第十九話 灯 アドバイスの行方
森の向こうに連なる稜線が、ゆっくりと赤く染まり始める頃。
エルフ達による歓迎の宴が始まった。
「今日は、新たに妖精族の客人が増えた」
「これほど多くの種が集うのは、いつ以来だろうな」
「皆、存分に歓迎しようじゃないか」
エルフの長老が高らかに木の器を掲げると、集まった者たちが一斉にそれに応えた。
宴の場に集っているエルフの男達は、ざっと見ても八十人は下らない。
長い木のテーブルがいくつも並び、ラウネス達はその一角で歓待を受けていた。
隣にはエリシアスが腰を下ろしている。
「長老からの話は、飯が落ち着いてからだ」
「まずは、たくさん食え」
そう言ってから、エリシアスは少し身を寄せ、ラウネスにだけ聞こえるように囁いた。
「……長老と話す前に、飲みすぎるなよ」
木の器に注がれているのは果実酒だった。
羊乳酒とはまるで違う、甘く芳醇な香りが立ちのぼっている。
リオムなどは「すげぇ……うめぇな、これ」と、頬いっぱいに料理を詰め込み、すっかり上機嫌だ。
だがラウネスは、口をつけてもほとんど喉を通らなかった。
周囲が満腹に近づき、宴のざわめきが一段落した頃。
ラウネスの向かいの席に、長老が静かに腰を下ろした。
「さて……腹も落ち着いたかな?」
その問いに、ラウネスは緊張を押し隠し、深く頷く。
「先に、結論から話そう」
離れた場所で、誰かが息を呑む音がした。
「今の君らが、人間族から同族を救い出すことは……難しい」
「それは、君ら自身も気付いているのではないか?」
リオムは視線を伏せ、唇を噛みしめる。
「それでは、俺達は……どうすればいいのでしょう?」
ラウネスの問いに、長老はゆっくりと頷いた。
「今の君達が、自分達よりも大きな者と戦うためには――」
「武器が必要だ」
その言葉に、ラウネスの表情が曇る。
青銅の剣を振るっても、あの人間族――ブロクには勝てなかった記憶が、胸を刺した。
「ラウネスよ。ドワーフの里を訪ねよ」
長老は、はっきりと告げた。
「そこに、答えがあるはずだ」
「……答え、ですか?」
「そうだ。我々が使う武器も、ドワーフ共が作ったものだ」
「彼らなら、君達に合った武器を作り出せるはずだ」
「では、ドワーフとは、どこへ行けば会えるのでしょうか?」
「それについては、案内を付けよう」
「だが……険しい旅になる」
その言葉を聞いたラウネスの瞳には、先程までとは違う光が宿っていた。
だが、長老は続けて静かに首を振る。
「しかし、今は時期が悪い」
「今出れば、途中で雪に埋もれてしまうだろう」
ラウネスが何か言いかけた、その瞬間。
「焦るな」
遮るように、しかし柔らかく、長老は言葉を重ねた。
「気持ちは分かる。だが焦ってはならん」
「それに……そんなに悪い話でもない」
長老は、宴の場をゆっくりと見渡す。
「雪が解けるまでの間」
「我々が、戦い方を教えてやろう」
その言葉に、ラウネス達の瞳に、確かな力が灯った。




