第九話 人間の社会 リオムが見た現実
ラウネスの言葉が途切れたのを見て、リオムが鼻を鳴らす。
「……おいら達はな、草原の西のほうに居たんだ」
誰に言うでもなく、炎を見つめたまま続ける。
「一つ前の夏だ。あいつら、急に現れやがった」
人間族だけじゃねぇ、とリオムは指を折る。
「キャットテールも居たし、ロップイヤーも居た。あ、エルフも居たな。ひとりだけだけどよ」
そこで顔を上げ、ナリムを見る。
「エルフに会いに行くならな、絶対安全ってわけじゃねぇぞ。」
「あいつ、笑ってたけどよ……なんつーか、ぞっとした」
焚き火の向こうでフィルカナが小さく息を呑む。
「でな。捕まってよ。」
「でっけぇ柵に囲まれたとこに、全員連れてかれちまった」
言葉が少し荒くなる。
「いや……じいさん達は、そこで終わりだったな。足手まといだってさ」
誰も口を挟まない。
薪が崩れて、火の粉が舞う。
「そんで毎日、変な花とか植物の世話だ。何に使うのかも分かんねぇ」
肩をすくめる。
「飯もな、ろくに食わせてもらえなかった。変なスープと……硬いパンって呼ばれてるやつだけ」
一拍置いて、隣を見る。
「つーかよ、なんでガルドはあれで痩せねーんだ?」
「……おら、動いてたべ……」
ぼそりと返すガルドに、リオムは笑って手を振る。
「まー、関係ねぇか」
また炎に視線を戻す。
「そんな暮らしが続いてたんだけどよ。」
「ガルドが、たまたまセイラと仲良くなってな」
ガルドの肩で、鷹のセイラが小さく鳴く。
「それで周りを見てもらった。どこに見張りが居るか、どこが手薄か」
「他のハーフリング達も、手ぇ貸してくれた」
声が少し低くなる。
「逃げられたのは、おいら達ふたりだけだ」
「その道中で、サフとも仲良くなったんだよな」
フェネックが焚き火の影で尻尾を揺らす。
「……そういやよ」
リオムは思い出したように付け足す。
「ラウィル以外のハーフリングも、山ほど居たぜ」
ナリムが顔を上げる。
「見たことねぇ数だった」
「他のやつらの話だとよ……そんな場所、ひとつや、ふたつじゃねぇらしい」
焚き火の音が、急に大きく聞こえた。
ラウネスが低く呟く。
「……人間族は、思った以上に数が纏まっているのかもしれないな」
握った拳に、火の光が揺れる。
「ますます、森の賢者に会わなければならなくなったな」
誰も反論しなかった。
焚き火を囲む影だけが、静かに揺れていた。




