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第二十四話 精霊に守られ人 フィルカナ

ラウネスが対話を始めるのと同時に、フィルカナも地面へ手をつき、静かに目を閉じた。


深く息を吸い、ゆっくり吐く。


ふぅ……。


呼吸が少しずつゆっくりになり、外へ向いていた意識が、内側へと向かっていく。


やがて――


大地から、暖かな力が流れ込んでくるのを感じた。


それだけではない。


肌に触れる空気からも、微かな鼓動のような温もりが伝わってくる。


風の声。


光の波。


木々の囁き。


大地の脈動。


まるで世界そのものが、優しく語りかけてくるようだった。


フィルカナは、静かに目を閉じたままその感覚に身を委ねる。


(これが……精霊)


エリシアスは言っていた。


――会話をしろ。


フィルカナはさらに意識を集中させた。


すると、不思議な感覚が生まれる。


外の世界ではなく、自分の内側へと引き込まれていくような感覚。


その奥で――


声が聞こえた。


――悔しい。


小さく、震える声。


――私にはラウネスのような勇気も、決断力も、行動力もない。


――私は弱い。


胸の奥に沈んでいた感情が、次々と浮かび上がってくる。


それは後悔。


嫉妬。


劣等感。


そして――自己嫌悪。


――強くなりたい。


――力が欲しい。


その想いは、胸の奥で燃えるように広がっていく。


――私は……。


フィルカナの心が、震える。


――私は、ラウネスのようになりたい。


ぽたり。


頬を涙が伝った。


地面に手をついたまま、目を閉じたまま。


フィルカナの頬は、いつの間にか涙で濡れていた。


そっと手を離し、自分の胸元に当てる。


どくん。


どくん。


鼓動が早くなっている。


フィルカナは深く息を吸った。


そして、ゆっくりと呼吸を整え直す。


ふと横を見る。


ラウネスはすでに立ち上がり、エリシアスと真剣な顔で話していた。


その姿を見た瞬間、胸の奥で小さな声が囁く。


――浅ましい。


自分の魂が、これほど歪んでいたなんて。


フィルカナは、信じられない気持ちになった。


けれど。


全身を包んでいた精霊の温もりは、まだ消えていない。


優しく、柔らかく。


まるで抱きしめるように、フィルカナを包み込んでいる。


そして――


小さな声が、そっと心に響いた。


「大丈夫」


「君は一人じゃないよ」


「僕たちがいるよ」


フィルカナはもう一度、ゆっくりと目を閉じた。


深く、静かに意識を沈めていく。


暗い、暗い闇の中へ。


すると――


声が聞こえた。


それは精霊の声ではない。


自分自身の声だった。


――ずるい。


――なんで私だけ弱いの。


――ラウネスに着いて来てるだけ。


――足手まといだって知ってるのに。


――勇気なんてないのに。


――本当は怖い。


胸の奥に沈んでいた感情が、次々と浮かび上がる。


その言葉は、刃のように鋭くフィルカナの心を刺した。


けれど――


ふわり、と。


再び身体が温もりに包まれる。


――大丈夫。


――僕たちがついてる。


優しい声が、闇の中に響いた。


精霊達の声だった。


気がつくと、さっきまで聞こえていた自分の声は消えていた。


フィルカナは小さく思う。


(自分の声って……)


(こんなに不快だったのね)


闇の中で、そっと視線を落とす。


そこには――


泣いている自分がいた。


弱くて、震えている自分。


フィルカナはゆっくりと近づく。


そして、そっと抱きしめた。


自分の弱さは変わらない。


それでも――


もう、目を逸らさない。


温もりが広がっていく。


フィルカナを包んでいた精霊の優しい力は、泣きじゃくる小さなフィルカナも一緒に包み込んでいく。


大丈夫よ、フィルカナ。


心の奥で、もう一人の自分が囁く。


私には――


私達がついている。


気がつけば、日は大きく傾いていた。


フィルカナはゆっくりと目を開く。


不思議だった。


目を閉じていなくても、精霊の存在を感じることが出来る。


森の中の空気が、優しく震えている。


「流石フィルカナだな」


ラウネスの声が聞こえた。


振り向くと、いつもの真っ直ぐな瞳でこちらを見ている。


エリシアスも驚いた顔をしていた。


「驚いた」


腕を組みながら呟く。


「初めてで精霊とここまで繋がれるのは、エルフでも見たことがない」


そして真剣な目で尋ねた。


「どこまで感じた?」


フィルカナはゆっくりと辺りを見渡す。


森が、以前とは違って見えた。


「光と影」


「風に、大地に、木々」


そして小さく微笑む。


「ルウ達も」


「沢山の声を感じたわ」


不思議と心は穏やかだった。


「不思議な気分」


「妙に穏やかに感じるの」


その言葉を聞いた瞬間、エリシアスは目を見開いた。


「それでは……」


信じられないように呟く。


「まるで長老のようではないか」


そして小さく笑った。


「どうやらフィルカナは――」


「精霊に愛されているらしい」


森の風が、静かに揺れた。


まるでその言葉に頷くように。



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