⑪
身体の感覚がぼんやりとしてきたところで、不意に衝撃が消えた。絶え間なく身体に降り落ちていた暴力は、音は変わらず鳴り響いているけれど、何かが触れる感触がない。僕はいよいよ、死ねるのかもしれない、と思った。
薄く開く視界の中に映る。僕の身体が死に絶えようとしているのではなかった。痛みも感触も衝撃もなくなったのには、明確な事実と理由があった。
ユーリカが、僕の身体を覆って、僕の代わりに彼等が振るう痛みを受けていたのだ。ユーリカは四つん這いの格好で、後頭部や背、臀部に幾つもの打撃を受けている。小さな呻き声が、彼女の身体の下にいる僕にだけ聞こえた。
苦悶の表情、悲痛の呻き。僕は産まれて初めて、怒り、という感情に震えた。どれだけ自分の血が流されても、どうでもよかった。けれど、ユーリカが苦しんでいるのを見るのは、生きたまま自分の内臓をかき回されるようだった。
「どうして、こんなことをするの、ユーリカ」
バキッ、と音が響くと、僕の顔の横に銃身が落ちてくる。落ちてきた銃身に銃把はなく、叩きすぎて折れてしまったらしい。僕は少し、安堵した。銃が折れたことで、打撃一つ分だけ、ユーリカを苦しめるものが減る。僕は、赤い血がべっとりとついた銃身を見ながら、肺の奥底から息を吐いた。
「――うあぁぁっ!」
ユーリカが叫んだ。僕は目を見開いて、彼女の背の先を見る。あろうことか、折れた銃を持った男は、それを捨てることをせず、折れて針のように尖った先を、露出されたユーリカの肌に突き刺していた。背中からわき腹を辿り、臍に到達する前に重力によって、血が落ちる。
落ちたユーリカの血は、僕の腹の上で僕の血と混ざり合った。
僕はユーリカの腰に手を伸ばす。剣の柄に手をかけて、一気に引き抜こうとする。しかし、ユーリカが僕の手を強く握りしめて、引き抜こうとする動作を制止させた。
「ユーリカ、離してくれ! 僕はもう、我慢ならない。彼らは、魔物以下だ!」
全力を注いでも、ユーリカに握られる僕の手は微動だにしなかった。痛みもない絶妙な力加減。ユーリカにとって僕の動きを止めるのは、赤子を相手にするのと変わりはないように思えた。
「いいんだ、いいんだよアラム。彼らもいずれ満足する。それまで、耐えればいいだけの話なんだよ。私はね、アラム。もう誰も、傷つけたくはないんだ」
打撃音が轟く。一度二度三度四度……。
彼女の叫びが響く。一度二度三度四度……。
彼女から滴る血は、地面の上で血溜まりとなって、世界に沁み込むようにゆっくりと土に吸い込まれていく。




