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第二十二話 ゴブリンvsエルフvs見学者

戦争の現実的表現があります。

苦手な方はご注意下さい。

激しい戦闘音が森の奥で反響していた。


エルフ達は木々の上に陣取り、高さを活かした戦い方でゴブリン族を圧倒している。


枝から枝へと軽やかに移動しながら、正確無比な矢が次々と放たれる。


「凄い……一方的じゃないか」


ラウネスは思わず嘆息を漏らした。


だがゴブリン族もただやられているわけではない。


数は減らしているものの、盾を横に並べて天蓋のように構え、上からの攻撃を防ぎ始めていた。


さらに後方から現れた一体のゴブリン族の戦士が、骨で作られた巨大な斧を振るう。


邪魔な木の根や枝を、次々と切り払っていく。


「くそっ、道を作らせるな……」


その時だった。


一人のエルフが地面に片手をつき、静かに何かを語りかけ始めた。


声は小さく、ラウネスには言葉までは聞き取れない。


だが、不思議と――

その声は暖かく聞こえた。


すると。


ゴブリン族の戦士が切り払ったはずの枝が、ゆっくりと動き出す。


折れた枝が、まるで生き物のように伸び始めたのだ。


「これが……エルフの魔法なのね」


フィルカナが思わず声を上げた。


その瞬間だった。


盾の隙間から、一筋の矢が飛び出す。


「危ないわ!」


矢は一直線に、魔法を使っていたエルフへと向かう。


次の瞬間――


ドスッ


矢はエルフの肩に突き刺さった。


「ぐっ……!」


小さく呻き声を上げる。


だが、それでも彼は魔法を止めない。


魔法の足止めが無くなれば戦士達に被害が出るかもしれない。


痛みに顔を歪ませながらも、片手を地面につけたまま、植物との会話を続けている。


再び、盾の隙間から矢が放たれた。


今度こそ危ない。


ラウネスは咄嗟に剣へ手をかけ、飛び出そうとする。


しかし――


「行くな」


エリシアスの手が、ラウネスの肩を強く押さえた。


次の瞬間。


ヒュンッ


飛んできた矢が、空中で真っ二つに切り落とされる。


シルヴァだった。


魔法を使うエルフに安堵が浮かぶ。


山刀を振り抜き、矢を叩き落としたのだ。


「すまんな。続けろ」


短くそう言うと、シルヴァは山刀を地面へ突き立てた。


そして弓を構える。


何かを小さく呟く。


弓を大きく引き絞り――


放つ。


矢は風をまといながら一直線に飛んだ。


盾の隙間へと吸い込まれる。


「ぎゃっ!」


ゴブリン族から短い悲鳴が上がった。


「今だ!」


シルヴァが鋭く叫ぶ。


「槍を突き立てろ!」


その合図と同時に、横合いから数人のエルフが飛び出した。


手にした槍を一斉に突き出す。


盾を構えていたゴブリン族の陣形が崩れる。


「すげぇ……」


リオムがぽかんと口を開けた。


「おいら何が起きてるか分かんねぇけど……すげぇ事は分かる」


ガルドが激しく首を上下に振る。


「だな……」


その瞬間。


木の上からの矢が、さらに激しさを増した。


崩れた盾の隙間へ、容赦なく矢が降り注ぐ。


ゴブリン族の被害は、目に見えて増えていった。


やがてゴブリン族は、盾の裏で傷ついた仲間を抱えながら、じりじりと後退し始める。


撤退だ。


それを確認したシルヴァが、大きく手を振った。


途端に、矢の雨が止む。


森が静まり返った。


「勝ちだ」


エリシアスが淡々と言った。


その言葉を聞いた瞬間、ラウネスは全身の力が抜ける。


気づけば――


手はまだ剣を握り締めたままだった。


シルヴァはしばらく森の奥を睨み続けていた。


やがてゆっくりと息を吐く。


ゴブリン族は、完全に撤退していた。

「これで終わりか?」


ラウネスが小さく呟く。


「ああ」


エリシアスは短く頷いた。


森には、先ほどまでの激しい戦いが嘘のように静寂が戻っていた。


シルヴァは警備隊の被害を確認しながら、次々と指示を出している。


エルフ達はそれぞれ傷の手当てをしていた。

薬草をすり潰して塗り込む者。

何やら小さく呪文のようなものを呟きながら治療している者もいる。


ラウネス達は、その光景をただぼんやりと眺めていた。


そこへ、一人のエルフの戦士が歩み寄ってくる。


腕には何本もの槍を抱えていた。


戦士はそれを一本ずつ、ラウネス達に渡していく。


「シルヴァ様からの試練だと」


無表情のまま告げた。


「これで死体を確認してこい」


それだけ言うと、戦士はすぐに立ち去っていった。


ラウネス達は顔を見合わせる。


エリシアスが小さく目配せした。


「これから死んだふりをしている奴がいないか確認する」


淡々とした口調だった。


「槍で刺してな」


ガルドとフィルカナの顔が、一瞬で青ざめた。


「な、なぁ……そこまでしなくてもいいんじゃないか?」


リオムがガルドの様子を見ながら、エリシアスに言う。


エリシアスは冷たい視線を向けた。


「怖ければ諦めて、草原に帰るんだな」


短く言い放つ。


その言葉を聞いた瞬間――


「俺はやるぞ」


ラウネスが槍を握り、真っ先に歩き出した。


他の者を待つことはしない。


一体のゴブリン族の死体へと近づく。


槍で腹を裂かれた個体だった。


内臓が飛び出し、目は大きく見開かれている。


瞳にはもう命の光はない。


それでも――


まるでラウネスを呪うように、暗く深い色をしていた。


「近づき過ぎるなよ」


背後からエリシアスの声が飛ぶ。


「死んだふりした奴に斬り殺されたエルフは山程いる」


ラウネスは息を吸い、覚悟を決める。


そして槍を振り上げた。


次の瞬間――


ドスッ


槍を心臓付近へ突き立てる。


肉を裂き、骨を削る感触が手に伝わった。


ラウネスの背筋を、ぞわりとした嫌悪感が走る。


狩りで獣を捌く時とは違う。


もっと重く、もっと不快な感触だった。


それでもラウネスは槍を引き抜く。


続いてナリムが前へ出る。


無言で槍を突き立てる。


リオムも続いた。


フィルカナも震える手で槍を握り、同じように突き刺す。


そして――


ガルド。


槍を突き立てた瞬間、


「うっ……」


その場で胃の中のものを吐いてしまった。


地面に膝をつき、肩を震わせる。


ラウネスは静かにリオムの隣へ歩み寄る。


小さく囁いた。


「ガルドは優し過ぎる」


視線は弟に向いたままだった。


「この旅は……厳し過ぎるんじゃないか?」


リオムはしばらく黙っていた。


そして――


小さく鼻で笑う。


「舐めるなよ、ラウネス」


視線はガルドへ向いている。


「おいらの弟は、そんなに弱くない」


ラウネスは何も言わなかった。


それ以上言う必要がないと分かっていたからだ。


リオムにも分かっている。


ラウネスの言葉が、ガルドを馬鹿にしたものではないことを。


それが――


仲間を想う優しさから出た言葉だということも。


森の静寂の中、

ゴブリン族の死体だけが無言で横たわっていた。


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