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異世界での友人(仮)が、全員人外な件

作者: 春草 鏡


「ねえ、こっち向いてください?」


 可愛らしいドレスを纏って此方を上目に見つめる、幼い少女。…否、女装した少年。

今日も上目遣い、バッチリ決まってますね!長い睫毛がとても羨ましい限りです。




「……ティンばかり、ずるい。こっちを向いて」


 いつもより文字数が多いね、シズリ君。相変わらず眠そうだけどね。

ちょちょっ、私の隣で立ったまま寝ようとしないで!膝貸してあげるから!倒れて顔面打ったら危ないから!




「私の方を向いてください。でないと、私は貴女に何をしてしまうかわかりませんよ?」


 えっ、なにこの子怖い。凛々しい顔して何てことを言うんですか、レイシル君!イメージぶち壊しにも程があるでしょう!やめて微笑まないで!怖いから!!




「オレの方を向いてくれよー、なあ!」


 貴方は相変わらず、ツンツンしてそうな見た目を裏切る残念さですね、ルート君!。見た目はツンな天使なのに!とても残念で仕方ないですよ!

…だから、スカートを引っ張らないで!!







「…もう、離れてくださいってば!!」


 膝で寝てしまったシズリ君以外の3人を、纏めて押し返す。小さな体は、それほどの抵抗もなく離れていった。が、再び距離を縮めてくる。


「なんで、ソイツだけなんですかあ?」

「全くです。貴女の膝の上で寝るなど、言語道断です」

「そうだぜ!オレも膝枕してもらいたいってのにー」

「…静かに!」


 途端にわあわあと喋り出した彼らを、小声で注意する。長椅子に座っている私の膝の上でスヤスヤと眠るシズリ君が起きていないか、そっと顔を覗き込んで確認。

幸いなことに、この煩さでは起きなかったようだ。小さな肩を上下させて、静かに寝入っている。

そのふわふわした水色の髪をそっと撫でれば、口元が僅かに緩んでむにゃむにゃと幸せそうに笑った。


「ぼくにもやってください」

「それなら、私だって」

「オレもオレも!頭撫でてくれよー」

「はいはい」


 小さく苦笑しながら、早く早く、と強請る彼らの頭を順に撫でていく。


「とっても嬉しい!ありがと!」

背中まであるピンクローズ色の髪を撫でると、花開くようにぱっと笑顔になるティン。

今日はハーフアップにされている髪はさらさら、控えめだけれど可愛らしい髪飾りがついている。


「……ありがとう、と言わないこともありません」

頬を染めながら、自分から強請ったくせに目をそらしながら言うレイシル君の髪は赤みの強い銀。

項できっちり結ばれ、毛先が僅かにうねるそれは、きちんと手入れされていて指がさらさらとすり抜けていく。


「ありがとう、ハナ!」

元気よくお礼を述べるルート君は、直毛だ。

混じりっけのない黄金色で、顎下で切り揃えられている。黙っていれば氷のように冷たい印象を受けるその顔は、今はとても幸せそうに緩みきっていた。


「どういたしまして」

その愛らしい様子に頬を緩ませながら答える。

皆はその年代の子供らしさ全開の行動と、たまにそれに見合わぬ言動で、私を慕っていると、全身で言ってくれている。

多少我儘だったりもするが、まだ可愛い範疇で、微笑ましいと言えるだろう。

今だって、少し前までは不機嫌だったのに、私が頭を撫でてあげたくらいであっさり機嫌を直した。真っ直ぐで、素直な子達である。

…たまに怖いことを言うが。

私の膝で眠るシズリ君も、普段はあまり喋らないが、態度で甘えてくれる。時々言葉でも直接ねだったりする。


 …こんな素敵な子達に出会えて、私は、とても幸せだ。


「…?どうしたの?」


 自然と浮かぶ笑みを見つけたティンが、不思議そうに小首を傾げながら尋ねてくる。

…か、かわいいっっ!!

い、いや、外見に惑わされてはいけない。見た目こそ天真爛漫、笑顔が可愛らしい女の子のようだが、正体は男の子なのだ。正確には、”男の娘”、だ。

どうして女の子の格好なのかを聞いてみたことがあったが、「趣味だよ!」と満面の笑顔で返された。だから特に疑問には思わない。思わないったら思わない!


 笑みを浮かべながら、シズリ君の頭をそっと撫でて、口を開く。


「今、とっても、幸せだなあ、って」


 そう言うと、みんなが目を見開いてこちらを凝視してきた。

同時にこっちを向くものだから、思わずびくっとしてしまったではないですか。

「ど、どうしたの?」

戸惑いつつ、首を傾げて聞いてみる。瞬間、ガバッとティンが飛びついてきた。勢いが良くて危うく潰れそうになった。ギリギリ持ちこたえて、背中をぽんぽんと叩いてあげる。

すると、ぱっと顔を上げたティンが、満面の笑みで叫んだ。

「ぼく達も、幸せだよっ!」

その本当に嬉しそうな声音に、自然と笑みが深くなった。

ティンの行動に呆気にとられていたレイシル君とルート君も、優しく微笑んでいた。

「ありがとう、みんな」

小さく呟いた言葉に、ぎゅっと返された抱擁。

温かく柔らかな体は、子供らしい体温だった。







 ……数ヶ月前、私は異世界に迷い込んだ。

高校生活最初の夏休みを控えた、曇り空の日。

朝起きて、ベッドから立ち上がり、クローゼットへ向かおうとした、その瞬間。

ぐらり、と視界が傾き、バランスを崩した体が床に倒れこんでいくのと同時に、私は意識を失った。


 目が覚めると、そこは見知らぬ森の中。どうにか道を見つけて歩いていると、ちょうど通りがかった馬車が数台あった。

見知らぬ場所で不安だった私は、人に出会えた嬉しさから、何も疑うことをしなかった。

言葉が通じた喜びに、周りを何も見ていなかった。

馬車の持ち主らしい優しそうなおじさんに頼んで、街まで連れて行って貰おうーーーー。

そう思ったのが、”運の尽き”だった。


 生温いが、清涼な香りのする水を飲ませてもらい、先頭の馬車の中で眠らせて貰った。

数日したら街に着くだろう、と言ったおじさんの言葉に頷いてそのまま私は眠りに落ちた。もう少ししたら、新しい生活を始められるかもしれない。そう淡い期待を抱いて。


 ーーしかし。目を覚ました私がいたのは、十数人の人が容れられた、檻の中だった。

足には鉄製の輪がつけられ、そこから伸びる太い鎖の先には、数秒かけてやっと一歩歩ける重さの、鉄球。

服は今まで来ていたパジャマのまま。かなり心許なかったが、それでも周りの人たちよりは随分マシだった。何故なら、彼らはその身に服一枚、纏っていなかったのだから。

その時、檻の外から私を見下ろした顔。

その優しげな笑顔は、私が乗せてもらった馬車の持ち主。

ーー正体は、奴隷商人の親玉だった。


 私は売られるのだと、男は人の良さそうな顔にニヤニヤとした笑顔を浮かべる。

その憎らしい顔に罵倒を浴びせかけるも、男は気にした風もなく、呼びに来た部下らしい男に着いて、立ち去っていった。


 数日間、私達は見世物にされた。

と言っても、通りに面する位置に置かれた檻の中で、おとなしくしているだけ。

同じ檻に入っていた他の人達は、ある程度時間が経つと、次第にその数を減らしていった。しかし、新たに連れてこられたらしい人達が檻に入れられ、そのうち数は戻った。

それをぼんやり眺めながら、私は誰に買われるのだろう、とぼんやり考えた。


 数日たった日、私は檻から出された。

屈強な男に腕に縄を巻き付けられ、引っ張られるようにして歩いていく。

連れてこられたのは、人気のない廊下の先の、小さな部屋だった。

そこにいたのは、私を檻に入れたあの男と、もう一人の老人だった。

真っ白な、金糸銀糸で縫い取りのされた裾の長い服。いわゆる神官服とでも言うのだろうか。静謐な空気が漂っている気がした。

顎髭の長いその老人は、連れてこられた私を見て、ふむ、と唸ったあと、おもむろにこちらへ近づいてきた。

何だろう、と多少警戒しつつ見ていると。


「??!!いっっ!!」

思いっきり、髪を引っ張られた。暴れようとしたが、体を押さえつけられていて、動けなかった。

しばらくして手を離した老人は、「これならいいだろう」と呟き、何やら重そうな袋を男に渡して、私に顔だけ向き直った。軽く顎をしゃくり、「ついてこい」とだけ言ってさっさと歩き出す。

私は、付いていくしかなかった。


 意外と質素な馬車に放り投げられ、走り出すとガタガタ揺れるそれに肩が痛くなった。

到着したのは、壮麗な白亜の建物。老人が近づいてきた青年に何かを告げると、彼はハッとしたようにこちらを見てから、慌てて建物の中へ駆け込んで行った。

意味がわからず呆然とした私は、あれよあれよと言う間に近づいてきた女性たちによって風呂場へ連れて行かれ、全身洗われて着替えさせられた。

その後再び馬車に乗せられ、辿り着いたのは、壮麗な建物の中。世界史の教科書などで見るような、まさに”お城”だった。


 そこで私は、この世界のこの国の国王と会った。大きな広間らしきところで跪かされ、聞かされたのは、”魔族との友好の為の使い”。

魔族の王が治めるという山向こうの土地へ、身一つで送られる。

要約すれば、”生贄”だった。

私を含めて5人いるその”生贄”は、全員が女性。異世界らしく様々な色彩を持つ彼女らは、誰もが美しい容姿をしていた。

約2日の準備期間の後、瀟洒な馬車に全員乗せられ、山向こうへと向かう。

悲しげな面持ちで座席に座る彼女たちは誰も、何も言おうとしなかった。


 約1週間を経て辿り着いた魔族の土地。

おどろおどろしいところを想像していたが、緑が萌え、木がのびのびと生い茂り、青空は広く晴れ渡っていた。

しかし、そんな風景には目もくれず、お城らしいところの広間へ私達を連れてきた兵士たちは、付き添ってきた代表の人が話し終え役割を終えるとそそくさと逃げるように帰っていった。


 置き去りにされた私以外の女性たちは顔を青くし、召使いらしき魔族のメイドたちに連れられ、次々と姿を消していく。

私に付いたメイドは、猫の顔をした魔族だった。


 数日間与えられた部屋で過ごす。メイド以外は誰とも会わない暮らしは、私に多少の落ち着きを与えた。


 そんな何も起こらない日が続いたある日。私は、1人の魔族と出会った。

薄桃色の緩くウェーブがかった長い髪をツインテールにし、大きな若草色の瞳をきらめかせた美少女。

”ティン”と名乗ったその少女は、見た目は完全に、”人間”だった。


「始めまして、人間のお嬢さん!」


 満面の笑顔に彩られたその顔は、心からの歓迎を浮かべた。

戸惑う私の手を取り、手の甲に軽くキスを落とす。されたことのない行為に動揺した私を微笑ましそうに見てから、仲良くしてね、と言った。

それが私と、ティンの出会い。


 その日から、ティンは毎日私の部屋に入り浸るようになり、私がその存在に慣れ始めた頃、新たな来訪者が訪れた。


「はじめ、まして」

ふわふわな水色の髪と、常に眠たげな黄金色の瞳を持つシズリ君。


「初めまして、人間のお嬢さん」

赤味の強い銀髪を首元でくくり、血のような紅の瞳を妖しく細める、レイシル君。


「初めましてだな!」

顎下で切りそろえられた純金の髪に、碧空色の瞳のルート君。


 それぞれ、淫魔族、夢魔族、エルフに、有翼族。

種族を名乗った彼らは、やはりというか、人間ではなかった。だがとりあえず、人間以外を魔族と呼ぶようだ。

みんな人間に近い容姿をしているため、それに慣れるのがわりとスムーズにいき、仲良くなるのは早かった。

今では、この世界で唯一の友達である。




 …友達、のはずだった。







「やっぱり、すっごく可愛いね…」

うっとりと耳元で囁く低い声。


「あったかい…」

すりすりと寄せられる滑らかな頬。


「どこも柔らかくて…」

肩を優しく撫ぜる、長く節ばった指先。


「声も、綺麗だよな」

膝の上から見上げる、眦の下がった瞳。


 剥き出しの肌の上を、指が、唇が、跡を付けるようになぞっていく。

身を捩るが、それらは離れてくれない。


「……んんっ!」


 くすぐったさに自然と漏れる声。

それでも、口を開いてはいけないと、私の反応を確かめるように触れていく指先に翻弄されながら、必死で押し留める。


「ふふっ。かぁわいい…」

突如視界に入った、若草の瞳。

瞳孔の開いたその目は淡く光り、愉悦を含んだ眼差しを私に向ける。滑らかな頬を縁取る薄桃色の髪は、邪魔にならないようにか肩でひとくくりにされ、櫛で綺麗にくしけずられて艶めきを増している。

シャープな頬から顎にかけてのラインを美しく魅せる顔は、伏せがちな瞳とあいまって”妖艶”そのものだった。

ふいに妖しげに瞬く瞳と間近でかちあってしまい、その不思議な引力に引かれて目をそらすことができなくなる。

愉快そうに眇められた瞳。やがてその長い睫毛を伏せて私の頬にキスを落とした”彼”は、身をずらした。


 その先に見えるのは、シャンデリアの煌びやか光で照らされた大きなホール。

人間に近い姿をした魔族たちが、人間のように煌びやかなパーティーを繰り広げていた。

そのホールと、今私たちのいる畳4畳分くらいの空間を遮るのは、黒いカーテンのみ。

若干透けているが、こちらの空間の方が薄暗いので、中で何をしているかまではわからない筈だ。

…いや、見られたら困るのだが。

ホールの中央では、演奏者たちの演奏に合わせて、男女が優雅に踊っていた。

その中には、幸せそうに微笑む元生贄の女性たちの姿もあった。

輪の外側にあるテーブルには、美味しそうな料理が所狭しと並べられ、目も舌も存分に楽しませてくれる。




「何を、考えているの?」

「……楽しそうだなって」

ぼんやりとホールを眺めていた私は、その声にはっと意識を引き戻した。

声がする方を振り向けば、薄目で此方を見つめる金色の瞳。少し高めの眠そうな声音とは裏腹に、何処か拗ねた表情で私を見ている。

私の温度が移ってほんのり温かくなった頬に、そっと右手を伸ばし触れた。

頬にかかった柔らかな水色の髪を耳にかけてやれば、その手をそっと取られ。

掌に、チュッと軽く音を立ててキスが落とされる。

「……僕たちだけ、見ていて」

上目に見上げられ、掠れた声音に、ぞくっと何かが背筋を走る。

思わずこくこくと頷くと、ふっと微かに表情を綻ばせ、また軽くキスされた。


 その伏せられた長い睫毛を見下ろしていると、不意に左手を取られ、膝を軽く叩かれた。

「私を無視するとは、いい度胸ですね」

「俺を、無視しないでくれよ」

冷ややかな声音と、懇願の響きがこもった声が2方向から順番にかけられた。


 見下ろせば、炎のように揺らめく紅と晴れ渡った空のような碧と目が合う。

薄暗い中で淡く輝く瞳は、まるで暗闇の中の道標のようだ。


「レイシル君、ルート君…」

そうポツリと呟くと、「はい」「なんだ?」とそれぞれ返してくれる。

けれど、私に触れる手は離さないままで。

「………っ、やっ」

つう、と素肌をなぞっていく指先に、小さく吐息が漏れる。

それを聞き逃さない彼らは、無邪気そうな顔をして、笑う。


「可愛いですね」

「色気あるよな」

同時に言った彼らは、同意するように頷きあう。

「だ、だから、やめて……!」

それでも止まらない指の感触に、私は思わず声を上げた。

それによって、全員の視線が此方を向く。


ある者は目を細めた妖艶な顔で。

ある者は何処か陶酔した眼差しで。

ある者は黒さの滲む涼しげな笑顔で。

またある者は、無邪気に此方を見上げて。


 誰もがあの頃の面影を僅かに残し、それでも確かに”違う”姿で。


「君が、好きで好きで仕方がないんだ」

「だから、許して」

「どうせ、もう帰ることなどできないのですから」

「オレたちが、愛してやるから」




『だから』




ーー愛して







 あの頃、1人部屋で過ごしていた私。

出会ったのは10歳前後の少年少女だった。

最初は彼らの扱いが分からず、戸惑うことも多かったが、徐々に慣れていき、この世界で唯一の知り合い、もとい友人になった。


 魔族は人間とは違い、幼児期の成長は極端に早く、ある一定の時期から成長が極端に遅くなる。

だから、彼らはあっという間に私の背丈を越し、声変わりを終え、姿も洗練されたものになって。


 ーーいつの間にか、”大人”になっていた。


 当初私はかなり困惑したが、しばらく経って彼らがその時点で成長が一旦止まったのを目にし、なんとか落ち着いた。

その後も変わりなく交流は進み、彼らの性格や特性をかなり理解した頃。


 ーー”元生贄”たちの為に、舞踏会が開かれた。


 その知らせが届いた時、彼らは私といた為、それを直に耳にした。

そして、私のためにドレスを作ってくれると言ったのだ。

驚いた私を華麗にスルーして、彼らは一斉に相談を始め、数日後の舞踏会にあっさり間に合わせた。

それがこの日。


 今日私は、彼らに想いを告げられた。


 あまりに突然のことに動揺する私に構わず、いやさりげなく気にしているが、彼らは怒涛の如く猛アピールしてきた。


 魔族は人間よりも性に奔放らしく、文字通り全身を使ってアピールしてくる。

勿論、私が”そう言う事”を容易にするような人間じゃないとわかってくれているので、触るだけだ。

あくまで指、または唇で、触れるだけ。


 私にはどれほどか見当もつかないほどの熱情を、その瞳に浮かべて。


 私は、彼らの事が嫌いではない。寧ろ、大好きである。しかし、これが”恋”かと聞かれると、どうにも言えない。

私は今まで、彼らを弟のように可愛がってきたのだから。今更その存在を塗り替えることは容易くない。

けれど、あまりにも真剣に此方を見つめるから、その大人になった顔立ちにときめいてしまう、…かもしれない。


 だから、私は素直に応えることにした。







「みんな、好きだよ」

その言葉に、動きを止めた彼ら。一斉に絶望を浮かべた瞳を見て、私は大いに慌てた。

「ち、ちがうの!」

「……何が違うの?」

掠れた声で、ティンが尋ねる。もう少女には見えないが、まだ少し幼げな顔立ちを残す彼は悲しそうに言う。

シズリ君もレイシル君もルート君も、みんな似たり寄ったりの表情だ。

私がゆっくり息を吸い込むと、空気を察して大人しくなった。


「……私ね、みんなのことが、好きなんだ」


 ティンも、シズリ君もレイシル君も、ルート君も。

みんなが、同じだけ好き。

優劣なんて無く、みんな同じだけ大切に思ってる。

元の世界に置いてきたものより、この世界の人たちより、貴方達の方が大切なの。

…この気持ちは、恋じゃない。

けど、貴方達の想いを受け入れることで、何かが変わる気がするの。

…だからそれまで、我儘かもしれないけど、傲慢かもしれないけど。

待っていて欲しいの。

みんなの想いに、いつか答えられるまで。


「………だめ、かな」

しん、と降りた沈黙の中で、私の小さな声がポツリと落ちる。

自分勝手だっただろうか。迷惑だっただろうか。

誰も何も言わない状況に、不安だけが積もる。


「……っ」

長い沈黙に耐えきれなくなった時。


ーーガバッ!


「……えっ」

突然私は、温かい暗闇の中にいた。

はな!」

私の名前を呼ぶ声が、耳元で聞こえる。

ああ抱きしめられたんだ、と何処か他人事のように思う。

「待ってるよ!いつまでも待ってる!」

そう聞こえたのは、ティンの声。

その声は、少し震えていた。


「きみが答えてくれるまで、待つ」

はっきりした声で言ったのは、シズリ君。


「そうですね。時間はたっぷりあるのですから」

そう楽しそうに言うのは、レイシル君。


「オレも!ずっと待ってるぜ」

弾んだ声で言ったのは、ルート君だ。


「……待っていて、くれるの…?」

問う声が、震える。

それに返ったのは、はっきりとした声だった。


「勿論だよ」


 ーーだってぼくらは、君に出会ったあの日から、君だけを見ていたんだから。


 その言葉に、涙が溢れ出る。

目の前の服が濡れていくが、それを気にも留めず、さらに強く抱きしめられる。


「……あり、がとう……」

…彼らに出会えて、私は幸せだ。

あの日失った全ての代わりに、こんなにも温かく優しい、大切な存在を手に入れた。

無くしたくない、唯一の宝物。




「愛してる、花」

穏やかで温かな若草の瞳。


「ずっと、側に居て」

いつも眠たげな黄金の瞳。


「私たちだけを、見ていてください」

鋭く情熱的な、赤紅の瞳。


「絶対、幸せにするから!」

希望の色をした碧空の瞳。




私はきっと、幸せになれるだろう。

こんなにも素敵な4人の魔族が、ずっと側に居てくれるのだから。





書きたくなったので書いたのですが、気まぐれすぎるせいで微妙な終わりに…。

誤字脱字等はご指摘どうぞー。

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