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02.コイツ

こんなにこちらは快晴なのに、電話の向こうでは雨の音が聞こえる。

しかも傘に当たるあの軽やかな音ではなく、どう考えてもそのまま雨に降られているような、そんな音。

でもそれ以上に気になるのはコイツが俺に電話を掛けてきていること。

声もなんだか暗い。

絶対に何かあったのは確かだ。

それがわかるから、だから聞く。


「大丈夫なのか??」


と。

「どうした?」ではなくこう聞くのは、何かあったということが明確だから。

普段コイツがなんでもない用事で電話を掛けてきた事がないことは今までで証明されているから、だからこそ掛けた言葉。

でもコイツから返ってくるのはいつも同じ。


『…多分…かな?』


多分、大丈夫だと。

大丈夫であるはずがないのに…。


「平気だったらお前電話なんてかけないだろ?」


自分でどうにかなる時はコイツがあまり連絡をよこさないのを知っている。

だからこそ言ってるのに。

電話の向こうで二の句が告げなくなっているのがその証拠。


「今度は何があったんだ?」

『…んと…』


言葉を濁らせながら、つたなく話しているということは、まだコイツの中で問題は解決していないんだろう。

そしてまだ整理も付いてないらしい。

自分の考えに押しつぶされそうになったのか。


いつもコイツの持ってくる問題は微妙なんだ。

人付き合いが上手いわけではないのに、愛想がいいから人間関係が広がり、その人間関係で問題を持ってくるんだから…俺に言わせればどうかしているとしかいえない。

しかもその事について考えて考えて、煮詰まるまで誰かに言うことがない。

まぁ、俺以外に言ってるのかどうかは俺にはわからないけど。

考えすぎる所があるコイツは、自分の考えすぎで凹むことが多い。

自分の考えをしっかりと持っているのはいいことだけど、その価値観などは普通の人よりも若干ずれてる。

まぁ、だから問題があがるんだろうけど。

ここまで考えすぎる奴だから、結構ウザくなってしまう奴も多いんだろう。

でも俺がコイツの事を邪険にすることはない。

そこまでひとつのことに真剣に考えられる所はすごいと思し、なんとなく放っておけないから。

思考の向き方が暗ければいい方向に持っていってやりたいし、話が聞いてほしいだけなら黙って話を聞く。

ただそれだけでもコイツの気分が上がるんならそれでいいんだ。

気分の下がったコイツは好きではないから。



これが恋愛ではないのはわかってる。

俺には列記とした彼女がいるし、その彼女の事を好きだから。

それはきっとずっと変わらない。

コイツは俺にとって一生恋愛対象にはならないと思う。

ただ、一人の人間としてコイツには惹かれているんだ。

恋愛とは別の感情。

でも、恋愛以上に大切なのかも知れないと考えるときもある。


俺の彼女はコイツと俺が連絡を取っているのを知っている。

当たり前だ。

俺の彼女はコイツの親友だから。

もともとコイツに紹介されて付き合ったわけだし。



たまに考える。

もしも彼女に告白される前に、コイツから告白されていたら…。


「俺はどう答えたのだろう…」


と。

そんなことは仮定でしかないけど…。










一通り話し終わると俺は聞く。


「大丈夫か?」


と。

するとコイツはこう答える。


「もうちょっと頑張ってみる」


と。

なんとか気持ちは浮上したんだろう。

電話を掛け始めた時の声とは明らかに違う。


『頑張れ』


コイツが自分なりに精一杯頑張ってる事はわかっているけど、俺は気の利いた言葉を思いつかないから、ありきたりなことしかいえない。

それでも電話の向こうでどこか晴れやかに笑っているコイツの顔が浮かぶから。

これでいいのだと思う。



コイツとの会話は好きだ。

それが身のない会話でも、コイツとなら楽しいから。


『ねぇ…』

「ん? 」


何か言いかけるコイツの続きを促しても…。


『…ううん、なんでもない。いつもありがとね』

「あぁ、気にすんなよ」


いつもはぐらかされる。

だからこそ、コイツが俺に何を言いたいのかはわからない。


『次は浮上してる時に電話掛けられるようにするょ』

「できりゃいいなw」


きっとコイツは電話をしてこないだろう。

俺と彼女の事を考えるから。

俺にも彼女にも「気にしなくていい」といわれているのに、コイツは変えない。

それがなぜかはわからないけど…。




こちらは相変わらずの快晴。

きっと向こうも明日には晴れるだろう。




次話は明日9時に更新します~♪

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