第二十七話 大規模襲撃!ゴブリン戦線異常あり!
秋も深まり、森の木々は色を変え始めていた。
ラウネスたちも、すっかりエルフの集落に馴染んでいた。
それぞれが自分の課題を見つけ、日々の訓練に励んでいる。
木の葉が風に舞う中――
ラウネスとザンは向かい合い、木剣を構えていた。
かつてのラウネスは、ただ力任せに剣を振るうだけだった。
だが今は違う。
相手の動きを読み、次の一手を考えながら剣を振るっている。
「いいぞ! 集中を切らすなよ!」
ザンの声が飛ぶ。
「もっと速くいくぞ!」
「くっ……!」
次の瞬間――
ザンの木剣の音が変わった。
ごうっ――
風を切り裂く鋭い音。
重い一撃だった。
ラウネスはとっさに木剣を合わせる。
まともに受けるのではなく、斜めに逸らし、力を流す。
もし正面から受けていれば、木剣ごと砕かれていただろう。
ザンはわずかに頷いた。
「それでいい」
「身体強化で身体が強くなっても、剣まで強くなるわけじゃない」
「剣は“切るもの”だ。忘れるな」
ラウネスに返事をする余裕はなかった。
息が荒い。
全身から汗が流れ落ちる。
だがその姿には、確かな変化があった。
――成長だ。
ラウネスは確実に強くなっていた。
やがてザンが木剣を引いた。
「よし。今日はこれくらいでいいだろう」
ザンはまるで息も乱していない。
軽く木剣を肩に担ぐ。
対照的にラウネスは、膝に手をついて呼吸を整えていた。
額の汗を拭う。
そんなラウネスを見て、ザンは満足そうに笑った。
その時――
しゅたっ。
二人の間に影が降りた。
ルウに跨ったナリムだった。
以前は細く頼りない体つきだったナリムも、今では違う。
大きさこそ変わらないが、服の下の身体は引き締まり、しっかりとした筋肉がついている。
「丁度よかったかな?」
ナリムは軽く手を振った。
「二人とも、シルヴァさんが呼んでるよ」
「またゴブリン族が近づいてるって」
ラウネスの顔がぱっと明るくなる。
「また見学か?」
ナリムは肩をすくめて笑った。
「ラウネスは訓練の最中なのに元気だね」
ラウネスは鼻を鳴らす。
ナリムは少し間を置いてから、にやりと笑った。
「ご希望通り」
そして静かに言った。
「武装を整えて集合だよ」
ラウネスが準備を整えて集落の広場へ向かうと、すでにフィルカナたちは揃っていた。
皆、揃いの革鎧を身につけている。
腰には石表皮の短剣。以前よりも刃はよく磨かれ、鈍い光を放っていた。
「準備はできてるわよ」
フィルカナが弓の弦の張りを確かめながら振り向く。
その弓は、エルフたちの手ほどきを受けて整えられたものだ。
かつてラウネスたちが持っていた簡素な弓とは、まるで別物のように仕上がっていた。
「シルヴァから話は?」
ラウネスが尋ねる。
「まだよ。全員集まってからみたい」
フィルカナは肩をすくめた。
その後も次々とエルフたちが広場へ集まってくる。
やがて人数は二十八人に達した。
以前、ラウネスが見学した戦いでは十一人だった。
それを思えば、今回はかなり大きな規模だ。
ほどなくして、シルヴァが姿を現した。
ガルドと短く言葉を交わす。
ガルドの腕には、セイラが静かに止まっていた。
やがてシルヴァは前に出ると、全体を見渡し、声を張り上げた。
「よく集まってくれた」
広場のざわめきが止まる。
「もう聞いてる奴もいるだろうが――」
シルヴァは唇の端を歪めた。
「ゴブリン族が、数を揃えて来やがった」
エルフたちの視線が鋭くなる。
「狙いは各所にある倉庫だろう」
そして続けた。
「数は――約百」
その言葉が落ちた瞬間、広場にざわめきが広がった。
エルフたちにとっても、想定外の規模だったのだろう。
シルヴァは構わず話を続ける。
「奴らは三つの集団に分かれて進んでいる」
「だからこっちも三つに分かれるぞ」
シルヴァは手早くエルフたちを三つの隊に分け、指示を与えていく。
やがて指示を終えると、ラウネスたちの元へ歩いてきた。
「待たせたな」
そう言って腕を組む。
「ガルドの報告だと、三つの本隊とは別に――」
指を二本立てた。
「小さな集団が二つ。五、六匹ってところだ」
ラウネスたちをぐるりと見渡す。
「ザンとミル」
「それとラウネスたちで二手に分かれて対処してもらう」
ラウネスの胸が高鳴る。
シルヴァはさらに続けた。
「迎え撃つんじゃない」
「敵を捕捉して――襲撃だ」
そしてガルドを見る。
「ガルドの目があれば捕捉は簡単だろう」
少し間を置き、低く言った。
「だが無理はするなよ」
その言葉に、ラウネスは胸を叩いた。
「任せてくれ」
にっと笑う。
「訓練の成果を見せてやるさ」
シルヴァはわずかに笑う。
ラウネスは振り向いた。
「ガルド」
「道案内頼む」
ガルドは満面の笑みで、同じように胸を叩いた。
「任せろ!」
――初陣が、始まろうとしていた。




