第五話 人間族の戦士ブロク・脅威の実力
ブロクと呼ばれた男が、青銅の剣を抜き放つ。
大柄。
肩幅はラウネスの倍近くあり、首は短く、鎧の下の筋肉が布を押し上げている。
刃こぼれは多いが、何度も振るわれてきた重みがあった。
「ブロクは兵隊帰りで、前の戦いでは3匹も同時に捕えられて剣を授かったんだぜ!」
切り付けられた男が、威嚇するように叫んだ。
男は立ち止まり、ラウネスを見下ろす。
口元を歪め、鼻で笑った。
「チビがまた三匹か。運がいい日だな」
周囲の村人たちがどっと笑う。
「ブロク!」
「そいつら逃がすなよ!」
「三人まとめて捕まえりゃ、村が潤う!」
野次が飛ぶ。
だが誰一人、前には出ない。
ブロクは肩を回し、剣を構えた。
「チビのくせに、剣を持ってるとはな」
視線がラウネスの剣先に落ちる。
「だけどチビの腕で俺様と、打ち合えると思うなよ」
ラウネスは一歩前に出た。
「答えろ」
声は震えていなかった。
「なぜ、俺たちを捕まえる」
「俺たちは戦いたいわけじゃない」
「話し合いに来た」
ブロクは一瞬だけ眉をひそめ、次の瞬間、笑った。
「話し合い?」
吐き捨てるように言う。
「弱い奴が、強い奴に使われる」
「それだけの話だろ」
ラウネスは剣を抜いた。
「俺たちは物じゃない!」
「じゃあ何だ?」
ブロクは剣を振り上げる。
「家畜じゃないとでも、言うのか?」
剣が振り下ろされる。
――重い。
受け止めた瞬間、腕が痺れた。
一人で剣を振ってきたラウネスにとって、初めて受ける生きた衝撃だ。
ラウネスは歯を食いしばり、横へ流す。
「お前だって、家畜を使って生きてるだろう!」
ブロクが踏み込み、続けざまに斬りかかる。
繰り返しラウネスの剣に襲い掛かる。
「羊を飼う!」
「獣を使う!」
「俺たちも同じだ!」
刃と刃がぶつかり、火花が散る。
「違う!」
ラウネスは力任せに押し返す。
「俺たちは、お前たちから奪ってないではないか!」
「生きるためにしか殺さない!」
「動物たちと共に生きてるんだ!」
ラウネスも剣を振るが、簡単に避けられてしまう。
「綺麗事だ!」
ブロクが笑いながら斬り上げる。
「弱いから言えるんだ!」
「奪える力があれば、誰だって奪う!」
ラウネスの剣が弾かれ、体勢が崩れる。
重い一撃。
ラウネスは耐え切れず、膝をつく。
「ぐっ!!」
フィルカナが叫ぶ。
「ラウネス!」
弓を引いたまま、動けない。
二人の距離が近すぎる。
――まだだ。
ブロクが追撃に入る。
「吠えるだけの獣が!」
横薙ぎ。
ラウネスは避けきれず、剣を弾き飛ばされた。
乾いた音と共に、剣が地面を転がる。
村人たちが歓声を上げる。
「よし!」
「やっちまえブロク!」
ブロクは剣を大きく、振り上げた。
「終わりだ」
その瞬間。
低い唸り声。
草原が弾けた。
「今だ!」
ナリムの声と同時に、飛び出したルウの背中にしがみついた。
横合いから、ルウとナリムが突っ込む。
「なっ――」
ブロクの視界からラウネスが消えた。
ルウがラウネスの外套を咥え、一気に引き離す。
「逃すか!」
ブロクが振り向いた瞬間――
ヒュッ。
フィルカナの矢が飛ぶ。
肩を掠め、血が散る。
「くそっ!」
村人たちが一斉に後ずさる。
「追え!」
「何してる!」
だが、誰も動かない。実戦経験があるのはブロクだけだ。
三人と一匹は、草原へ走り出す。
ラウネスは悔しそうに振り返り、ブロクを見た。
ブロクは剣を構えたまま、追ってこない。
ただ、睨んでいた。
「……覚えておけ」
低い声が、風に混じる。
ラウネスは何も言わなかった。
ただ、胸の奥に残ったものを、はっきりと感じていた。
――もう、話し合いでは戻れない。
草原の彼方へ、三人は逃げた。
ブロク
・人間族の戦士。180cmを超える大柄の男性。徴兵されハーフリング捕獲の為の遠征で3人捕まえる。実績を評価され青銅の剣を下賜される。




