第二十六話 人間の戦士ブロク 再び大地に立つ!
くそっ――!
小さな林の中に、激しい音が何度も響き渡っていた。
がつん。
がつん。
がつん。
木の幹に、剣が叩きつけられる音だ。
人間族の戦士、ブロクの胸の内は荒れていた。
力任せに剣を振るうたび、肩の傷が鈍く疼く。
その傷の原因は、昨日の出来事だった。
村に現れた、たった三匹のチビ――。
これまでのブロクの人生は順調だった。
生まれつき恵まれた体格。
それだけで徴兵に選ばれ、戦場へ送られた。
そして戦功を立てた。
表彰もされた。
さらに褒美として、貴重な青銅の剣まで下賜された。
村に戻った時、ブロクは英雄だった。
だが――
その誇りは、昨日の出来事で傷ついた。
チビどもを取り逃した。
それどころか、肩に矢傷まで負ったのだ。
「ちっ……」
悔しさが胸の奥で渦巻く。
「くそっ!」
ブロクは怒りに任せ、再び剣を木に叩きつけた。
がつん!
その時だった。
「おい!ブロク!」
声がかかる。
振り向くと、村人が息を切らしながら駆け寄ってきていた。
「クニから使者が来たぞ!」
その言葉に、ブロクの顔がぱっと明るくなる。
「また、お前の出番かもな!」
クニから使者が来る理由は、ほとんど決まっている。
麦や生産物の徴収。
――あるいは、徴兵だ。
ブロクが戦功を立ててから、すでに五年が経っていた。
そろそろ新しい奴隷も必要になる頃だろう。
気づけば、ブロクは走り出していた。
村の広場へ向かって。
広場には、すでに多くの村人が集まっていた。
そしてその中央には――
皮の鎧に身を包んだ兵士たちが、整然と並んでいる。
その中心に立つ一人の男。
鎧は着ていない。
だが華美な衣服をまとい、威圧的な存在感を放っていた。
男が大きく声を張り上げる。
「聞け!」
広場に沈黙が落ちた。
「雪解けと共に、軍を動かす!」
ざわめきが広がる。
男は続けた。
「この村からは十人連れていく!」
「冬が来る前に、邑へ集まるように!」
その瞬間。
ブロクは群衆をかき分け、最前列へと進み出た。
そして――
剣を高く掲げる。
「おうっ!!」
広場に響く雄叫び。
それに呼応するように、若者たちの声が次々と上がった。
「俺たちも戦功を立てるぞ!」
「ブロクばかりに良い格好させるか!」
「負けるものか!」
そう叫び返すと、広場のあちこちからどっと笑いが起きた。
その様子を見ていた使者が、ゆっくりと一歩前へ出る。
群衆の視線が自然とその男へ集まる。
男はまっすぐブロクを見つめた。
ブロクも姿勢を正し、表情を引き締める。
「貴様がブロクだな」
低く響く声だった。
「前の出征では活躍したそうだな」
使者はわずかに頷く。
「今回も期待しているぞ」
一拍置き、さらに言葉を続けた。
「――我らの王も、貴様には期待している」
その言葉が広場に落ちた瞬間――
「おおっ……!」
村人たちの間からどよめきが広がった。
この村の者たちは、誰もクニをまとめるオウの姿を見たことがない。
大きな邑すら、実際に見た者はほとんどいなかった。
それでも皆、昔から聞かされている。
まだこの辺りが荒れた草原だった頃――
オウがハーフリングたちを追い払い、
草原の中央に土壁で囲まれた大きな邑を築いたのだと。
その邑が出来てから、人々は守られるようになった。
村は襲われなくなり、
こうして安心して暮らせるようになったのだと。
だからこそ――
そのオウから期待されているブロクは、
村人たちにとってまさに英雄だった。
ブロクはゆっくりと息を吸う。
そして――
再び青銅の剣を高く掲げた。
「おおおっ!!」
広場の熱気が一気に膨れ上がる。
若者たちの声が重なり、
村は戦の高揚に包まれていった。




