第十五話 森の賢者・偉い人に聞いてみよう!
シルヴァが戻ってくると、短く告げた。
「長老様がお会いになるそうだ」
一瞬の間を置いて、付け加える。
「だが、中に入れるのは一人だけだ。ラウネス、お前だ」
ラウネスは小さく息を吸い、静かに頷いた。
仲間たちの視線を背に受けながら、重そうな木の扉の前に立つ。
扉は厚く、長い年月を生きてきた森の重みを、そのまま閉じ込めているようだった。
シルヴァが先に立ち、押し開く。
軋む音と共に、木の香りが一気に流れ込んできた。
中に入ると、大きな木製のテーブルが、どんと構えている。
飾り気はないが、削り出された木肌は滑らかで、確かな存在感を放っていた。
「座れ」
シルヴァに促され、椅子が引かれる。
ラウネスは一瞬、動きを止めた。
椅子というものを、使い慣れていないからだ。
戸惑っていると、背中を軽く押される形で座らされた。
「……こうか」
低く呟きながら姿勢を正す。
普段は草の上に直接、座ることの多いラウネスには、妙に座り心地が悪い。
部屋の中は、木と土の匂いに満ちていた。
壁も床も天井も、すべてが森の一部であるかのようだ。
ラウネスは膝の上で、ぐっと拳を握りしめる。
逃げ場はない。ここで言葉を誤れば、それで終わりだ。
その時。
ギギギ……と、木が擦れる音が響いた。
奥の扉が開き、三人のエルフが姿を現す。
いずれも背が高く、鍛え上げられた肉体を持つ美丈夫だった。
長い髪は光を受けて揺れ、森の色を映したように輝いている。
中央に立つ、ひときわ年嵩のエルフが、ゆっくりとラウネスの正面に腰を下ろした。
空気が張り詰める。
他のエルフ達は長老と思われるエルフの、後ろに立っている。
空気が重くのしかかっている。
ラウネスは喉を鳴らし、少し掠れた声で名乗った。
「ラウィル族の……ラウネスだ。次期族長として、ここに来た」
言葉を絞り出すように名乗ると、部屋の空気がわずかに揺れた気がした。
ラウネスは背筋を伸ばしたまま、正面のエルフを見据える。
年嵩のエルフは、すぐには口を開かない。
静かに、しかし値踏みするように、ラウネスの全身を眺めていた。
「……南の草原を渡る、小さき民か」
低く落ち着いた声だった。
「その若さで、次期族長とは」
「ずいぶんと急かされる運命にあるようだな」
ラウネスは、わずかに眉を寄せる。
「俺たちの世界は変わってしまったんだ」
部屋の隅で、シルヴァが一瞬だけ口元を歪めた。
それが哀れみなのか、嫌悪なのか。
年嵩のエルフは、小さく息を吐いた。
「なるほど。噂に聞くより、切羽詰まっているようだな」
テーブルの上で指を組み、ゆっくりと身を乗り出す。
「お前たちが“森の賢者”と呼ぶ存在は――おそらく、我のことだろう」
ラウネスの胸の奥で、何かが静かに噛み合った。
やはり、そうだったのだ。
長老達の話に出てきた賢者と、目の前のエルフ達は、同じ存在だった。
「……そうか」
小さく呟く。
「なら、話は早い」
ラウネスは拳を膝の上で握りしめた。
「俺たちハーフリングは、人間族に仲間を捕らわれている」
「奴隷として使われ、戻ってこない者もいる」
長老の表情は変わらない。
だが、その長い耳が、ほんのわずかに動いた。
「奪われた者の中には、獣人もいた」
「それと――」
一瞬、言葉を選ぶ。
「一人だけだが、エルフも居たと聞いている」
沈黙が落ちる。
空気が、ひどく張り詰めた。
木の軋む音が、やけに大きく響く。
後ろに居るエルフ達は、瞳に怒りを隠そうともしなかった。
やがて長老は、ゆっくりと目を細めた。
「……その話、どこまで、確かなものだ?貴様自身が見たものか?」
「逃げてきた者から聞いた。ここにも連れてきている。一度見ただけだと言っていたが、気になるなら直接聞いてみるといい。」
長老は視線を伏せ、しばらく考え込む。
隣のエルフが何か言いかけたが、長老は小さく手を上げて制した。
「……分かった」
そう言って、再びラウネスを見る。
「すぐに答えは出せぬ。だが何ができるか考えてみよう。だが、お前の話は、長老として無視できるものではない」
ラウネスは、深く頭を下げた。
「それで十分だ。話を聞いてもらえただけでも、感謝する」
長老は、わずかに口元を緩める。
「礼を言うのは、まだ早い」
「まずは――」
扉の方へ、視線を向けた。
「ここで旅の疲れを、癒していけ。しかし、お前達の期待に応えられとは、限らん」
「覚悟はしておけ」
シルヴァが一歩前に出る。
「では集落の案内は私が続けよう」
ラウネスは立ち上がり、胸の奥に残る緊張を噛み締めながら、頷いた。
エルフが使う器具も主にドワーフと交易で仕入れたものになり、武器は青銅の物は貴重です。




