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第三十四話 事件は会議室から始まっているんだ!

雪解けは、静かに始まっていた。


白に覆われていた森は、少しずつその色を取り戻し、眠っていた気配がゆるやかに息を吹き返していく。


凍てついていた空気も、わずかに緩み始めていた。


エルフの森にも、徐々に賑わいが戻りつつあった。


ラウネス達に伝えられている予定では――


ドワーフの里はさらに北。


山を越えた先にあるという。


そのため、出発はもう少し暖かくなってからと決まっていた。


それまでの間、ラウネス達は準備に追われていた。


遠征のための食糧の確保。


そして――


ドワーフが残していった荷車を動かすための馬の確保。


それぞれが役割を持ち、動いていた。


中でも、馬の調達を任されたフィルカナは苦戦していた。


森にいる馬は警戒心が強く、人に慣れていない。


心を通わせるには時間がかかる。


彼女は毎日のように森を歩き、少しずつ距離を縮めていた。


新たな旅立ちは、確実に近づいている。


その予感に、誰もが胸を高鳴らせていた。


だが――


その平穏は、突然引き裂かれる。


凶報は、あまりにも唐突にエルフの集落へともたらされた。


人間族が、大軍を率いて森へと迫っている。


一瞬で、空気が変わった。


すぐにセイラが空へ放たれる。


高く舞い上がり、森の外縁へと向かう。


やがて戻ってきた視界が伝えたものは――


絶望的な光景だった。


一千。


それほどの数が、森へと押し寄せている。


その事実に、誰もが息を呑んだ。


だが、エルフの動きは早かった。


「――すぐに他の集落へ、助けを求めろ!」


長老の声が響く。


その日のうちに、最も足の速い者達が選ばれた。


ナリムとルウも加わり、各地の集落へと駆け出していく。


森を駆け抜ける影は、いくつにも分かれた。


やがて――


戦士達が、集まり始める。


シルヴァ達だけではない。


各部族から、戦える者が呼び集められた。


子供であろうと例外ではない。


三つの部族。


そこにラウネス達も加わり――


その数は、二百を超えた。


だが。


それでもなお。


人間族との戦力差は、五倍。


埋めがたい差が、そこにはあった。


ざわめきは広がらない。


重い空気が、森全体を包み込んでいた。


エルフの集会所には、緊張した空気が満ちていた。


灯された火の揺らめきの中、各部族の主だった者達が顔を揃えている。


シルヴァをはじめとするエルフの戦士達。


そして――


ザン、ミル、ラウネス。


異なる種族の者達が、一堂に会していた。


静まり返る中、シルヴァが一歩前に出る。


「集まってくれて、ありがとう」


低く、よく通る声だった。


「今回は……どう対応するか、説明させてもらおう」


その言葉に、場の全員が視線を向ける。


「今回の戦いは――」


一拍の間。


「土地勘のある我々、フィルネアの戦士が先導させてもらう」


本来、エルフの部族に上下はない。


だが、この森を最も知る者が指揮を執る。


それは自然な流れだった。


各部族の代表者達も、静かに頷いている。


「すでに我が部族の非戦闘員には動いてもらっている」


シルヴァの言葉は、迷いがない。


「人間族が進軍してくるであろう方角に、狩猟用の罠を設置させている」


ラウネスは息を呑んだ。


戦う者だけではない。


守る者もまた、この戦いに加わっている。


「距離を考えれば……敵が動き出すのは明朝だろう」


すでに日は落ちている。


人間族は森の入口付近に天幕を張り、態勢を整えていた。


夜の森は危険だ。


彼らが動くならば、陽が昇ってから――


それがエルフ達の読みだった。


現在、セイラとガルドは帰還している。


森の外縁には、ルウとサフ。


さらにナリムとリオムが潜み、敵の動きを監視していた。


一方で、フィルネア族の非戦闘員達は今もなお動き続けている。


夜を徹しての罠の設置。


そして、戦士達のための食事の準備。


見えぬところで、戦いはすでに始まっていた。


「今回は、様々な者が参戦している」


シルヴァは周囲を見渡す。


「ゆえに部隊を分け、それぞれにフィルネアの先導役を付ける」


その提案に――


「了承した」


低く答えたのは、顔に傷を持つエルフだった。


その佇まいから、只者ではないことが伝わってくる。


おそらくは、どこかの部族の長か、あるいは戦士長。


シルヴァは小さく頷いた。


「感謝する」


そして、はっきりと言い放つ。


「敵は一千。我々は二百」


その現実が、改めて突きつけられる。


「これを四つに分ける」


空気が、わずかに張り詰めた。


「各隊、五十」


「ダーナ族の戦士長、ルアナ族の戦士長――」


シルヴァは視線を送りながら続ける。


「そしてフィルネア族からは、息子エリシアスを出す」


傷のあるエルフと、長い髭を蓄えたエルフ。


二人が視線を交わす。


その姿が、彼らの立場を物語っていた。


「俺は本陣に入る」


シルヴァの声が、さらに低くなる。


「偵察と遊撃は、こちらで受け持つ」


その配置により、各自の役割が定まっていく。


偵察隊には、ナリム、リオム、ガルド、そしてミル。


森を知り、目と足を持つ者達。


遊撃には、ザンとラウネス。


最前線で敵を切り崩す役だ。


そして――


弓を扱うフィルカナは、エリシアスの隊へと配された。


「罠の位置は地図に示してある」


「各先導役に渡してあるから、うまく活用してくれ」


シルヴァの言葉に、全員が静かに頷く。


さらに続ける。


「それと――」


一瞬の間。


「フィルネア族が持つ青銅の武器を、すべて出す」


ざわめきが走る。


それは、彼らにとって切り札とも言えるものだった。


普段、シルヴァが石の刀を使っていることからも、その価値は明らかだ。


「割り振りは、各隊長に任せる」


そして最後に。


「食料と薬も、フィルネア族がすべて出す」


迷いのない決断。


「存分にやってくれ」


その一言が、場の空気を変えた。


一瞬の静寂。


次の瞬間――


「おう!」


力強い声が、いくつも重なった。


戦士達は一斉に立ち上がる。


それぞれの役割を胸に刻み、集会所を後にしていった。


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