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常に学習

筆が進まない中、根性でここまで書き上げました。

「週末! 動物園! そして腕を組んで歩くカップル! んー! 言うこと無しです時宮先輩!」

「朝からテンションが高いね鏑屋さん」

ボクは隣で腕を絡めている鏑屋さんにそう伝える。

「だって初デートですよ! テンションも上がりますって!」

「うん。分かっていたけど、ボクと鏑屋さんの間では相当の意識の違いがあるね」

ボクは確かに“お友達から始めよう”と伝えていたはずなのだけど、鏑屋さんはそんなの知ったこっちゃないとばかりに過度なスキンシップを求めてくる。

 ああ、こら。これ以上体を密着させるな。

 ボクと同じ身長にも関わらず立派なものを押し付けてくるのは嫌がらせか?

 最終的には泣いちゃうよ? ボク?

「見て下さい、パンダ! 可愛いと思いませんか?」

 ボクがそう黄昏ていることも露知らず鏑屋さんは檻の方を指さす。

 そこには床に寝そべっているパンダが気怠そうに笹の葉をムシャムシャ食べている風景があった。

「うーん、私的にはもっと動き回ってほしいのですけどねえ」

 鏑屋さんはそう不満を口にするけど、ボクからすれば失笑ものだった。

「鏑屋さん、パンダは夜行性なんだよ」

 遠目ではよくわからないが、パンダの瞳孔は縦に伸びている。

 その特徴を持つ瞳孔は目に入る光の量を調節しやすいので夜行性の動物に多かった。

「へえー、そうだったんですかぁ」

 ボクの説明に感心する鏑屋さん。

「ちなみにパンダの腸内には笹の葉を消化できる酵素が微生物がないから、ほとんど栄養を吸収できていないよ」

 パンダの内臓は未だに肉を食べるクマと同じ構造のため体に合わず、そのため月一回内臓の粘膜が剥離すると聞いている。

「時宮先輩って物知りなんですね」

 そう褒められて悪い気はしない。

 まんざらでもなかったボクは頬を描きながら。

「本を読むのが好きだったからね。小さい頃にそういった内容を読んだ記憶がある」

「博識なんですね、将来は博士ですか?」

「その道に全てを捧げられるほどの情熱はないよ」

 確かに知ることが出来るのは面白いけど三十年や四十年、下手すれば生涯をかけている人と競争したいとは思わないし。

「……ふう」

 ふと見ると鏑屋さんが小さく息をついていた。

 そういえば鏑屋さんは昨日も部活だったんだらしい。

 それに加えて朝からハイテンションを維持し続ければ疲れるのも当たり前か。

「鏑屋さん、少し休憩しようか」

 だからボクがそう誘っても鏑屋さんは嫌な顔をせず素直に従ってくれた。


「いくらですか?」

 ジュースと軽い軽食を携えて戻ってきたボクに鏑屋さんが財布を出しながらそう尋ねてきたので。

「いや、お金は全部自分が持つよ」

 ボクは首を振って支払いを拒否した。

「けど、入園料も払ってもらいましたし……時宮先輩に迷惑がかかってしまいます」

「あんまり気にしなくて良いのに」

 変なところで心配している鏑屋さんにボクは苦笑を隠せない。

 それに、本当にボクに迷惑をかけたくないのなら少しは主導権を握らせて欲しい。

 鏑屋さんと出会ってから現在まで、終始振り回されていた記憶しかないのだけど。

「けど、それでも時宮先輩の財布を苦しめたくはありません」

 ボクがいいって言っているにも拘らず鏑屋さんはお金を出そうとする。

「少ない小遣いでやりくりしている高校生にとっては千円であろうとも大きな出費です」

 それが鏑屋さんの言い分らしい。

 まあ、ボクでも通常なら痛いと感じるけど。

「安心して鏑屋さん。このお金、ボクから出ていないよ」

 残念ながらボクの懐は全く痛まない。

「え? どういうことですか?」

 鏑屋さんの問いかけにボクは笑いながら。

「これら全てのお金はバカあ――いや、進義兄さんから出ているんだ」

 まあ、当初は「何で俺が他人のいちゃつく金を出さなくてはならないんだ」と渋っていたものの、「じゃあもうバカ兄貴には協力しないから」と言ったら泣く泣く樋口一葉を渡してくれた。

「絶対おつりは返せよ!」

 バカ兄貴じゃあるまいし、言われなくても分かっているって。

「これはあくまで取材の一環だからボクと鏑屋さんはお金を払わなくても良いんだ――ん? 何か変なことでも言った?」

 話しているうちに見る見る鏑屋さんの表情が曇っていったのでボクはそう尋ねる。

「いえ、何でもありません」

 鏑屋さんは大丈夫だとアピールするのだけど、残念ながらその表情からは浮かない。

 その後の空気は居た堪れなくなったので外に出たけど、それ以降の雰囲気は以前とは違うぎくしゃくしたものだった。


「それは悟が悪いわね」

 事の顛末を聞き終えた夏姉はそう結論を付ける。

「『これはあくまでも取材』そんな態度を取られたら鏑屋さんに限らず、誰だって機嫌が悪くなるものよ」

 夕食。

 今日の事の顛末を聞き終えた夏姉が開口一番そう述べる。

「でもそれは事実だし、そのことは鏑屋さんの了承済みのはずだけど」

 ボクはそう反論するのだけど夏姉は甘いとばかりに指を振る。

「悟、例え話として私と悟が買い物に行ったとするわね」

「うん」

「で、その時に私が悟の好きな物を一杯買ってあげたらどう思う?」

「夏姉を病院に連れて行こうかと考える」

 そんな心優しい夏姉なんてボクは見たことが無いんだけど。

「悟……後で覚えておきなさいよ」

「何で!?」

 ボクはありのままに伝えただけなのに何故か夏姉の怒りを買ってしまった。

 そんな夏姉は眉間を揉んで気を解して続ける。

「まあ良いわ。もし好きな物を買ってあげれば悟は嬉しいでしょう?」

「うん。まあ、そうだね」

 本心は物よりもその気遣いが嬉しいのだけどと心の中で呟いておく。

「で、ここからが肝心。けど、そのお金が私の財布でなく進の財布から出ていると知ればどう思う?」

「『ああ、やっぱりか』としか思わない」

 夏姉が自分以外の誰かにお金を使うことなんてありえない。

 前も生徒会役員と食べに行った際、かかったお金全てを家に請求していたぐらいだし。

「……例えが悪かったわね。進からでなく、家から出ていると知ればどう思う?」

「別に、それが普通でしょ?」

「……ごめん、反論出来ないわ」

夏姉は自爆したらしく、頭を抱えて唸ってしまった。

「まあ、とにかく」

夏姉は仕切り直しとばかりに咳払いする。

「悟、一般的な常識としてデートのお金は自腹が基本なのよ。身を切って出すからこそ相手は大事にされているんだと感じるの。だから今回の悟の言動はNG……分かった?」

「つまり今度からは自分の小遣いから出せという事だね?」

ボクがそう確認を取ると夏姉は我が意を得たとばかりに大きく頷いた。

「……妹からそう思われていたなんてーーお姉ちゃんなきそうよ」

「ん? 何か言った」

夏姉が何かを呟いたのでボクはそう聞き返すのだけど。夏姉は首を振るばかりで何も答えてくれなかった。

ここから先は少し作風が変わります。

具体的には鏑屋理恵の活躍頻度を少なくし、代わりに風倉進の出番を増やします。

そうしないと主人公が主導権を握れません。

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