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第三十一話 戦いの後 妖精の宴

オーガとの死闘から、三日が経っていた。


エルフの集落には、再び活気が戻っている。


冬の到来を告げるような冷たい風が吹き込み、森の木々を揺らしていた。

怪我の痛みも癒え始めた男たちが作業に加わり、冬への備えは本格化している。


冬眠を控えた動物たちは肥え太り、森にはきのこも顔を出していた。

だが、それも今年はもう最後だろう。


集落総出の作業が続いていた。


その頃――


ラウネスは、暖炉のある小屋に運ばれていた。


床に敷かれた毛皮の上に寝かされ、静かに眠り続けている。


やがて。


ラウネスの意識が、ゆっくりと浮かび上がった。


まぶたを開ける。


次の瞬間――


全身に激しい痛みが走った。


「……っ」


思わず息を漏らす。


「気が付いたのか、ラウネス」


隣から声がした。


「すぐに動かない方がいいぞ」


視線を向けると、同じように寝かされているリオムの姿があった。


「おいらに比べりゃ、お前はぼろぼろだからな」


リオムは苦笑しながら、吸い口付きの器をラウネスの口元へ運ぶ。


水だ。


ラウネスはゆっくりと飲み込んだ。


「おいらは次の日には目が覚めたけどさ」


リオムは肩をすくめる。


「ラウネスは三日も寝てたんだぜ」


ラウネスの意識が、次第にはっきりしてくる。


そして戦いの記憶が蘇った。


ゴブリンとの戦闘。


オーガの出現。


死闘。


何度も、死ぬと思った。


ゴブリン族の槍使い。

身体能力を高める魔法を覚える前だったら,最初の一撃で、終わっていただろう。


オーガの攻撃。


ザンとの訓練がなければ、とても捌ききれなかった。


そして。


最後に、皆が助けてくれなければ。


オーガを倒すことはできなかった。


(よく……生き残れたものだ)


ラウネスは心の中で呟く。


だが同時に確かな確信も生まれていた。


ハーフリングは小さく、弱い種族だ。


それでも。


訓練し、協力すれば強い者にも勝てる。


そして。


人間族から仲間を取り戻すことも。


不可能ではない。


その時。


小屋の扉が開いた。


冷たい外気が流れ込む。


「ラウネス!」


明るい声が響いた。


「良かった!気が付いたんだね!」


入ってきたのはナリムだった。


安堵の表情が浮かんでいる。


「ああ……」


ラウネスは苦笑した。


「くっ……死なずにすんだよ」


無理やり体を起こそうとする。


「だから動くなってば」


リオムが慌てて止める。


だがラウネスは首を振った。


「大丈夫だ」


ナリムは二人の様子を見ながら言う。


「フィルカナの薬がなかったら、二人とも助からなかったかもって」


「シルヴァさんが言ってたよ」


そして続けた。


「それにエルフたちが魔法で怪我を治してくれてたから、これくらいで済んだんだからね」


ラウネスは自分の身体を見下ろす。


全身に布が巻かれている。


布の下には、薬草のようなものが挟み込まれていた。


「……これは?」


確かに怪我は多かった。


だが、ここまで全身に及んでいたのか。


疑問が浮かぶ。


ナリムは首を振った。


「切り傷とか擦り傷は、ほとんど治ってるはずだよ」


「むしろリオムの方が酷かったくらい」


リオムがむっとした顔をする。


ナリムは少し表情を変えて続けた。


「むしろラウネスは……」


「全身の筋肉が怪我してるんだって」


ラウネスの眉が動く。


「限界を超えて魔法を使った代償だって、エルフが言ってたよ」


「……代償か」


ラウネスの言葉が途切れる。


ようやく。


戦える力を手に入れたと思った矢先だった。


だがナリムは、すぐに続けた。


「でもね」


「エルフが言うには、身体を鍛えて栄養のある物を食べれば、また限界を超えられるって」


ラウネスは少し考え、真顔で言った。


「つまり……肉を食えばいいのか?」


一瞬の沈黙。


そして。


ナリムとリオムが同時に吹き出した。


小屋の中に笑い声が広がる。


ラウネスはむっとした顔をする。


だが。


不思議と、心は落ち着いていた。


生きている。


仲間も、生きている。


それだけで今は、十分だった。

それからさらに二日が経った。


ラウネスも、ようやく自分の足で動けるようになっていた。


その間、毎日小屋を訪れる者がいた。


エルフの魔法使い――カイルだ。


彼は静かな物腰の青年だった。


ラウネスやリオムの側に来ると、そっと手を触れる。


すると――


淡く暖かな光が二人の身体を包み込んだ。


それはカイルが精霊から借り受ける力。


穏やかな光はゆっくりと身体に染み込み、痛みを和らげ、傷ついた身体を癒していく。


その治療のおかげで、ラウネスとリオムの回復は思った以上に早かった。


そして。


二人が自力で歩けるようになったその日の夜、エルフの集落で宴が開かれた。


森の広場には大きな焚き火が焚かれ、夜空へ火の粉が舞い上がる。


エルフ達はよく飲み、よく歌った。


弦を弾く音。

笛の澄んだ旋律。

太鼓の軽やかなリズム。


様々な楽器が奏でられ、人々は笑いながら語り合う。


賑やかな饗宴の中でラウネス達は、ザンとミルと共に長老の隣へと招かれていた。


主賓席だった。


宴が始まると、エルフ達が口々に客人の活躍を称え始める。


今回のゴブリン族の襲撃は激しいものだった。


オーガまで加わり、各地で激戦が繰り広げられていたという。


その中でもザンとミルの戦いは特に語り草となっていた。


二人だけで、七人のゴブリン族を切り伏せたのだ。


さらに、三つに分かれて戦った他の戦場にも、オーガが現れていた。


だが。


エルフ達が最も驚いたのは、小さな友人たちの戦いだった。


ハーフリングだけで。


ゴブリン族五人。


そしてオーガ一人。


それを討ち倒したのだ。


宴の視線が、一斉にラウネスへ向けられる。


重傷を負いながらも、最後にオーガの首を落とした少年。


誰かが声を上げた。


「ラウネスこそ妖精族一の勇気ある者である!」


すると、周囲から歓声が上がった。


「小さき友人たちは、永遠にエルフの友人である!」


杯が掲げられる。


歌声がさらに大きくなる。


この日ばかりはラウネスも全てを忘れていた。


豪快に肉をかじり。


甘い果実酒で喉を潤す。


仲間たちは笑い。


エルフたちは歌う。


宴は尽きることなく続き――


やがて。


森の夜は、ゆっくりと更けていった。


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