怒りを露わにした。
「天狗さんよ~
もうめんどくさい事は、やめようじゃないの。
恥ずかしくて、聞いてられないよ~
よりによって西の神樹も解いてしまうなんて・・・
北の国の罰が悪い。
西はもうすぐ十六夜祭りが行われる。そんな時期に・・問題を起こしてくれて・・・
困った、天狗さんだ」カムイは相変らず小馬鹿な態度を取る。
その頃、弾は心の中で少し違う事を考えていた。
近頃の旅の道中、熊が暴れる話しや、動物や獣が穏やかでないと聞く事が多い。
恐らく、天狗が神樹の力を解き、大地が不安定となった。
そして、自然界が暴れ出した。
確かに、天狗の話は不憫でならない。
だが、この狂って行く自然を見る時。
やはり神樹も必要なんだと、弾は考えていた。
―天狗と、神樹、どちらも救う方法はないのか。
そして、天狗は叫んだ。
「殺せッ!!こんな世界にもう用などないわ、殺せ―――ッ!!」
天狗の声はあたりに響き渡った。
カムイはニヤりと笑い、弓を構えた。
「では処刑します」
カムイの目は獲物を捕らえるように、鋭くなる。
―そして血しぶきは、空を赤く染めた。
天狗は、地面へとゆっくり倒れたる。
ドクドクと、大量の血を出し、薄れゆく意識を感じていた。
天狗は殺られた。
ーしかし。
カムイは弓を構えたままだった。
天狗へ矢を放っていない。
一体どういう事か。
何が起きたかわからない茶々丸は、とっさに弾を見た。
すると弾は血が滴り落ちる小刀を、布で拭いている。
“え、まさか弾が天狗を、切った・・”茶々丸の目にはそう映ってしまった。
まさかと思ったが、どーやら本当のようだ
。
「弾・・・何で?何で切ったんだよッ!」茶々丸の声に、弾は顔色一つ変えず冷めた目をしている。
茶々丸は、目の前にいる弾が何だか遠く感じた。
いつも優しい弾。
天狗の話しにも耳を傾けていた。
だが、いきなり切った。
そして、大嫌いなカラスだった。
茶々丸は、少しだけ、弾を疑った。
だって、もう天狗はもう動かない。
茶々丸の目に涙が浮んだ。
意味がわからなかった。
「アハハハハ~まったくカラスとは・・・恐ろしいやつだよ。
味方だと思っていたら、いきなり刺し殺すんだからな。
頭の中まで真っ黒で、何を考えているのか見えやしないよ。恐ろしや」
カムイは終始、肩を震わせ笑っていた。
弾は何故、天狗を切ったのか。