06.別れ
静かな空間。
そんな言葉がよく似合う公園だと結華は思った。
小さい頃毎日のように通っていた公園も、こんな感じだった。
まるで世界と公園との間に区切りでもあるかのように…自分だけの空間。
それが、結華が公園に持つイメージだ。
あの名前も知らない男の子が通ってくるようになってから認識は変わったけど。
それでも…やっぱり静かな安心できる空間というのが公園の醍醐味なんだろうと結華は思っている。
自分の隠れ場所…とも…。
「結華っ!」
「――………尭…」
公園の入り口に…見知った顔。
多分…今一番会いたくない顔…。
結華にとって踏み込んで欲しくない領域…。
それが…公園だった。
「何してんだよ」
「……」
「結華」
「……」
「おぃ」
「…唯はどうしたの?」
硬い声。
尭は気づいただろう。
私が、とても機嫌が悪いということに…。
今は…尭に会いたくなかった…。
今は…感情が無視できる状態にはないから…。
「…別々に探したから唯は多分まだ探し回ってる」
「…そぅ」
なんで一緒に探さなかったんだろう…。
唯がいたならば…きっと感情を露骨に出すことはなかったのに…。
「そんな事はいい。どういうつもりだよ?これは」
「…どういうって?」
「なんでこんな所にいるんだ」
「…居たかったから」
「なんで?」
「理由が必要なの?」
「結華」
尭も怒ってる。
いつもなら私から謝っただろう。
自分の非を認めて。
でも、今の私に怯む気はなかった。
「二人でデートすればいいじゃない。二人の中に入れられても迷惑」
「……」
次は尭が黙る番だった。
でも、枷の外れた私の言葉はとまらない。
「自覚があるかどうかわからないけど…彼氏のいない私への当て付け?」
そんなこと思っているわけではなかった。
二人がそういう人間じゃないことは私が一番よく知ってる。
二人とも人に気を使い過ぎるほどに使う人達だから…。
でも、悪意がないからこそ…その刃は他のものよりも強く感じる。
「放って置いて(関わらないで)」
「…結華…」
今までにここまで激しい感情を尭に見せたことはない。
嫌われたくなかった…と言う気持ちがなかったとは言わない。
でも、どちらかというと…尭に限らず、私はこういう感情を見せることはしないようにしていた。
その方が人間関係がうまくいくことを知っていたから…。
一人でいる事が多かった私が学んだ処世術だった。
「……」
何か言いかけてはやめ、口を開いては閉じる…。
そんな行動を何度か続けたが、結局尭が何かを言うことはなかった。
私はそんな尭を見て心が痛んだが…、放ってしまった言葉を回収することなど不可能。
後悔の念に駆られながらも、私はその言葉を撤回しようとは思えなかった。
今ここで取り繕っても…きっと変わることはないから…。
「……さよなら」
公園からの去り際に私が残した言葉は、とても一般的なものだった。
でも、少し違うニュアンスを込めていった言葉。
一時の別れじゃない。
もう…尭と関わることはない。
尭は多分それを理解しただろうけど、何も言わなかった。
言うすべを持たなかったのかも知れない。
静かな公園の静寂が戻ると同時に…私は公園を後にした…。
次話は明日7時に更新します~♪