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第十八話 それぞれの気持ち

エリシアスに案内されて入った小屋の中は、思った以上に広かった。


入り口の脇には石造りの竈門が据えられており、使い込まれた跡が見て取れる。

壁際には木で作られた窓があり、外せば室内にいながら森の光と風を取り込める造りになっていた。


天井からは、いくつもの布が垂れ下がっている。


「釣床だ。好きなのを使え」


そう言われて、ラウネスたちは顔を見合わせた。


「……これは、何に使うんだ?」


ラウネスが率直に尋ねると、エリシアスは一瞬だけ目を細め、何も言わずに一つの布へと歩み寄った。


次の瞬間。


ひょい、と身体を滑り込ませるようにして、布に収まる。


「こう使う」


ぶらり、と揺れる。


「……なかなか難しそうだな」


ラウネスが呟くと、エリシアスは肩をすくめた。


「あとは好きに使ってくれ」


それだけ言い残し、さっさと小屋を出ていった。


扉が閉まる。


しばらくの間、誰も何も言わなかった。


各々が、好きな場所に腰を下ろす。

床に座る者、壁にもたれる者、試しに釣床に触れてみる者。


小屋の中は、しんと静まり返っていた。


それぞれ、感じるところがあったのだろう。


最初に沈黙を破ったのは、リオムだった。


「くっそ……」


身体を大の字に伸ばし、天井を見上げる。


「あいつら、強そうだったな」


悔しそうに口を歪める。


「そうだな」


ラウネスが短く応じる。


「あのブロクって呼ばれてた人間族よりも……」

「エルフも、ロップイヤーも、ずっと強そうだった」


リオムは唇を噛んだ。


「おいら、魔獣にも勝てたしさ」

「五人揃えば、人間族にだって勝てるんじゃねぇかって思ってたんだけどな」


その言葉に、誰もすぐには答えなかった。


ラウネスは、黙り込んだまま考え込んでいるナリムに視線を向ける。


「……何を考えてるんだ?」


ナリムは、少し驚いたように顔を上げた。


「僕はね」

「森に着いてからずっと、エルフたちの生活とか、使ってる物を見てたんだ」


ゆっくりと言葉を選ぶ。


「正直……こんなに差があるなんて、考えてなかったよ」


ラウネスが、低く唸るように頷いた。


ナリムは続ける。


「服や、身につけている物」

「武器に――」


視線が、そっと自分の石の短剣に落ちる。


「食べ物……」


少し間を置いて。


「あくまで、僕の想像だけどさ」

「彼らって、常に争いに備えて生きてるんじゃないかな?」


「……どういうことだ?」


ラウネスの声が、わずかに低くなる。


ナリムは肩をすくめた。


「何となく、だよ」

「何となくだけど……そう感じただけ」


指折り数えるように言葉を並べる。


「警備隊がいて」

「倉庫があって」

「子供の頃から弓を覚えて」


「戦うために用意してるように、見えなかった?」


リオムが、はっとしたように声を上げる。


「……それ、分かるかも」

「おいら、最初、殺されるかと思ったもん」


「僕達はエルフは争いを好まないって考えてたけど」

「エルフでも争わなければならない理由があるのかも」


ラウネスは、視線だけで続きを促した。

「僕たちはさ」


ナリムが、静かに口を開いた。


「森の賢者に相談さえすれば、何とかなるって気で、ここまで来たでしょ?」

「でも……本当に、それだけでいいのかな?」


誰もすぐには答えない。


「僕たちは、彼らから学ぶべきことがあるんじゃないかな?」


その言葉に、ラウネスは何か言いかけて、結局言葉を飲み込んだ。


沈黙を破ったのは、ガルドだった。


「……おらは、ナリムの言うこと、何となく分かるな」


低く、しかし確かな声だった。


だが、すぐにリオムが反発する。


「おいらは反対だ」


勢いよく身体を起こし、言葉を重ねる。


「おいらたちを逃がしてくれた、皆が待ってるんだぞ」


ガルドは、唇を噛みしめたまま首を振る。


「けどよ……今の、おらたちが勝てるとは思えねぇ」


「びびってんのかよ、ガルド!」


「そういうことじゃねぇだろ!」


空気が、一気に張り詰める。


言葉が鋭くなり、感情が先に立つ。


「――止めろ。二人とも」


ラウネスの声が、はっきりと小屋に響いた。


兄弟は、はっとして口を閉ざす。


「まずは、長老殿の話を聞いてからにしよう」


ラウネスは、皆を見回しながら続けた。


「お前たちの気持ちは分かった」

「俺も……悔しい思いは、一緒だ」


その言葉は、誰かを否定するものではなかった。

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