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僕と勇者  作者: 将花
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 目を覚ますと、活気に満ちた村人たちの声が耳に届く。僕は随分と眠ってしまった。重たくなった身体を何とか起こし、家の中のただ一つの部屋に明かりを灯した。天井から吊るしたガラスで火種を囲っただけの簡素なランプが、僕の視界を明るくする。僕の住む家には窓がなく、扉の代わりとして出入り口に垂らしてある白い布の隙間からしか陽の光は入って来ない。


 村人たちに気付かれないように、出入り口の布を少しめくる。陽の強さからして、太陽は真上にあるようだ。覗き見る村人たちはせっせと動いて、懸命に働いている。男は大きな丸太を運んだり、食料のたくさん入った木箱を次々と開け、壁のない商店に並べている。女はそれらの手伝いをする者もいれば、子供をあやしていたり、食料の買い出しに勤しんでいる。


 僕はめくった布から手を離し、申し訳程度に敷かれたゴザの上にもう一度寝ころんだ。随分と寝た。昨夜は多分、陽が落ちてすぐ眠ったのではなかったか。頭が、どんよりした曇り空のように重い。脳の動きも、打ち揚げられてから時間の経った魚のように鈍い。


 魔王が倒されてから、一年が過ぎた。


 一年前、魔王は世界を蹂躙しようと、獰猛な魔物たちを使役し、人々を襲った。この村にも緑色の体躯をしたゴブリンと呼ばれる魔物がやって来たことがある。ゴブリンは背丈は人間の大人よりも少し小さめで、痩せ細っていた。異常な鷲鼻が特徴的で、何よりひどかったのは、匂いだ。十メートルほど離れていても、生ゴミに排泄物を混ぜたような匂いが漂って来たのを覚えている。


 幸い、ゴブリンの力はさほど強くはなく、村人たちだけで撃退することが出来た。けれど、それでも被害がなかったわけではなく、大人が二人殺された。村一番の力自慢であった者と、その友人だ。ゴブリンを退治した後、彼等の葬儀が行われたけれど、僕は家の中から出ることはなかった。出るつもりもなかった。


 僕はその時、ゴブリンを強く恨んだ。何故、彼等を殺したのだ、と。数十人の村人から滅多打ちにされて、既に原型を留めていなかったゴブリンの死体に向けて、僕は怒りの咆哮を放った。


「どうして、僕を殺さなかった」


 僕はあの日、ゴブリンが現れたという話を聞いて、すぐに家を飛び出した。そして、誰よりも真っ先にゴブリンに向かっていった。武器も持たず、ただ、異形な存在に向かって、そこに欲していたものがあると信じてやまず、一心不乱に駆けた。


 ゴブリンは僕の脳天を平手打ちして、僕の意識を奪った。それだけだった。意識が戻った時には十メートルほど離れていて、僕は残り香に顔をしかめながら、力自慢の腹部がゴブリンの右手に貫かれるのをじっと見ていた。土の味と血の味が口の中に広がって、力自慢の彼が地面に倒れ込むと同時に、僕は地面に唾を吐いた。

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