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08.帰郷

特に目覚ましをセットしていたわけでもないのに朝早く目覚めたので、簡単に部屋の掃除をし、今から出ると電話してから9時ぐらいには家を出た。

家を出てから携帯で調べてみると、大体乗り換え2回ほどの片道大体2時間半ぐらい電車に揺られるらしぃ。


(着くのは…ピッタリ12時ぐらいだなぁ~)


流れていく景色を呆然と見ながら、結華はそんなことを思った。



電車から外を眺めていると見慣れない景色が現れては後方に流されていく。

通い慣れたとは言い難いその路線は、ガタガタと電車独特の揺れを伝えながらも順調に目的地に近づいていった。

途中見知った駅をいくつか通り過ぎるが、『降りたことがある』という程度で、あまり執着はないらしく、ただ風景のひとつとして結華は見ていた。

その中でただひとつ、結華の気を惹いたものがあった。

普通の人は見逃してしまうぐらいな何の変哲も無いもの。

それだけ自然にその場所に根付いている大きな木。

丘に立つ一本杉。

この町で育った年月を、共に過ごしてきた大きな木。

町の人達から御神木とも呼ばれている、丘の上の神社にある大きな木だ。


「まだ…在ったんだ…」


その木がまだ同じ場所に立っていることが嬉しかった。

何もかもが時間の流れに従って動いている中で、変わらないものがあることが嬉しかった。


(帰りに寄っていこう)


地元の駅よりも5駅ぐらい離れた所にあるその大きな木。

それは小さい頃の結華にとってかけがえのない思い出のあるものだ。


(また今度ね)


結華は人知れず遠くに見えるその御神木に挨拶をし、あとでまた会いに行くことを約束していた。





「やっと顔を見せに来たか」


家に着いた結華を最初に驚かせたのは、オフスタイルの父の姿だった。


「あれ?今日仕事ないの?」


それなりのキャリアを持つ父は小さい頃から休日にいることなんてほとんどないぐらいに仕事に飛び回っていたからこそ、オフスタイルの父が一番初めに出迎えてくれるとは、結華は考えてもいなかったのだ。


「久しぶりに娘が帰ってくるっていうのに仕事なんてしてられるか」


苦笑しながらそういう父は、仕事の為に家にほとんどいなかったことを自覚しているのだろう。

運動会や父兄参観。

そのどれにも父が来た事はなかったから。

昨日急に思い立っての事だ。

休むことさえ苦労したに違いない。

そう思うと、帰ってきた自分を褒めてあげたくなった。

ここまで父が自分のことを思っていてくれているとは…、正直思っていなかったから。


「結華~?何してんの?さっさとあがれよ~、飯にすっぞ~」


突き当たりのリビングから顔だけをのぞかせて催促をかける裕樹。

その後ろで満面の笑みを浮かべる母。


(帰ってきたんだなぁ~)


つられて頬が緩むのを感じると同時に、涙腺も一緒に緩んできているらしい。


「ただいま」


その一言を言えたことが…なぜか無性に嬉しかった。





次話は明日7時に更新します~♪

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