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在家宿浄水場

作者: 羽生河四ノ
掲載日:2025/08/27

 いつも利用する、コクバ、浦和駅の国際興業バスの乗り口で、不意にある事を見つけた。その時、私はなろうの水について考えていた。2025年夏ホラーのテーマである。水。その事について考え事をしていた。

「水。水ねえ。水なあ」

 何かが、降ってくるのを待っていたというか、その様な状態の時、水というものについて考えていた時、不意にそれが目に入った。あるバス、コクバのある方向、いつも乗らないバスの終着地点。電光掲示板。そこに、

「在家宿浄水場」

 という文字が現われたのである。左側から右側へ。その文字、六文字が流れた。枠の左側から出現した在家宿浄水場。それはすぐに、枠の右側にぶつかって消えて行った。在家宿浄水場の文字。勿論、初めて見たという事は無かったと思う。でも、正直、それまではそれ、在家宿浄水場は自分には関係ないモノであった。自分が行くことはない場所。コクバの区間定期ICカードで行ったら、過料分のお金を接収される。それくらいのものであった。

 ただ、水。なろうの夏ホラー2025のテーマ、水、にそれは該当するように思えた。在家宿浄水場は対象になるように思えた。

「……」

 暫く考えたのち、バス二本分くらい行ってしまう時間のかけたのち、私は在家宿浄水場に行くことに決めた。現地を見て、浄水場を見て、何か思いつけばいいなと、そういう希望的な感情。まあ、とにかく何かあればいいなと、何か心の琴線に触れればいいなと、それを経て何かが思いつけば、何かが降ってくればいいなと。

 私は、在家宿浄水場行のバスに乗った。

 バスの旅という程でもないが、それまでもコクバには色々と面白い事をしてもらっている。その最たるものは、赤羽から池袋まで行くバスに乗る事である。あるいは池袋から赤羽までのバスに乗るという事でもいい。約三十分程かな、あるいはもっとかも、道の込み具合などによっては、もっとかかるかもしれない。そのバスに乗るのは楽しい。電車で、高崎線とか、伊勢崎線とか、そういうの、あるいは上野東京ラインとか、熱海行とか、浦和駅で五番線に来る電車に乗れば赤羽の次はもう池袋で、十分くらいで着く。でも、それだとすぐに感じる。すぐ着いちゃうって思う。それも面白くないとは言わないけど、でもああもう着いちゃったなって思う。

 そう思うのはおそらく、私が、たまに、週末とかに赤羽からの池袋行きのバスに乗るからだろうと思う。それに乗ると三十分から時間を要する。なんというか、庶民にはいい時間の使い方というか、たまにやるといい気分転換になるというか。実際車窓の風景も楽しく感じる。勿論万人に受け入れられるとは思わない。他人によってはそうは感じないかもしれない。ただ、たまたま私はコクバの区間定期を自らのスイカに入れている。だから、楽しませてもらっているだけの話。

 そのバスに乗る際は、kindleなんかも読まない。車窓の風景を眺める。何車線もある高速道路然とした道から突如、片側一車線の狭い道に入る所が、最も見せ場だと思っている。さっきまであんなに広い道を走っていたのに、突然狭い、住宅街を抜けていく感じの所。その道に入る時は、なんというか、興奮する。

「うおおお」

 って思う。

 池袋に着くと、南池袋一丁目の交差点に向かう。無敵屋のラーメン屋さんがある所。そこから東通りに入っていき、それを抜けると雑司ヶ谷霊園にたどり着く。朝の雑司ヶ谷霊園は荘厳である。厳かに感じる。それに静かだ。そうして堪能したのち、池袋駅に戻り赤羽行のバス。コクバのバスに乗って帰る。バス往復一時間ちょい、雑司ヶ谷霊園までの移動、十五分程度、往復三十分。雑司ヶ谷霊園滞在三十分とか。二時間だけのバカンス。そう言ってしまうのは恥ずかしさ、気恥ずかしさを感じるが、でも、楽しい。道中はなるべく何も考えない。

 他にも志木から浦和までのコクバも面白いと思う。やはり秋ヶ瀬橋の辺りはいいと思う。その辺りはしょっちゅう渋滞していてダイヤが乱れるのだけが少しあれだけども。

 在家宿浄水場に行くバスも、その赤羽池袋間、あるいは志木浦和間のバスとなるべく同様のスタイルをとりたいと思った。初めて乗るバス、正確には初めて乗るバスではないけど、でも、在家宿浄水場まで行くのは初めてだった。初めての場所、停留所からはなるべくスマホもカバンにしまって、kindleも読まないことにして、車窓の風景を眺めた。

 夏の盛りであった。外は暑いんだろうなあ。そう思った。在家宿浄水場の周りは涼しかったりするんだろうか。そんな事を少し期待したりした。バスはどんどんと知らない場所に入っていく、向かって行く、もうここがどこだかもわからない。そういう感覚はあったものの、不安には思わなかった。コクバの走っている所であれば、私は不安を感じない。

 やがて、到着した在家宿浄水場。周りには田んぼが広がっていた。そういう場所に在家宿浄水場はあった。あと浄水場の向かいに介護ホームだろうか、そういうのが一つ建っていた。在家宿浄水場迄のバス。最後まで、終点まで乗っているのは自分一人だった。一人で浄水場の前に降りた。そしてそこに思いがけず周りに田んぼが広がっている、稲穂が風に揺れている、そういう光景を見た。実家の事を思い出した。実家の。母方のばあちゃんちの周りの様な光景。田んぼが広がっていて。雪が降ると真っ白になって。生前の父はよくその光景を見ては、

「サロベツ原野だ」

 と言って馬鹿にしていて。

 そういう事を思い出した。しかし、遠くには、おそらく新都心の辺りだと思うのだけど、大きな、そこからでも見える位大きなビルが何本か見えて、それが圧倒的に母の実家、ばあちゃんちとは違う感じがして。でも、それでも、

「……」

 いいなあ。そう思った。いいなあ。ここ。いいなあ。

「しかし、それにしても」

 あっついなあ。暑い。バスは私一人を下ろすと、そのまま浄水場の前の道を行ってしまって、角を曲がって見えなくなった。浄水場はもちろん、入ることが出来ないようだった。用がある方は受付にいらしてくださいとの注意書きが書かれている。私だって当然入るような事は考えていない。なにせただ、なろうの夏ホラー2025のテーマ水について考えたいだけだったから。

 バスをおりて炎天下の下、私はスマホを出して、周囲の事を探る事にした。在家宿浄水場。その周りにおばけが出る。そういう事を考えた。しかし、出なさそうな。出なさそうな気がした。夜になったらまた違うかも知れない。浄水場と老人ホームしかない。他は田んぼだ。真っ暗になるんだろうな。勿論、遠くには家々だって見える。でも、真っ暗になるんだろうなあ。だから、出るんだろうか。出るかもしれない。出るって言ってもいいかもしれない。何かしらの怪異が発生しても構わないかもしれない。

「でもなあ」

 嫌だなあ。ここを夏ホでおばけが出る場所にするのは。なんか、嫌だなあ。

 ぶっちゃけ、その場所が気にいったのだ。私は。降り立った瞬間から。もっと言えば、バスが知ってる場所を過ぎて、知らない、見覚えもない、初めて見る場所、車窓を見ている時からもう、

「なんか、嫌だなあ」

 そう思っていた。夏ホに向けて、ようつべで怖い話の動画とかも何個か見た。肝試しに言ったらなんか出た。遭遇した。仕事で行った先になんか居た。遭遇した。遊びに行ったら遭遇した。そういう話を在家宿浄水場で書こうと、何かしら書けたらと、思い付いたらなあと、そう思ってたのだけど、

 でもなあ。

「嫌だなあ」

 寧ろ、誰にも教えたくない。ここの事を。

 在家宿浄水場のこの周りの事を。立派な、大きな、デーンとした浄水場。向かいに老人ホーム。あとは田んぼ。稲穂がキラキラと風に揺れて。遠くに家々。彼方の空にはビルが聳えているのが見える。いい天気、良すぎる天気。暑い。帽子もかぶってない。日陰となる場所も存在しない。そんな光景。そんな場所。

 そんな場所を夏ホにしたてるのが嫌になった。

 しかし、スマホで調べてみると、浄水場の近く、もっと行った所、バスが消えて行った方に、動物指導支援センターという名前の設備があるのを発見した。

 動物指導支援センター?

 それが何かを調べてみる、炎天下の下で、浄水場の中に水の流れる場所があるのか、光がキラキラと反射して見える。それを眺めながら。はたして、保健所のようなものなんだろうか。そうかもしれない。Googleに動物指導支援センターと入れると、予測検索欄に、

 動物指導支援センター 殺処分

 などという言葉が出てくる。

 そこで、思い付いた。

「動物の霊が出る話は?」

 以前、誰かが書いた話で、保健所で害獣を水に沈めて殺すというのを読んだことがある。それを思い出した。それを読んだ時、まま、そうなんだろうと思った事を思い出す。特別な手段を用いての殺処分は費用も掛かるだろうし。水に沈めて殺すんだったらまあ、水さえあれば。簡単、簡単とは言わないけどでも、準備するものは少なくて済むかもしれないし。

 浄水場の近くに、動物支援指導センター。

 そういう話はどうだろうか。

 なろう。夏ホ。2025。水。

 動物霊の話。

 そこで、それで、だから、私は、動物指導支援センターを見に行こうと思った。

 イメージをもう少し。

 コップの水をもう少しだけ。

 話、お話にできるまで満たすために。

 それから、浄水場。バス停留所から歩き出して、すぐ。

 動物指導支援センターに向かって歩き出してすぐ。

 少し先の右手の田んぼの中から、蛇が出てきた。

 白い蛇が出てきた。

 真っ白な。

 蛇。

 大蛇とは言わない。

 でも、

 蛇。

 白い蛇。

 私は突然の事に驚いてしまって歩くのを止めた。

 蛇は鎌首をもたげて私の事を見ていた。

 口を開いて、先の割れたした、スプリット・タンを見せ、牙を剥いて、あの独特の眼でもって、私を見ていた。他には目もくれず、ただ、私の事だけを見ていた。

 まるで、

 これ以上私にあちらに、動物指導支援センターに行かせないように。

 まるで、

 私の考えた事が邪な事であるかのように。

 邪な。

 邪悪な。

 モラルに欠ける。

 配慮に欠ける。

 害悪な。

 劣悪な。

 事であるかのように。

 蛇は、

 白蛇は、

 私の事を見ていた。

 結局、動物指導支援センターにはいかなかった。そのままUターンして、私はバスの停留所に戻った。やがて来たバスに乗った。家に帰った。

 それから今日まで、そういう、在家宿浄水場と動物指導支援センターに関しての話、浄水場迄行って思いついた話。そういう話を書こうとした。

 何度も。

 でも、書けなかった。

 考えた話を書こうとすると、コップが割れたり、家のブレーカーが落ちたり、チャイムが鳴りやまなくなったり、水道から出てくる水が錆色になったりした。それでも何とか書こうとすると今度は頭痛が止まらなくなり、爪が割れて根元からとれた。今は誰も住んでいない集合住宅の上の部屋から水漏れがしたりした。何も含んでいないのに突然舌に痛みが走って、鏡で見ると刃物でスパッと切られたみたいな傷が出来ていて血が噴き出していた。

 だから、書かない事にした。

 これで、これがギリギリだ。

 いや、もしかしたら、これだって、

 もしかしたら、

 もしかしt

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― 新着の感想 ―
夏帆テーマのために、取材に行かれる実践力が、四様さすがですの。 エッセイのような雰囲気から一転、最後は本格ホラーでしたね。 『コクバ』使ってくれて嬉しいです、コクバの文字にふれるたび、きゅうんとな…
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