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第二十話 エルフの脅威

朝日が昇るよりも早く。

ラウネス達はすでに身支度を整えていた。


昨夜、長老から告げられた提案は、リオムにとっても十分に納得できるものだったようだ。

誰一人として、不満を口にする者はいない。


小屋の前で待っていると、ほどなくしてザンとミルも姿を現した。

ザンは引き締まった表情をしていたが、ミルは大きな欠伸をしながら歩いてくる。


「早いな」


ザンの言葉に、ラウネスは短く答えた。


「変わらないさ」


互いに挨拶は交わしたものの、それ以上、言葉は続かなかった。

張り詰めた空気の中、しばらく待っていると、エリシアスが姿を見せる。


「すまない。待たせたかな」


そう言いながら、悪びれた様子もなく、籠に入った果物と、葉に包まれた肉を差し出してきた。


「まあ、食べながらでいい。聞いてくれ」


一同がそれを受け取るのを見届けてから、エリシアスは話を続ける。


「今回の件は、長老から俺に一任されている」

「まず君達は、冬を越す間、この集落で色々学んでもらう」


ラウネス達は、口に物を運びながら頷いた。


「もちろん、集落の仕事も手伝ってもらいながら、だがな」


少し間を置き、エリシアスは視線をザンとミルに向ける。


「それでだ。ザンとミルには、狩りとラウネス達の訓練を手伝ってもらいたい」

「俺達よりも、剣の扱いには慣れているからな」


二人は特に反論もせず、静かに受け入れた。


「で、問題は――ラウネス達の方だ」


空気が引き締まる。


「戦い方を覚えるのは、当然として……」

「作戦の立て方や考え方。保存食の作り方に薬の作り方とかもだな」

「まず、君達が何が出来るのかを知りたい」

「それにより教え方も変わるからな」


エリシアスの視線が、ラウネス達一人ひとりへと向けられる。


「俺とリオムは剣を使う」

「ガルドは大槌」

「フィルカナは弓だ」

「ナリムは、ルウと一緒に戦う」


最後に、ラウネスは付け加えた。


「それから、セイラとサフもいる」


エリシアスは顎に手を当て、しばらく考え込む。


「……ラウネスとフィルカナは、魔法は使わないのか?」


その問いに、ラウネスは眉をひそめた。


「魔法?」

「それは、エルフが使うものだろう?」


エリシアスは、少しだけ目を細める。


「お前達とは形が違うが――」

「動物とは、魔法で会話しているんじゃないのか?」


その言葉に、驚いたのはリオム達だった。


「え?」

「おいら達って、魔法使ってたのか?」


「その通りだ」


エリシアスは、はっきりと断言する。


「じゃあ、どういう風に使っている?」


リオムは首を傾げながら答えた。


「おいら達は……相手のことが、なんとなく分かるだけだな」

「おいらはセイラのことは分かるけど、サフのことは分かんないし」


その時、それまで黙っていたフィルカナが口を開いた。


「私は、動物なら大体、なんとなく分かるわ」

「ただ……ナリムほど深くは理解できないけど」


その言葉に、ラウネスは思わずフィルカナを見た。


――知らなかった。


ラウネスの胸に、小さな驚きが広がっていた。

「……知らずに使っていたのか」

「なら、その先は、まだ伝わっていないんだな」


エリシアスは小さく息を吐いた。


「先、とは何だ?」


たまらずラウネスが口を挟む。

エリシアスは一瞬、言葉を選ぶように視線を落とした。


「俺が聞いている昔話ではな――」

「ハーフリングは、動物と心を通わせるだけの存在じゃなかったらしい」


ラウネス達は、息を潜めて耳を傾ける。


「感覚を共有したり、動物の力を引き出したり」

「その形は、それぞれ違うが、もっと多様な力を発揮していた……と聞いている」


「……それって」


ナリムが、不安と期待の入り混じった声で尋ねる。


「僕達にも、出来るのかな」


エリシアスは肩をすくめた。


「さあな」

「魔法については、いずれ改めて話してやる」


そう言ってから、少しだけ表情を引き締める。


「それより、今のうちに話しておきたいことがある」


「話?」


ラウネスの声が、自然と硬くなる。


「……ラウネス達は、何で俺達が、こんなにも戦いに詳しいと思う?」


その問いに、ラウネスは即答できなかった。


「それは……」

「正直、俺達も気になっていた」


エリシアスは小さく頷く。


「俺達、妖精族が“妖精”から成長した姿だというのは、もう納得しているな?」


一同が頷く。


「だがな――」

「同じように、“邪妖精”から成長した者達もいる」


空気が、わずかに冷える。


「ゴブリン族や、オーガ族だ」


その名を聞いた瞬間、ザンの顔が苦く歪んだ。

彼は、邪妖精族をよく知っている。


静まり返る中、エリシアスの声だけが、淡々と続いた。

奴らは、俺達に比べて酷く好戦的でな」

エリシアスの声が低くなる。

「特に、豊かな森や川の近くに多く現れる」


そう言って、彼は周囲の木々へと視線を向けた。


「……この森も、そうだ」


言葉と同時に、握った手に力がこもる。


「獲物や恵みの少ない草原には、あまり出ない」

「だから、ラウィル族には伝わらなかったんだろう」

「奴らの存在も、戦い方もな」


短い沈黙のあと、エリシアスは続ける。


「だから俺達エルフは、ずっと戦ってきた」

「戦うことで、この森と、ここで生きる者達を守ってきた」


その視線が、ラウネス達へと戻る。


「俺達は、ハーフリングの戦い方は分からない」

「教えられるのは、狩りの技と――奴らとの戦い方だけだ」


一呼吸置き、静かに言い切る。


「それが、エルフが、お前達にしてやれることだ」


ラウネスは迷わなかった。

まっすぐにエリシアスを見据え、力強く頷く。


「……よろしく頼む」


その言葉に、エリシアスは僅かに口元を緩めた。


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