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三題噺もどき5

思考

作者: 狐彪

三題噺もどき―はっぴゃくきゅう。

 




 首をほぼ真下に向けるような姿勢で、本を読んでいる。

 短い休み時間は、こうして時間をつぶすしかない。

 内容を見られて困るわけではないのだけど、なんとなく、机の下、膝の上に本を広げている。

 ある、うそつきの話。読んだところで、何も刺さるものはないのだけど。昔から、読書が好きでよく読んでいるが、学びになるようなことはなかった。頭が悪いだけかな。

「……、」

 窓から入り込む風が、やけに冷たくて目が冴える。

 授業中ならありがたいことだが、今は休み時間だ。

 空気の入れ替えだなんだと言って開けるのはいいけれど、寒いのは勘弁してほしい。

「……」

 これで、昼間は暑いとすら思えるのだから、おかしなものだ。

 今までの冬の正装と言えば、コートにマフラーに手袋にと、全体的にもこもこしていたのに。

 それが通用したりしなかったりするのだから、服装を考えるのも面倒な時代になった。

 寒いと思えば暑くなったり、暑いと思えば寒くなったり。

 ……これで体調管理に気を付けましょうなんて無理があるだろう。

「……」

 先週末、2日間の日程で行われた共通テスト。

 あまり興味がないので、詳しい事は知らないが、まぁ、先輩方は何とかできたらしい。これから、受験校のための勉強に集中すると言っていた。今までもやっていたけどより一層という事だろう。

「……」

 難しいモノだな大学受験というのも……共通テストを受けたうえでさらにテストや面接があるのだから。一応、推薦というのもあるのだけど、枠が決まっているから、人数は限られている。それに先輩が受ける大学はそもそもその枠を学校が持っていないらしい。話を聞いていると、色々な大学があるのだなぁと思う。

「……」

 まぁ、私も来年にはそれを考えないといけない立場ではあるのだけど。

 特にやりたいこともなければ、夢も目標もなく、興味のある分野というモノもない。

 先を考えようとすると、すぐに視界が塗りつぶされるような奴が、そんなことをまともに考えられるわけがないだろうに。

「……、」

 その点、あの子は、よくよく考えているらしい。

 それこそ、中学の頃からつきたい職種というのがすでにあったのだ。

 それなりに珍しい職種ではあるが、専門の学校があるのだと言う。

 私はそこに行く予定だよ、と教えてくれた。

「……」

 まぁ、それなりに、思うことはある。

 多分、一緒の大学には行けない。

 あの子の行きたい学校は県外にある。もう、その時点で私は。

「……」

 ついていく必要なんてないのだけど。むしろ、憑いていくなよ私という感じだが。

 なんとなく、惜しいと思ってしまうのは、許してほしいものだ。

「……、」

 ガリ―と、口の中に放り込んでいた飴玉を噛む。

 口の中には、すっぱいような甘いような、何とも言えない香りが広がる。

 眼は文章を追って、手は本に沿えて。

 頭は、違うことを考えている。

「……」

 あの子と過ごすようになってから、知らぬ間に。

 奥底に芽生えたよくわからない怪物のようなモノが、時折顔を出す。

 名前の付けようもないソレは、ただかき乱すだけかき乱して、痕を残して沈んでいく。

「……」

 今だってそう。

 ほんの少し、考えただけなのに。

 別の事まで引っ張り出して来て。

「……」

 あの子にはあの子の生活がある。あの子の交友関係がある。

 私の知らない所だって、私の見ていない所だって、私に隠している所だってある。

 それを全部知ることは出来ないし、自分の物にしたいなんて思ってもいけない。

「……」

 誰かと話している姿を見て、どうしてなんて、思ってもいけない。

 誰かと楽しそうにしているのを見て、なぜなんて、思ってもいけない。

 ……いっそ、誰にも会わないようにしたいなんて、思ってもいけない。

「……、」

 ―ぱたりと、本を閉じる。

 もうそろそろ、授業が始まるころだ。

 見れば、黒板の前では、すでに教師が授業の準備を進めていた。

 次は、国語の授業か……。












 お題:うそつき・噛む・正装

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