邂逅
暖かな昼下がり。
春休みを堪能して朝からゲームをしていた私は、ベッドから起き上がりイヤフォンを外す。ゲーム機の画面には「レポートを書き終えました」の文字。それを確認した私は電源を切る。もうそろそろご飯を作ろう。そう考え自室から廊下へ出た私の目の前には、知らない少女の後ろ姿。
「え?」
思わず漏らした声を聞き、彼女は体をこちらに向ける。気弱そうな表情をした彼女が口にしたのは、信じられない様な言葉。
「す、すみません。ここはどこですか?」
突然のことに呆けていた私は先手を打たれてしまった。
どうしよう、どうするべき?
頭の中を、疑問符が駆け回る。困り切った私の脳は、とりあえずお客様に対する礼儀なるものを頭の片隅から引っ張り出したらしい。
「……こんなところでの立ち話も何ですから」
そう言って不審者と呼んでもはばかりの無い少女を、居間へ案内したのであった。
彼女を先導して廊下を歩き、階段を降りる。軽い音が私の後ろを付いて来ていた。
居間に到着してから、カップに紅茶を入れて彼女に差し出す。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた少女は緊張してのどが渇いているのか、直ぐ紅茶に口を付けた。そんな彼女に文句を言われないのを良いことに、私は観察を始める。
ライトブラウンの柔らかそうなボブヘアーに、同じ色のぱっちりした瞳が印象的だ。桜色の淡い唇は、白い肌によく映える。服は小花柄のふわりとした膝丈スカートにカラータイツと、控えめなレースをあしらったシャツ。その上に上着を羽織っている。簡単に言い表すと、凄くかわいい守ってあげたくなる系女子、といったところか。
人間観察に没頭し黙り込んでしまっていた私に気まずさを感じたのか、少女が私に話し掛けた。
「えぇと、さっきは突然、すみませんでした。驚きましたよね」
恐らく人見知りなのであろう彼女は、びくびくしながらも私の目を真っ直ぐ見詰めて喋る。
「とりあえず、自己紹介……で良いですか?」
「あ、はい、どうぞ」
彼女はそう言って、姿勢を正す。
「私の名前は野々村優乃といいます」
その言葉に私は体を硬直させる。
何故なら目の前に座る少女の名は、私の妹の名と完全に合致していたのであった。