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「すごく美味しいよ、ユーリカ。本当に、ありがとう。ユーリカも、一緒に食べよう」
ユーリカは僕の言葉を待っていたかのように、飛びつく勢いで袋の中から骨のついた焼かれた肉を取り出してかぶりついた。僕はあまりにも豪快なその様に、声を出して笑った。ユーリカは恥ずかしくなったのか、次の一口はとても小さくなった。ぶつぶつと何かを呟きながら肉を食べていく彼女に、耳を近づける。彼女は上目がちで、言い訳を言っていた。
「勇者時代、食べれる時に食べていないと大変だったからだな、だから、つい、癖で、かぶりついてしまったんだ……しょうがないじゃないか」
僕の口角は自然と上がり、目が細くなる。気にする必要もないことだろうけれど、笑った僕も悪い。僕は謝って、彼女にいつもの食べ方で食べて欲しいとお願いした。ユーリカはまた笑うから嫌だ、と拗ねていたけれど、ちまちまと食べるのが億劫になったのか、すぐにまたかぶりつくようになった。僕はそれを見て、清々しい気分になった。彼女の食べる様は、僕の胸の中を満たしてくれるようだった。
袋の中に入っていた食料を半分ほど食べ終えて、残った食料はユーリカが買って来ていたリュックの中に入れた。さすがにそのままではリュックも食料も傷みそうだったので、入っていた袋ごと丸めてリュックの中へと詰め込む。その上から、灰色の外套も詰め込んだ。
ユーリカはリュックを持つと言ってくれたけれど、僕は自分で持つことにした。僕の外套が入っているから、というわけではなく、ただなんとなく、持っていたかったのだ。今まで何も持ってはいなかったので、物の重みをしっかりと味わいたかったのかもしれない。
村の出入り口にまで来ると、ぞろぞろと村人たちが家の中から出てくるのが見えた。僕は振り返って、村とその中の人たちを眺める。村人たちはまた、手に剣や銃、農具類を持っていた。誰も、僕が村を出て行くことを気に留めてすらいない。別に構わないと思ったけれど、村人の中の一人がユーリカの剣を持って構えているのを見て、怒りを覚えた。村人であったはずの僕を敵であるように見ていることよりも、許しがたかった。けれど、怒りはユーリカに宥められて、しぶしぶ抑えつけられた。
村の外から村を見ると、こんなにもちっぽけだったんだなと思わされた。僕は、こんなちっぽけな世界の中でずっと生きてきた。ユーリカが言っていたように、本当の世界はもっと広いはずだ。僕は辺りを見渡した。草原や砂地、遠くには密集した樹々もあって、地平線の向こう側には何があるのかすら分からない。




