表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/38

第二話 ラウネスの旅立ち

天幕の布を押しのけて、ラウネスは外に出た。

夜気が思ったより冷たく、草の匂いが濃い。


焚き火のそばに、ナリムがいた。

隣にはいつも通り狼のルウが丸くなっている。

膝を抱え、火をつつきながら、こちらを見上げる。

癖の強い赤毛の隙間から眠たげな瞳が見える。


「やっぱり反対されたね」


ラウネスは苦笑した。


「ああ。予想はしてた」


隣に腰を下ろす。

仲間が連れ去られ始めてから、毎日こうして話をしている。

ナリムとフィルカナは部族の中でも、同じ歳に産まれた兄弟の様な存在だ。


「でも――」

ナリムは焚き火に枝を放り込みながら続ける。

「行くんでしょ?」

きっと止めても行ってしまう。


ラウネスは少し間を置いた。


「ああ。仲間は、見捨てられない」


短い言葉だったが、迷いはなかった。


ナリムは何も言わずルウの首の後ろを撫でる。


ラウネスは焚き火の向こうを見つめる。

暗い草原の先――放牧地、子供たちの笑い声、夕暮れに集まる家畜。

それらが、脈絡もなく胸に浮かんでは消えていく。


「俺たちはさ……」

ラウネスはぽつりと言った。

「争うために生きてきたわけじゃない」


ナリムは黙って聞いている。


「動物と一緒に歩いて、季節を見て、腹が減ったら分け合って……」


言葉が途切れる。


「それが、弱いってことなのか?」


焚き火が、ぱちりと音を立てた。


ナリムは少しだけ笑った。


「弱いかどうかは知らないが…僕は嫌いじゃないよ」


ラウネスは顔をしかめる。


「お前は、いつもそうだ」


「君は考えすぎるんだよ……放っておくなんてできないんだよね?」


「……ああ」


そう言いながらも考えすぎるのはナリムの方だ。


しばらく、二人とも黙った。


その少し後ろ、天幕の影にフィルカナが立っている。

腕を組み、視線は焚き火ではなく遠くの闇に向いていた。


ラウネスはふと振り返り、ナリムに言った。


「……頼りにしてるぞ」


まるで、当たり前のことのように。


ナリムは一瞬だけ目を見開き、すぐに肩をすくめた。


「君と僕の仲でしょ」

「逃げるなら、もっと早く逃げてる」


ラウネスは小さく笑った。


ラウネス達は遊牧地の外に出たことはない。


不安がないわけでもない。


見たこともない人間族に危険な魔獣も出るかもしれない。


それでも正義感の強いラウネスが見て見ぬ振りはできなかった。


ナリムが着いてきてくれる。


それが嬉しかった。


心強かった。


夜が明ける。


夏の終わりが近づいている。季節が変われば遊牧民は移動してしまう。人間族の村落とも距離が出来てしまう。

助けに行くなら今しかない。


草原に薄い霧がかかり、空は淡く白んでいた。

狼が一匹、天幕のそばで静かに座っている。


ナリムはその首元を軽く撫でた。


ラウネスは一人と一匹に視線を持っていく事なく真っ直ぐに草原を見つめている…


「いよいよだな」

「行くぞ」


「うん」


狼は低く喉を鳴らし、立ち上がる。


そこへ足音。


「間に合って、よかった」


フィルカナだった。

弓を背負い、表情は硬いが、目はまっすぐだ。


「……来るのか?」


ラウネスが問う。


「賛成したからには責任は持つわ」

フィルカナはそれだけ言った。


「君はラウネスが心配なだけだろ」

「茶化すなよナリム」


ラウネスは一瞬だけ空を見上げ、それから前を向いた。

ナリム

・ラウネスの幼馴染。赤毛で目を覆うほど長い前髪。思慮深い性格。

ルウ

・ナリム共に育った灰色狼。ナリムを背負って走り回れるほど大きい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ