07.弟
どこをどうやって帰ってきたのかすら私にはわからないけど、それでもちゃんと家に帰り着くんだから…、帰巣本能ってすごいなって思う。
本能ともいえる部分の持つ能力…やっぱり人間も動物なんだって実感。
公園を出てからの記憶はあまりない。
気付いたら家の前に立っていた…という感じが正しい。
目にも耳にも何かカーテンのようなものが引かれていて、周りの状況がわからない。
…ううん、違うな。
きっと『私が』それらのことを受け入れることを拒否しているだけ。
尭と出会った事。
後悔してるかって言ったら…多分答えられない。
今までの経過がある…といえるほど、私は大人じゃないから。
こんな思いをするぐらいなら…と思ってしまう。
誰もいない部屋。
一人暮らしをしていてありがたいと思うのは、家族に気を使わなくて済むことだ。
出来れば心配なんて掛けたくないから。
思う存分…泣くことが出来る場所…。
一人でいる機会が多かったからか、気付いたら誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
取り繕うこともなく、頑張ることもしなくていいから…。
「…たまには実家に帰ろうかな…。あ、公園…行こ…」
引っ越してきてそろそろ2年が経つが、その間帰ったのは年末年始の一回のみ。
電車で2・3時間の場所にあるというのにほとんど帰っていないことに気付く。
なんだかんだと理由をつけては帰らないようにしていた気がする。
緩慢な動作で携帯電話を取り出し、メモリを探すのも面倒なのでそのまま番号を入力する。
――プップッ――という機械音の後、すぐにコールが始まり、3コールぐらいで聞きなれた声が聞こえる。
「もしもし。井澤ですが…」
「あ~、裕樹?私」
「結華か。珍しいなぁ~なんだ?」
弟である裕樹が、年下の癖に私を呼び捨てで呼ぶところは全く変わってないらしい。
その変化していない所が何故か嬉しかった。
「明日帰るからぁ~母さんとかに言っといて」
「明日?ずいぶん急だな」
「なんとなくね」
「ま、んじゃ言っとく~。土産持って来いよ~」
「自分で買いに来いよ(笑)」
「面倒だしなぁ~。ま、父さんとか寂しがってるし。何時頃来るんだ?」
「ん~、…起きて支度して…昼前には付くようにするよ」
「そう言っとくよ」
「頼んだ~んじゃ、それだけだから」
「おぉ、明日なぁ~」
「明日~」
用件だけ伝えて切ってしまう。
これもいつもと変わらない。
久しぶりに話したわりに、お互いの反応は至って普通。
長く距離を置いているとは感じられない。
これが家族ってものなのかもしれない。
何時に起きればいいか…などを考えているうちに、結華は自然と眠りに落ちていった。
次話は明日7時に更新します~♪