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明鏡の絵空事  作者: うちゃたん
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第十二話 神樹

「これはめったに手に入らない、樹木子(じゅぼっく)の苗」店の男が言った。



「樹木子とは、驚きだ」弾は手に取ってよーく見た。




「珍しい物好きがいる事を願って、売りに出したが・・・やっぱダメだな。人は縁起の悪いものには絶対手を出さないもんだ。

どうだい?兄さん安くするぜい」



弾は銭入れを出した。




「では、値段交渉だ」




「えっ・・・兄さん本気かい?とんだ珍しい物好きと出会ったもんだ!」




弾と店の男の値段交渉は始まった。

そうは言っても、誰も買わない木の苗だ。格安で譲ってくれた。




「何だから嬉しそうだな!その木がどうかしたか?」嬉しそうに苗を眺める弾を茶々丸は不思議に思った。




「樹木子の木、妖怪の世界では神樹(しんじゅ)と呼ばれている。

人間にとっては、災難を呼ぶといわれる嫌われた存在だ。

だが妖怪にとっては、これほど大きな存在の樹はない。

神樹の苗を見たのは初めてなんだが。

神樹の苗を酒に漬けると、良い薬酒ができるなんて話を聞いた事があってね。買ってみた」




「何で妖怪にとって、大きな存在なんだ?俺はこんな木がなくても困らないけどな」




「いーや、茶々丸だって大きく関わっている木なんだぞ。

東西南北すべての国は、この神樹によって守られているんだ。

その国の主が神樹の力を使い、国の秩序を保っている。

陰と陽を安定させ、国土に穏やかな風をもたらす。それが神樹だ」




「なに!?主がいるだと?」




「主がいる事も知らんやつがいるとはな・・・

茶々丸には驚かされてばかりだ。


この妖怪の世界は、東西南北の国々。

主、そして神樹。

この三つを中心に動いているような物だからだな」




「ふーん。まだまだ、知らない事ばかりだ!

俺だって弾と出会ってから、驚く事ばかり。

だけど、そんな大事な事を俺は知らないで今まで生きてきた。

そんな事は、大した事じゃないって事よ。

飯屋を探そうぜ!腹が減っては生きて行けないからよ!」





説得力があるのか、無いのかわからない茶々丸の言い分。

そんな話をしながら、二人はまた町の探索をする。




あっという間に時間が経って行く。

この町はとても広くとても一日では周りきれない。




そろそろ、茶々丸も眠たくなったようで懐で昼寝を始めた。

だが、弾はまだまだ町を見てまわっていた。




すると。

ある裏道にたどりついた。



人通りは少なく、薄暗い。

しかし店は立ち並んでいる。

まるで神隠しかのように、町並みは一瞬で表情を変えてみせる。

だが、こうゆう所に珍しい物が眠っているもんだ。弾は冒険心が高まった。




歩いてみると想像通りに、不思議な店ばかりだ。

からくり人形の店、見た事も無い楽器が売っている店、不思議な香りが広がる蝋燭屋(ろうそくや)もあった。

この不思議な裏道を、弾は一人で楽しんでいた。







ー夕方が近づく。

最近ではすっかり日が短く、気持ちが焦る。




「おい、茶々丸起きろ。もうすぐ日が暮れる、宿を探すぞ」大きなあくびをしながら茶々丸は目を覚ました。



「ん?もう夕暮れ時か!」



「暗くなる前に宿を見つけておかないとな。こんな広い都じゃ探すのが大変だ」




宿を探し始めた二人。民家が立ち並ぶ道に出た。




「こんな所に宿はあるのか?」




「店の人間に温泉宿がある場所を聞いておいた。この辺りで間違えないと思う」




「やっぱり弾はいい友達だ!俺が温泉好きだから、探してくれているんだな」茶々丸は目をキラキラさせて言った。




「茶々丸のためな訳ないだろ。俺は一日歩いて足が棒だ!」




「弾の口に出さない優しさを俺は知っている!」

あまりに前向きな茶々丸に、弾は呆れた顔をした。






―だが、一向に宿は見つからない。




「おい、弾。これって完全に迷子になってるよな・・・」茶々丸は少し不安そうに言った。




「困ったな・・・」弾は立ち止まり、当たりを見回す。

しかし、宿らしき物はない。





すると、木の枝に少女が立っている姿がたまたま目に飛び込んできた。




「ん?あんな所に子供がいる」




少女は高い木の枝から下を覗きこんでいる。

弾は声を掛けた。




「御嬢さん、怪我をしたら大変だ。降りておいでなさい」




少女は黙ったままだったが

弾はしばらく少女の反応を待った。



すると

「ほって置いてよ!」怒った顔をして少女は言った。




ほっておくべきなのか・・・。

考えていると、少女は話し出した。




「ほって置いてってば!あたいは本気だよ!父ちゃんに本気だってわからせてやるんだ!」




「何が本気かわからないが、もしや飛び降りるつもりかい?」弾は心配そうな顔で言う。




「にゃぶ・・・・・にゃぶを取り返してくれないなら。あたいは飛び降りるよ!覚悟はできてる!」少女は声を荒げて言った。




「にゃぶ・・?」




「あたいの大親友。みかん色の太った猫・・・父ちゃんが金持ちの息子にあげちゃったんだ!にゃぶ・・・あたいはいつだって、にゃぶと一緒にいたのに―――!」

そう言って、少女はもの凄い勢いで泣き出した。




「あ~あ、泣かせた~」茶々丸が冷めた目で弾を見る。

弾は困った顔をした。




「御嬢さん、旨いせんべいを買ったんだ。良かったら一緒に食べないかい?」弾は荷物からせんべいを出して見せた。




「お、お、お、俺のせんべいだぞ!」




茶々丸は自分のせんべいを守ろうとしたが

少女は勢いよく枝から降りて来てしまった。




降りてくるやいなや低い枝に腰を掛け、そして弾をじっと見た。

おかっぱ頭の少女は十歳くらいだろうか・・・泣きっ面で、ふて腐れた顔をしていた。




「せんべい!」少女は大きな声でせんべいを要求して来た。





「あっ・・・はいはい。どーぞお食べなさい」

弾がせんべいを渡すと、少女ばバリバリと音を立てて食べた。





「もう一枚!」食べ終わると、またせんべいを要求する。




「あっ・・・はいはい。

しかし、もうあんな危ない事をしてはいけないよ。父ちゃんが心配する。それに、あやまって死んでしまったら、にゃぶにも会えなくなってしまうよ」




すると、少女はまた目をウルウルとさせた。


そして、事の事情を話し始める。





「あたいは、いつもにゃぶと一緒にいたいだけ!

父ちゃんだって、家族は一番に守るべきだっていつも言っていたよ。

なのに・・・金持ちの息子がにゃぶを連れて帰りたいって言ったら、どうぞどうぞって渡しちゃったんだ!にゃぶは家族なのに!


金持ち相手に商売するのは大変だってあたいだって分かってるさ!

だけど父ちゃんは、にゃぶは金持ちに貰われて幸せだって!そんなの絶対違う!

父ちゃんひどいよ!ひどい・・ひどすぎる!」



そう言って、また泣き出してしまった。




弾は困った顔をしながら、少女を慰めた。


「なるほど、なるどほ。君は間違っていないよ。

にゃぶの事は、どうしたらいいかわからないが・・・

少なくとも、君は間違っていない。

そのまま真っ直ぐでいればいいよ。

君は、人を救える真っ直ぐな人間だと思う」




すると、少女はキョトンとした顔をした。




「それ・・・前に、にゃぶに言われた事がある。



金色の綺麗な紙で、小さな鶴を折ったの。

そしたら、、また金持ちの息子がその鶴をくれって言ったんだ。

あたいは、どーぞって渡した。本当は嫌だったけどね。



でも金持ちの息子はありがとうって言わなかった。

だから、ありがとうって言え!って言ったら・・父ちゃんがあたいの頭を叩いた。


悲しくて悲しくて・・・

にゃぶにこの事を話したら、あたいの事、間違ってないって。

真っ直ぐでいいって・・・言われた気がした。


ううん・・・確かににゃぶは言った!

にゃぶはいつも味方してくれた!

なのに・・・なのに、もういないよ・・・」ぽろぽろと涙が流れて行く。




「なるほど。にゃぶは優しい猫なんだね」





すると、少女は弾の懐がゴソゴソいっているのに気が付いた。




「あれ?服の中に・・ねずみが入ってる!」




茶々丸は少し恥ずかしそうに懐から出てきた。

心優しい少女に、挨拶をしようと思ったのだ。




「太った丸いねずみ!にゃぶに食べさせたいな~♪」




だがこの一言に、ビュンと聞こえてきそうな速さで懐へ戻ってしまった茶々丸だった。






「もう日が暮れてきた・・・父ちゃん心配するから帰らないと・・・」




「そうだね。気を付けてお帰り」




「兄さんありがとう。あたいの名前は花だよ、覚えておいてね、また会おうね。またお煎餅持ってきてね」




「あっ・・・はいはい。花、ではまた、」

少女は走って帰って行った。




花がいなくなると、茶々丸がひょっこり顔を出した。




「おい、聞いたか。俺の事食べさせたいとよ・・・」そう言って、走って行く花を睨みつけた。




「あぁ、聞いたよ。うけるな」




「うけねーよ。あんな冗談、ねずみには通用しない」




「冗談じゃなくて、本気だ!」




「煎餅まで食われて、踏んだり蹴ったりだーーーー!」茶々丸の声はどこまでも響いた。





―花とにゃぶ。

二人の絆が離れぬようにと弾は心の中で祈った。





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