10.裕樹
久しぶりに実家のお風呂でくつろいだ。
風呂好きな私は風呂を基準に今のマンションを選んだから、広さはたいして変わらない。
でも、どこか…。
自分以外の誰かが同じ屋根の下にいるという事実が気分を落ち着かせた。
「お風呂ありがとぉ~w」
「んな他人行儀な。お前の家だろが」
「そういえばそうかw」
少し怒って聞こえるのか、それとも実際怒っているのか。
ゴメン、お父さん。
よくわからない(笑)
「部屋結華が出てった時のままだから」
「そ。ありがとw」
あんまり距離は遠くなかったのだが、家具は何も持っていかずに全部買ったから。
部屋がそのままということは生活に支障はないだろう。
「布団…埃臭かったりしてww」
「ちゃんと干してるわよ」
呆れたみたいな顔をして、母は私の頭を叩く。
チロっと舌を出して許しを請うと、苦笑する。
どこかうれしそうな苦笑。
確かに。
母さんには苦労かけてばっかりだったしな。
「なんか眠いしそろそろ寝るね!おやすみなさぁ~い」
「おやすみ」
「ゆっくり休みなさい」
背後に両親の言葉を聞きながら数年ぶりに入る自分の部屋へと向かう。
階段を上がってすぐ、突き当たりにある部屋だ。
扉を開けるとどこかすがすがしい匂い。
ボフっとベッドに飛び込むと、多分今日干したのであろう。
お日様の匂いがする。
そのままウトウトをしてしまった結華の思考を扉のノックが現実に引き戻す。
「どぉ~ぞぉ~」
「あ、もしかして寝てた?ん~ちょっといいかぁ?」
「ん?裕樹??何さ。改まってお前らしくない」
「うっせw扉閉めるぞ~」
「ど~ぞど~ぞw」
顔を覗かせたのは私の後に風呂に入った裕樹だ。
ジャージにTシャツというラフな格好なのは私が一人暮らしする前と変わらないが、何処かしら大人びた顔。
もう来年には大学生になるんだから当たり前なんだけど。
躊躇いもなくベッドの上に腰掛けるのもいつものこと。
血は繋がってないけれど、お互い理想のタイプではないから特に気にしたことはない。
私の顔を見たりそらしたりでなかなか裕樹はしゃべろうとしない。
「何さ?しゃべらないんなら寝るよ?」
実際、眠くてしょうがないのだ。
このまま放っておかれると間違いなく寝る。
「あ~、結華…さ。…女って誕生日のプレゼントとか…何が欲しいんだ?」
「は?」
予想外の言葉に何が頭に入ってきたのか理解できない。
「…もう一回言って」
「女って…誕生日のプレゼントとか…何が欲しいんだ?」
どうやら聞き間違いじゃないらしい。
この裕樹から女の子の話が出てくるとは…。
なんだか感慨深い。
…って私が育てたわけじゃないんだけど。
「どんな子なの?」
「なんか大人しくて…。静かに笑う…子…かな」
「大人しい子なのかぁ~。親しいの?」
「委員会一緒で…ほかの奴よりは気軽に話せる程度だよ…」
「へぇ~」
「再来週…誕生日なんだ」
「告白するの?」
「え?あ、ぃゃ、そういうんじゃなくて…ただ…世話になってるからお礼みたいな…」
可愛い。
と思ったのはきっと私だけじゃない。
ってか、身内の贔屓目じゃないと思う。
そういえば今までそういう話を裕樹から聞いたことはないし…。
この反応を考えるならば…裕樹にとっての初恋なんだろうか?
自分があんな結果に終わったのを考えると…成就出来るといいなって思う。
「好きなの?」
「だ、だから違うって!」
「そっかぁ~、好きな子と本当にお礼って感じのものだとプレゼント変わってくるのになぁ~」
「え?違うの?」
「お礼だったら日常役に立つものがいいんじゃないかなぁ?好きな子にだったら、身に着けてもらえるものがよくない?」
「…そういうものなのか?」
「そうそう」
真剣に聞き返す目がとても可愛い。
高校三年生で初恋って…初心としか言えない(笑)
「……ょ」
「え?何?」
「…惚れてる…」
「じゃぁネックレスとかブレスレットとかにしたら?その前に、アクセサリーとかつける子?」
「…わかんない」
「ん~じゃぁピンとかの方がいいかなぁ?アクセつけない子でも髪止めたりはするだろうし」
「…結…華…」
「ん?」
「明日…買い物付き合ってくれ」
「ぷwいいよw付き合ってあげるwお昼オゴリねぇ~w」
「…了解」
始終真っ赤な顔した弟が、とても可愛かった。
次話は翌日7時に更新します☆