序
―騒がしい手。
薬草を選ぶその手は、ガタガタと物音を立て
騒がしい。
お茶を煎じる事で、大事な事。
それは、質の良い薬草を用意する事。
そして、薬草に合う
最適な温度で茶を煎じる事はもってのほか。
何より、上質な土瓶と、薬草がこの上ない程に効能を出す瞬間を
逃さない腕と感が必要だ。
短すぎても、長すぎても、いけない。
この瞬間を、0.00001秒でも逃したら
それはただの、お茶にすぎない。
けっして”あの薬”にはならないのだ。
―土瓶の中、蒸されて行く薬草。
ふわりふわりと湯の中で踊っている。
それは、たちまちに不思議な香りを放ち出す。
例えようもない香りが部屋に溢れ出して
まるで香りに色が付いているようだ。
”ドンッ”っと湯のみを置いた。
ゆっくりと湯のみに煎じた茶を注ぐ。
そそぎ出る香りは、だんだんと形となり
不思議にも、まるで命があるような動きをしてみせた。
意思があるかのように
その湯気はスーッとまっすぐ突き進む。
その進む先にある物。
それは人の手だった。
早くその薬をくれと、せがむ震えた手がそこにあった。
「どうか、その香りを私に・・・・・・」
「焦らずに、ゆっくりお飲みなさい。そして、深い夢へと落ちて行くと良い」
香りはすぐさま、体を突き抜けて夢へと導く。
ーこの世界には、決して交わる事のない
2つの世界がある。
彼らはそれらを“向こう側”とよんだ。
この物語は、その2つの世界をを繋ぐ不思議な薬の話し
そして、その薬を作る事が出来る
たった一人の半妖の物語。