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僕の両親は、村人たちから聞くところによると、盗賊紛いのことをしていたらしい。僕が物心つく頃には既に村から出ていたので、僕は顔すら知らないのだけれど、村人たちにとっては顔も見たくないようだった。
魔物たちに襲われた村や街に出向き、そこで残された金品を漁り売り捌く。そういった輩は魔王が君臨する暗黒時代には多くいたらしく、僕の両親もそんな輩の内の一つだった。正規、と言うのもおかしいけれど、もとより盗賊であった人たちはそれぞれ、何処かしらのグループに所属していた。そうした方が効率がいいし、何より、犯罪集団とはいえ規則は必要なものだった。無秩序であれば、それはすぐに崩壊してしまうことは、何より明白だ。
だからこそ、僕の両親はすぐにこの世を去ることになった。原因は定かではないけれど、自己中心的な振る舞いによって盗賊グループからは恨みを買い、村人たちからは忌み嫌われていた。魔物によって殺された可能性もあるけれど、人の手にかかった可能性も、十分に高かった。
両親が村を出て行き命を落としたことで、僕には身寄りがなくなった。兄妹もいないし、親戚も随分と前に街へと拠点を移していた。
僕は村人たちの、温情、という名を皮にした、飼育を受けた。
人らしく生きるための家は提供してくれたが、それ以外の衣食は基本、破れて衣類の機能を失った布切れだったり、ゴミにする予定の食べ残しをもらった。小さい頃の僕は、それを普通なのだと思って受け入れていた。
年齢も十六になって、僕の身体は平均よりも細く骨ばっている。十分な栄養が確保出来ていない、と悟ったのは、二年前ぐらいだ。いまいち力が入らなくて、それぐらいの頃から家から出ることが少なくなった。家から出たところで何かすることがあるわけでもなく、仕事をしようとしても、村人たちがそれを断固として許さなかった。むしろ、外に出て来るな、と鋭い視線が見えない槍となって、僕の身体のありとあらゆるところを突き刺してきた。
ゴブリンに殺されなかったあの日、僕は自ら命を絶つことを考えた。でも結局、考えただけで実行することもなかった。近くの家から盗んできたナイフを喉元に突きつけると、小さな傷が出来た。そこから流れ出る血と、ひりひりとする痛みが、死への恐怖を膨らました。死にたいとは思うけれど、死ぬことは怖い。そんな矛盾した感情が身体の内側で暴れ回った。僕はその日、裸になって、布切れを抱き締めながら眠った。




