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「だったら、村人たちから取り返そう。協力するよ」
「いいや、大丈夫。別にあの剣じゃないと駄目、なんてことはない。どこかの街で新しい剣を買えばいいんだ。私は、君に危険なことはしてほしくない」
「でも、ユーリカ」
「大丈夫。大丈夫だよ」
ユーリカは、何度もそう言った。それは、僕に向けてなのか自分に向けてなのか。彼女の過去を知らない僕でさえ、そんな疑問を持った。
僕は、ユーリカの右手を両手で握った。こんなことでユーリカが安心するとは思えないけれど、何もせずにはいられなかった。彼女は微笑みながら「ありがとう」と言った。
僕たちは人気のなくなった村を歩きながら、僕が住むボロ小屋へと帰った。僕は天上に吊るされたランプに火を灯し、暗い小屋の中に微かな明かりが広がる。僕とユーリカは薄暗い部屋の中で腰を降ろして、一緒にカビの生えたパンを食べた。
「ねえ、ユーリカ」
「なんだい?」
「ユーリカは、どうしてこんな村に来たの? ここに来なければ、貴方は傷つくことはなかった。剣を失うこともなかった」
「言っただろう? 私は浮浪している。あてもなにもないんだ。疲れてお腹が空いて、たまたま近くにこの村があったから寄った、それだけのことだよ」
「……そう。それは、不運だったね」
「そうでもないさ。アラムに出会たからね」
出入り口の布が揺れる。珍しく、月の光が差し込んでいた。ユーリカの顔が、はっきりと見える。眠たげな瞼。綻んだ口元。穏やかな表情。僕は、傷もないのに、胸の辺りに痛みを感じた。じーんと、温かみのある痛みだった。
「ユーリカ、貴方は魔王が君臨していた時代の、戦士だったのかい?」
僕は尋ねた。ユーリカは少し迷ってから、首を横に振る。僕は、そうだろうな、と思った。戦士は魔法が不得手だと、どこかで聞いたことがある。ユーリカの治癒魔法は、一瞬で多くの傷を治癒するほどに強力だった。
「私は一年前、魔王を倒した。勇者ユーリカ、とそう呼ばれていたよ」
ユーリカは目を伏せる。勇者、という世界的にも大層な称号が、馬鹿馬鹿しく恥ずかしいものだと言わんばかりに。
「勇者ユーリカ。村を代表して、謝るよ。貴方にあんな仕打ちをしてしまって」
ユーリカは突然、勢いよく右の掌をこちらに差し出した。口は山形になっていて、不満気な様子がひしひしと伝わってくる。
「やめて。君には、勇者と言ってほしくない。ユーリカ、として接してほしい。駄目かな?」
「僕もそっちの方がいいよ。ただ、ユーリカが勇者としての矜持を抱いているのなら、と思ってね。それに、実は言うと僕は勇者を恨んでいるところもあるんだ」
「……そう。大丈夫、恨まれているのは慣れているから」
世界を救った勇者。そんな彼女と、恨み、は縁遠いはずだった。
「どうして勇者が恨まれるの?」




