第八話 ラウネスの言葉 焚き火の夜
焚き火の爆ぜる音だけが、夜の森に残っていた。
日中に仕留めた獲物の肉は、粗く切られ、火に炙られている。脂が落ちるたび、小さく火花が跳ねた。
誰もが黙っていた。
腹は満ちているはずなのに、誰一人として食事に集中していない。
視線は火に向けられ、時折、互いの様子をうかがうように揺れる。
ラウネスが、口を開いた。
「……俺達の中で、噂が流れ始めたんだ」
低い声だった。
語りかけるというより、火に向かって独り言を落とすような調子だ。
「仲間のハーフリングが、人間族に捕まってるってな」
フィルカナは黙ったまま、肉を返す手を止めた。
ナリムも何も言わず、火の向こうでラウネスを見ている。
「誰も信じなかった。俺もだ」
ラウネスは短く息を吐く。
「だが、しばらく前からだ。部族の中で、行方が分からなくなる奴が出てきた」
焚き火が、ぱちりと音を立てる。
「偶然だって、皆は言った。遊牧だ。別の群れに合流したんだろうってな」
「……でも、数が合わなくなってきた」
ラウネスは、膝に置いた剣に視線を落とした。
「この剣はな」
少し間を置いて、言う。
「昔、部族の元に迷い込んできたドワーフの一団が置いていったもんだ。友好の証だってな」
炎が、青銅の刃に揺れる影を落とす。
「それからは、族長の証として伝えられてきた」
「今の族長は高齢だ。だから次は俺だって、この剣を託された」
自嘲するように、口の端を歪める。
「身体がでかいだけの俺が選ばれたのも、剣が証になってるのも……理由があるんだろうって、勝手に思ってる」
ナリムが、何か言いかけて口を閉じた。
代わりに、ルウが小さく鼻を鳴らす。
「だから、若い連中で力を蓄えてきた」
ラウネスは続ける。
「俺は剣を振った。フィルカナは弓を引いた。ナリムは……」
ちらりと、ナリムを見る。
「ルウと一緒に、どう戦うかを考えてた」
ナリムは視線を逸らし、焚き火を見つめ直す。
「だがな」
ラウネスの声が、少しだけ強くなる。
「交渉で取り戻そうとした。最初は、それで済むと思ってて」
短い沈黙。
「話にもならなかった」
「いきなり、襲ってきやがったんだ」
拳が、膝の上で強く握られる。
「……悔しいが、勝てなかったよ」
布が巻かれた、自分の手を見つめる。
焚き火の音だけが続く。
「やっぱり、人間族の方が力もある」
吐き出すように言う。
しばらくして、ラウネスは肩をすくめた。
「だからだ。森の賢者に助言をもらうべきだって言ったのは」
「このナリムだ」
不意に名を呼ばれ、ナリムが目を瞬かせる。
「こいつ、結構頭が良くてな」
ラウネスは、少しだけ笑った。
「頼りになるんだぜ」
ナリムは照れたように顔を伏せる。
フィルカナは何も言わず、火の中に枝を足した。
焚き火は、静かに燃え続けていた。
リオムは、エルフと呼んでいますが、ラウネス達は森の賢者=エルフか、はっきり分かっておりません。




