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僕と勇者  作者: 将花
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 村人たちは彼女を囲んだ状態のまま、一歩ずつ距離を詰め始めた。出て行かないのなら、動けなくする。言葉にせずとも、集団心理が僕の頭の上でふよふよと、自我を持たずに浮かび流されていく。


 身の危険を察知した彼女は、未だ剣を抜く様子はない。ただひたすらに、「お願いします」と頭を下げ続けていた。下を向く彼女の顔から水滴は、零れていない。けれど、地面はひどく濡れているように見えた。


「ボロ小屋でもいいなら」


 僕がそう言うと、村人は一斉に僕に視線を向けた。さっき、僕の名前を懸命に叫んでいた男は息を吹き返したようにまた「アラム、アラム!」と叫び始めた。呼応して、村人たちが僕の名前を呼び始める。まるで、【アラム】という単語が呪いの言葉であるかのように。


 僕は立ち上がって、膝についた砂を払った。その動作を、村人たちは怪訝な目で見つめる。僕は彼らの視線を無視して、彼女に歩み寄った。身体中の血液が沸き立ち、踊り始める。彼女の側の空気は、これまで嗅いだことがないほどに澄んでいた。


「まともな食事を出すことはできないけれど」


 僕がそう言うと、彼女は歪な笑顔を向けた。身体と心が手を離し、背を向けてしまっているような姿が見えた。


「慣れているから、大丈夫」

「そう。それならよかった」


 僕の名前を叫ぶ村人たち。僕と彼女は、嫌悪の合唱が広がる海をかき分けて、強風が吹けば吹き飛んでしまいそうなボロ小屋へと向かった。


「ありがとう、助かった」


 彼女はお礼を言ったけれど、宿としては不十分な部屋と、食事とは呼べない残飯しか僕は差し出すことが出来ない。お礼を言われる方が、申し訳ないほどだ。


「お父さんと、お母さんは?」

「いないよ。二人とも、既に死んでしまっている」

「……もしかして、魔物に?」

「さあ。村人たちが僕に向ける目を見ただろ? あれは両親のせいなんだ。すごく嫌われていたから、人に殺されたかもしれない。僕としては、どちらでもいいことなんだけれどね。だから「変なことを聞いてごめんなさい」なんてことは、絶対に言わないでおくれよ。そっちの方が不愉快だからね」

「そう。分かったわ」


 僕は彼女に、汚らしいゴザを寝床として使うように言った。彼女は、僕の寝る場所を奪ってしまうことに罪悪感を感じたようだけれど、当の本人である僕がそうしてほしいと願っているのだから、それは罪でも悪でもない。


「君の名前は、アラム、でよかった?」

「うん。そうだよ。それで大丈夫。貴方の名前は?」

「私は、ユーリカ。浮浪者よ」

「旅人、じゃなくて?」

「そんな上等じゃないもの。私は、亡霊のように彷徨っているの」

「貴方が幽霊なら、僕はもしかしたら呪い殺されるのかもしれないね」

「怖い?」

「ううん。むしろ、大歓迎。僕はずっと、何かに殺されることを望んでいるんだ」

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