⑦
ユーリカは、視線を落とし眉間に皺を寄せた。何かを考えている様子だった。しばらく沈黙が続いて、我に返ったかのように、ユーリカが言葉を発した。
「お金は、いくらぐらい払えばいい?」
ユーリカは言いながら、腰に付けた小さな袋に手を入れる。お金を取り出すのかと思ったけれど、出て来たのは紐で縛られた紙の束だった。紙には何か組織のような名前と、お金を示す印が描かれてある。
「望む金額を、言ってくれ。いくらでも、君に渡そう」
冗談なのか本気なのか判然とはしないけれど、わざわざ冗談を言う意味も分からないし、突飛な行動をするタイプにも見えないので、きっと本気なのだろう。ユーリカが持っている紙の束が、どういう原理なのかお金に変わるに違いない。
けれど、僕にはお金は必要なかった。
「しかし、君の今の生活は、自覚もあるだろう、良いとは言えない。むしろ、最低限よりも下に位置しているよ。この村で唯一、私を助けてくれたんだ。私は、アラムに報いたい」
「だったら――」
僕はぐいっと、座る彼女に身体を寄せた。そして、ゆっくりと彼女の腰間にある剣の柄に触れる。
ユーリカは、何をされると思ったのか、慌てて足の間を閉じた。僕から少し距離を置いて、身構える。緩んでいた身体は硬直しているようで、肌の奥で、ごつごつと筋肉が盛り上がっている。はっはっ、と息を何度も小刻みに吐いて、呼吸を整える。数秒が経過して落ち着きを取り戻し、ユーリカは再び脱力してくれた。
「す、すまない。君も年頃だものな、そういうことを望むこともあるか。しかし、私など、このような見た目だ。身体も硬い。それに、経験のない私では上手くしてやることが出来ない。十分に楽しめないと思うが……」
頬を赤らめながら、ユーリカは言った。今度は僕が当惑し、理解した後、赤面する。両の掌を突き出し、彼女の前で懸命に振る。
「ち、違うよ! そうじゃない。そういうことじゃないんだ。ご、ごめん、勘違いさせてしまって」
訂正のために必死に身体を動かす。徐々に、床板代わりに敷いていた布がめくれて、膝が直接地面に擦れ始める。僕は膝の痛みで布がめくれていることに気が付いて、そそくさと、それを直した。ユーリカは床の布を指先で弄って、その感触を確かめているようだった。
「ユーリカ、貴方のその剣は防衛用? それとも、使えるのかい?」
布を触っていた指先が、剣の鞘に移動する。人差し指が這うようにして鞘を撫でる。その仕草は、大切な何かに愛おしさを伝えているようだった。
「使える。私の身体の一部と言っても、過言ではないくらいにね」
「だろうね。そんな気がしていたよ。ねえ、ユーリカ。お金はいらないし、当然、君の身体をどうこうさせてほしい、なんてことも言わない。とても魅力的ではあると思うけれどね。僕はね、貴方にその剣で、僕の身体を命と魂ごと斬ってもらいたいんだ」




