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明鏡の絵空事  作者: うちゃたん
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第十話 二度目の別れ、来世の契り

別れの時。



平八じいさんは背筋をまっすぐ伸ばし、凛々しく立ち上がった。



おばあさんは優しい眼差しでまっすぐ平八じいさんを見ていた。




「では、おじいさん。こんな私でよければ、来世も結婚してくださるかしら?」おばあさんは、照れたように言った。





「仕方あるまい、わしがちょっと目を離すと崖から落ちてしまうばあさんじゃ。きのこ狩は二人の趣味じゃったが、来世はやめておくとしよう」最後の別れ・・・どこまでも明るく話そうとしていた。




「おじいさん、ありがとうございました」深くお辞儀をした。




「わしこそ、苦労をかける事も多かったが。ありがとう、ありがとう、ありがとう!!!」平八じいさんも、言葉を詰まらせながらも悔いのないよう一生懸命伝えた。




少しずつ、薄れて行くおばあさん。

ずっと笑顔だ。




もう、消えてしまうその時。

おばあさんの姿が、平八じいさんと出会った頃の若かりし姿に見えた。



その姿を見た瞬間・・・


走馬灯のように、おばあさんと過ごした生涯が駆け抜けた。




平八じいさんは、初めてドボドボと涙を流した。




「ばあさん、ありがとよ!楽しかったよ!最高の人生をありがとう!」





静かに夢は終わる。




―空言か、真か。どっちにしろ良い夢だった。





平八じいさんは、そっと目を開けた。

布団の中にいる自分、涙で枕はびしょ濡れだ。






「・・・・夢を?」弾がそっと声をかけた。





「あ、あぁ・・・何だか妙な夢を見た」気付かれないように涙を拭った。




「すっかり、寝てしまってすまんかっとの!」そう言いながら、平八じいさんはゆっくりと立ち上がり囲炉裏の前に座った。





「顔色も大分良くなった。これで一安心だ」弾は平八じいさんの目の色、顔の色を確認した。





「ありがとう。外はすっかり朝じゃの!雨はまだ降っておるんかの?」




「いえ、雨は止んで外は綺麗な青空ですよ。着物もすっかり乾きました」




弾は股旅姿(またたびすがた)に着替えていた。




「そうか、秋晴れは気持ちが良い。旅の道中の景色もそろそろ紅葉が深くなって綺麗じゃろうな。

弾、次はどこへ向かって行くんじゃ?」




黄乃松(きのまつ)という都へ向かう予定です。なんせ、寄り道ばかりの旅なものでなかなかたどり着けないが」弾は苦笑いをした。





「黄乃松か。しばらく行っておらんの。なかなか面白い都じゃよ。珍しい物がたくさん売っておるからのう。一日では見きれぬほど広い都じゃ。またより道しながら楽しんでくるといいよ」





「それは楽しみだ。

では、平八じいさん。そろそろ出ようと思います」




「うん、うん。弾よ、本当に世話になったの」




平八じいさんは、玄関口まで弾を見送る。




すると

「あっ!そうだ!ちょっと待っておくれ!」平八じいさんは何か思い出したように言った。






“あ!そうそう!そう言えば!

おじいさんの草鞋が古くなっていたから新しい物を用意していたんですよ。

いつも月裏屋のお饅頭を入れておいた戸棚に入っているから、使ってくださいな“




夢の中で、おばあさんがこんな事を言っていた。

戸棚に草履があると。




平八じいさんは、そっと戸棚を開けてみた。





すると、綺麗な草履が本当に入っていた。





「真の夢じゃった」平八じいさんは、小さく呟く。





そして、弾の所へ行った。




「弾、おぬしの草履はおんぼろじゃの。まだまだ旅は長い、持って行くといい」そう言って草履を渡した。




「え、こんな良い草履を」





「いいから!持って行くんじゃ!

そして、またこの村に来る事があったら是非会いに来てほしい」平八じいさんは微笑んだ。





「はい。では、ありがたく頂戴いたします。大事に使います」弾は頭を下げた。




光の花を通じて不思議にも出会った、弾と平八じいさん。

道の曲がりかど、弾は大きく手を振った。





「お元気でー!」

平八じいさんは大きく頷いた。






―また、いつか。




一人になった平八じいさんは、大きく背伸びをした。




「よーし!饅頭でも食って、村のやつらの顔でも見に行ってくっかのー」元気に声を出す。




“ばあさんに、心配かけちゃいけないからのう”心の中で呟いた。







ーその頃弾は。




山道を進んでいた。

枯れ葉道、紅葉は色づき始めている。

もっと色が濃くなる頃が楽しみだ。





「はぁ・・・俺腹減った・・・おい、弾なんか食わせてくれよ!」茶々丸がブーブーと言っている。



ちょうどその時、月裏の饅頭屋が見えた。




「饅頭でも食うか!」弾が言う。




すると、茶々丸は弾の左肩でぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。





店に入ると、今ちょうど一番名物の月うさぎの饅頭が出来たてだと言われ、弾は迷わず月うさぎの饅頭をお願いした。





紙に包まれた出来立ての饅頭。

真っ白な饅頭で真ん中にはうさぎの絵が焼印されていた。



ハフハフと白い息を吐きながら大きな一口。

もっちりとした皮の中に上品な甘味のあんこが沢山入っていて、真ん中にはホクホクとした大きな栗が一粒入っていた。



弾と茶々丸は歩きながら食べた。




「うめぇぇ~~!!!!」茶々丸は大喜び。



「うん、本当に美味しい」二人は幸せそうに食べた。




「おい、弾!茶をくれ!!」




「ったく。俺は、お前の使用人じゃないんだぞ!

饅頭に、お茶を出せとは・・・こんな生意気な子ネズミがいるとはな!」




「甘い物には苦い茶が合うって弾が教えてくれたんじゃねーか!弾だって熱い茶が飲みたいだろ!」



二人で進む道中、食べ歩きをしているせいで茶々丸がどんどん美食好きになって来ている気がする弾だった。




「ん・・・・・だが、確かに茶が欲しい」




そう思いながらも、茶々丸の言う事にも一理ある。

アツアツの茶が飲みたい・・・茶屋へ向かう弾であった。




寄り道ばかりの、二人旅。

食べ歩きの二人旅である。




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