第二十八話 激突!見せてもらおうか新たなラウネス達の力を!
ラウネスたちは森の中を急いでいた。
秋も終わりに近づき、足元の草はもう深くない。
走りにくさもなく、急ぎ足でも十分に進むことができた。
時折足を止め、ガルドが目を閉じる。
――視覚共有。
上空を旋回するセイラの視界を借り、ゴブリンの位置を確認しているのだ。
ガルドが訓練の末に身につけた魔法だった。
だが、万能というわけではない。
視界を共有している間は、ガルド自身の視界が閉じてしまう。
さらに見えるのはあくまで上空からの景色だけだ。
セイラ自身を魔法で強化することもできないため、近づきすぎれば反撃を受ける危険もある。
ガルドは目を開いた。
「大丈夫。方角は変わってないよ」
ラウネスは頷いた。
「よし。なら急ごう」
再び駆け出す。
魔法を習得したのはガルドだけではない。
皆、それぞれ自分の魔法を手に入れていた。
それに身体も鍛えてきた。
あの日の悔しさを胸に刻みながら。
ルウの鼻がぴくりと動く。
ナリムが顔を上げた。
「ラウネス。匂いが届く範囲まで来たよ」
ラウネスは手を上げた。
「よし。一度呼吸を整えるぞ」
全員が足を止める。
ナリムがラウネスの隣に寄ってきた。
「狩りの時みたいに、僕とルウが後ろに回り込もうか?」
だがラウネスは首を振った。
「いや。今回は動物相手じゃない」
「孤立したナリムたちが狙われる可能性もある」
そして静かに言った。
「皆でまとまって戦おう」
ナリムも頷いた。
ラウネスは全員を見渡す。
「ガルド。セイラは一度休ませろ」
「戦闘が始まったら、上空を旋回させて待機」
「フィルカナの一矢目を合図に攻撃開始だ」
フィルカナは小さく頷く。
ラウネスは続けた。
「ピンチになったら――」
「フィルカナは枝を」
「リオムは横に広く穴を」
「タイミングはフィルカナに任せる」
リオムとサフの魔法は穴掘りだった。
エルフの魔法が地面に直接働きかけるのに対し、サフの魔法は地中から発動する。
そのため、リオムから離れた場所でも地面を操ることができるのだ。
ラウネスはナリムを見る。
「ナリム。作戦はこれでいいか?」
ナリムは少し考え、すぐに笑った。
「いいと思うよ」
そして静かに言う。
「僕たちの力を見せてやろう」
その時だった。
「ちょっと待って、ラウネス」
ガルドが声を上げる。
「一人だけ、少し間を空けて移動してるよ」
ナリムがすぐに言った。
「弓兵かもしれない」
皆の表情が引き締まる。
「奥からいつ矢が飛んでくるかわからない。気をつけて」
ラウネスも頷いた。
「よし」
剣の柄に手をかける。
「移動再開だ」
短く言った。
やがて、ゴブリンたちが木々の隙間から姿を現し始めた。
確認できるのは五体。
そして奥に、もう一体いる気配。
ゴブリンたちもこちらに気づいたようだった。
前列の二体が盾を構え、じりじりと前進してくる。
ラウネスは短く息を吐いた。
フィルカナが静かに弓を引く。
小さく二言、呟く。
そして――
矢を放った。
しゅっ。
風を纏った矢は真っ直ぐ盾へ向かう。
だが、盾に届く寸前に軌道が曲がった。
弧を描いた矢は盾を避け、後方のゴブリンの肩へ突き刺さる。
「ぐあっ!」
苦悶の声が上がる。
フィルカナは間髪入れず、二射目を放った。
その瞬間――
ラウネスたちも駆け出す。
矢と同時に、ナリムとルウが先行する。
直前で左右に散開。
再び矢が弧を描き、横合いからゴブリンを狙う。
だが今度は石刀が振り払った。
火花が散る。
その一瞬の隙を、ラウネスが逃さない。
ラウネスとガルドが突入した。
ラウネスは一気に踏み込む。
「はあっ!」
気合いと共に剣を振り抜いた。
盾に直撃する。
鈍い衝撃音。
盾の表面が大きく削れ、ゴブリンの足が止まる。
同時にガルドが大槌を振り抜く。
重みを増した一撃。
もう一体の盾を、下からかち上げた。
轟音が森に響いた。
盾が大きく弾き上がる。
その隙にリオムが滑り込んだ。
短剣が閃く。
だが。
それを察したゴブリンの槍兵が、後方から突きを放った。
鋭い一撃。
リオムは寸前で踏みとどまり、身体をひねる。
槍の穂先が鼻先をかすめた。
三人はすぐに距離を取る。
互いに構え直す。
ここでようやく、敵の構成がはっきり見えた。
盾と棍棒のゴブリンが二体。
槍兵が二体。
そして後方に石刀のゴブリンが一体。
じり、じりと距離が詰まっていく。
張り詰めた空気。
その時だった。
一陣の風が吹いた。
――ルウだ。
横に回り込んでいたルウが、一瞬の隙を見逃さなかった。
意識の外から。
一気に飛びかかる。
後方のゴブリンはフィルカナの弓を警戒していた。
そのため、ナリムたちの方向への注意が薄れていたのだ。
がぶり。
ルウの牙が、石刀を握る腕に食い込む。
ゴブリンは何が起きたのか理解できないまま地面へ引き倒された。
そのまま、森の奥へと引きずられていく。
突然の出来事に、槍兵が反応した。
ルウを追おうと一歩踏み出す。
だが――
ラウネスが前へ出た。
剣を構える。
その一歩が、槍兵の動きを止めた。
槍兵は悔しそうに歯を鳴らし、槍を握り直す。
ラウネスは口元を歪めた。
まるで獲物を前にした獣のような笑みだった。




